第三十四話 時間稼ぎ
「わかりましたわ、つまり、時間稼ぎをすれば良いと言うことですわね!」
到の言葉を聞いたみゆりが、剣を構えて巨大ロボに立ち向かっていく。
あの鉄の塊に効くとは思えないが、だからといって何もしないという選択肢はない。むしろ、足止めだけでもさせればいいと思えば、気が楽なくらいだ。
それに、せっかくフィリアがカケラの効力を聖剣から分離させてくれたのだ。もしかしたら、少しくらい効くかもしれない。
一縷の望みをかけて敵の足首を狙う。
「はぁぁーっ!」
ガキィィン!!
さすがに一太刀で分断は出来なかったが、みゆりのスピード重視の攻撃で少しはダメージを与えられたようだ。ロボットの足下がぐらつく。
みゆりは剣士なので巨大ロボの上部は距離的に狙えないが、ルーファウスは逆に頭部を狙い火球をぶつけ始めた。その姿は、以前共に戦ったルシフェルを思い起こさせる。懐かしい……。あの時も皆で力を合わせて戦った。今までルーファウスには距離を感じていたが、少しだけ妙な親近感を覚えた。
しかしそう感慨に耽っている場合ではない。火球は時間稼ぎが目的のため、威力を制御していることもあるが、効果は今一つだ。頭部にはやや焼け焦げたような痕があるものの、ダメージはさほど与えられていない。
巨大ロボは火球を五月蝿いといわんばかりに、その長い腕を振り回してくる。しかし、鎧を着ているせいか速度はあまりないので簡単に避けられる。
みゆりや到がその攻撃を軽々とかわしていると、当たらない攻撃に腹を立てたのか、巨大ロボは床を拳でドガアンと叩きつけた。
そしてその衝撃でみゆりも到も後方へ吹き飛ばされてしまった。
「きゃぁっ!」
「うわっ!」
ドシンッと床に身体を打ち付ける二人。
みゆりは打ち所が悪く、膝から出血している。立ち上がることも困難だ。
「う………」
まずい。このまま動けずにいては攻撃をもろに食らってしまう。みゆりが焦り出したその時、パアッと光が身体を包んだ。回復魔法だ。幸広がこちらに聖杖を向けている。
「大丈夫か、みゆり!」
「え、ええ!」
傷はすっかり塞がった。恐る恐る立ち上がるが痛みもない。
「到も無事か?」
今度はラファエルが声をかける。
すると彼はすっくと立ち上がり、膝をパンパンと払っただけで何事もなかったような顔をした。
「ええ。来ると思ったので受け身を取りました」
「えっ、到さんって、もしかして、身体能力高いんですか?!」
「………なんですか、その言い方。まるで僕が鈍い男みたいじゃないですか……」
到が心外だと言わんばかりのジト目でみゆりを見る。
「いえ、その……いつも離れたところでの間接攻撃が多いので……」
「その方が安全だからですよ。言っときますけど、一応大学で合気道の授業があったので、接近戦もやぶさかではないんですよ」
敵の動向に目を向け、電気の石を取り出しながら淡々と話す到。みゆりは『本当にこの男はいくつ隠し芸があるのだ』と思わずにいられなかった。
到は石からまたもバリバリと巨大ロボに電気を放つ。プスプス、シュウシュウという音と、巨大ロボがノロノロと動く様を見るに、かなりのダメージを与えているようだ。
更に到は眼鏡型コンピューターを使用し
「…………半分くらいはHPを削れているようですね。この戦法で行くとして、まだまだ時間稼ぎが必要か……」
到が呟く。他方で、ネフェニーは戦闘の混乱に生じてルーテの身体を抱え、避難させようとしていた。
「おい、そいつはもう……」
ネサラが言いにくそうに眉を寄せる。彼女の手前、今更助からないとはっきり言うのも憚られたのだ。
「分かってる。でも……あのままあそこに倒れさせたままだと、敵の攻撃を受けて肉体を損傷してしまうわ……。例え彼女が望んだことだとしても、そこまでは譲れない。どうせなら、綺麗なままの身体で……」
どうやら、ネフェニーも今回の事を多少なりとも受け入れたようだ。ネサラは少しホッとした。そして、ルーテをこれ以上傷付けさせない、というのがネフェニー自身のせめてもの救いなのだろう。
「そうだな。俺もそう思う」
ネフェニーがルーテを階の入り口付近に抱えて飛んでいく間、ネサラは敵の攻撃が及ばないように彼女達の背後を見張るのだった。




