第三十一話 希死念慮
ネフェニーは衝撃のあまり言葉がでなかった。
頭の中で思考がぐるぐる回る。
そう言われれば、確かにラファエル様は光玉の魔力と自分の精神力を使い果たして亡くなった。その危険性はあるかもしれない。しかし……今回必ずしもルーテが死ぬと言うわけではないだろう。ネサラも“十中八九”と言った。きっと彼女は死なないで光玉を消滅させる方法を知っているのだ。でなければ、誰がわざわざ自分の命と引き換えに光玉を破壊するものか。
そうだ、そうに決まっている。ネサラの言うことは考え過ぎだ。
………そう、思うのに。
微笑みを浮かべるルーテの顔が。
ネサラに対して『良くできました』とでも言いたそうな顔が、ネサラの言うことに真実味を持たせる。
「ウソ………よね?ルーテ。死ぬつもりなんて……、そんな」
一縷の望みをかけて、問う。違うと言ってほしくて。そんなのはネサラの邪推だと、言ってほしくて。しかしルーテは首を振って
「ごめんなさいね、ネフェニー。だけど………やっと、探していたモノを見つけたから」
嬉しそうに彼女が微笑む。
「探していたモノ………?」
ネサラが片眉をあげていぶかしむ。
「そう………。私に相応しい死に場所を」
「!!」
その言葉で、ネフェニーは凍りついた。
じゃあ、やっぱり、ルーテは死にたがっていたの?だとしてもなぜ、こんな回りくどいことをする必要があったの?
ネフェニーには腑に落ちなかった。
光玉を破壊して自分も死んだら意味がない。逆を言えば最初から死ぬつもりなら、光玉の破壊など不要だろう。それこそネサラの言うように壮大な自殺計画だ。まさかそんなことを考えているなんて、誰が思うだろう。
「………その“相応しい死に場所”とやらがここだと言いたいのか。おまえがどこで死のうが俺の知ったこっちゃないがな。だが、他人を巻き込むのは違うだろ。身勝手にも程がある」
ネサラが放心するネフェニーを庇うように、ルーテとの間に入る。それを見て彼女は一層笑みを深くした。
「だから、貴方を連れてきたのよ。どうやら、私の見立ては間違っていなかったようね」
まるでネサラもこの計画の一部だと言わんばかりの台詞に、ネフェニーはますます意味がわからなかった。背を向けているネサラの表情までは窺い知れないが、柳眉を寄せていることだろう。声がますます剣呑になる。
「どういう意味だ」
「私だって、置いていかれる者の気持ちくらいはわかってるわ。だから、心の支えになる人が必要でしょう。貴方なら適任かと思って」
ルーテからは生きようとする気持ちが微塵も感じられない。ネフェニーが追い縋ったところで自殺を取り止める気もないだろう。短い時間とはいえ、ずっと一緒に同じ目的を持って行動を共にしていたのに、彼女がそんなことを考えていたなんてこれっぽっちも気付かなかった。
「どうして、そんなこと……。私はあなたに必要とされてここまで一緒に来たのよ?そのあなたがいなくなったら、私はどうすればいいの………!!それに、私がその計画に加担していたなんて、私、私はそんなこと……!!」
今まで何も言えなかったネフェニーも、泣きそうになりながらいい募る。
「置いていかれる者の気持ちがわかるだと?本当にそうなら、こんなことはしない。自分が逝くところをわざわざ慕っている者に見せつける……、そうやって誰かの記憶に残ろうとでも?傍に誰かがいればいい?そんな問題じゃないだろ!」
ネサラもいい加減、どこまでも平行線の彼女に苛立ちを隠せない。
「そうね、それは悪いとは思ってるわ。でもね、ネフェニー。生きとし生ける者は、いつかは死ぬものよ。特に私はあなた達ほど寿命も長くない。あなたより先に死ぬのは必定でしょう。それに、これは私が望んでいることなの。あなたが心を痛める必要なんて全くないのよ。まぁそれに、ネサラが言った通り、死ぬ確率は十中八九。もしかしたら生き残るかもね。私にとっては運の悪いことだけど」
ルーテが初めて気鬱そうにする。ネサラとしては、この女が死のうが生きようがどうでもいいが、ネフェニーのことだけは気掛かりだった。この純粋故に周りに影響を受けやすい彼女のことが。
冷静に考えれば、彼女とて子どもではないし、ある意味、そうして揉まれて強くなる他ないのかも知れないが。しかし感情としては『余計な画策しやがって』である。
「仕方ねーな。もう諦めろ、ネフェニー。今更最後の計画を取り止めるような女でもないだろうし。個人的な感情におまえを巻き込んだことはどうかと思うし、おまえも辛いかもしれないが、彼女の言うことも一理ある。死にたがってるやつを引き留めるのもこっちのエゴだからな」
「理解してくれて嬉しいわ。………聖戦士が来るまでの時間も稼げたことだし、そろそろ始めようかしら」
ルーテはそう言うと、光玉をゆっくりと撫でさすった。




