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第三話 対立

「これは……」

「博さんが騒ぐのもわかりますわね……」

地底に行くため飛竜に乗っていた幸広とみゆりが口をひきつらせた。乗り慣れていないせいで体勢が安定しない。しかも上下左右に動くので、乗り物酔いのような感覚に襲われた到は、一言も発することなくぐったりしていた。

「………連れてくヤツを間違えたか」

最前列で飛竜の手綱を握っているラファエルが、ぼそりと呟いた。こんなことなら乗り慣れている真由美を連れ戻すか、乗り物酔いなどしなさそうな久美を連れてきた方が良かったかもしれない。

しかし、だ。今回このメンバーに決めたのには、勿論それなりの理由がある。

幸広が言うには、彼だけが読める史書に地底の情報が書かれているとのことで、今回のメンバーに彼は外せない。そして幸広を連れていくとなれば、前回共に戦ったみゆりや到の方がチームワークが取れるだろうと思ったのだ。

それに、彼らは他の四人に比べて戦闘能力が低い。戦えるだけ戦って強くさせておかなければ、到底最後の戦いまで持たないだろう。

地底に行くためには北の山の窪地にある大穴を下降していかなければならない。乗っているだけで青い顔をしている三人を見て、ラファエルはやれやれと苦い顔をした。

そんな気配を察した到が初めて一言発した。

「………あの………こんなことなら……、ラファエル様の転移魔法を使えば良かったのでは……」

「私の魔法はどこでもドアじゃないんだぞ」

ラファエルはうんざり気に言った。

「なぜドラえもん………?」

「明らかに博か友美の影響だな……」

ぼそぼそと話す幸広とみゆりをシカトし、到に怒ったように説明した。

「いいか。ワープ魔法は対象となる目標物がないと発動出来ないんだ。じゃなかったらとっくに使ってるわ!」

「ええと……つまり、どういう……?」

恐る恐る尋ねるみゆりに幸広が補足する。

「要するに。行きたい場所に体しては場所を、誰かと合流したい時はその人をイメージしてワープする魔法なんだ。……おそらくラファエル様は地底に行ったことがないのだろう」

「そういうことだ」

「そう……なんですか」

みゆりが口ごもっているのが、ラファエルにも背中越しにもわかる。

「意外か?」

「え?」

「神なら世界のすべてを知っていると、思っていたか?」

「い、いえ、そんな……」

みゆりのびくついた様子を感じとり、言い方が悪かったと反省した。

「すまない。おまえに怒っている訳じゃないんだ。ただ……自分に苛ついてな」

最高神だなんだと名乗っておきながら、真実、自分は何も知らない。ノエルの手の上で踊らされているだけなのだ。リズのことだって、結局守れなかった。それどころか……

「………仕方がないでしょう、それは。ラファエル様とミカエル様が神になったのは僅か五才の時……。対してノエル様は成人していたという話ですから、情報量が違うのは当然です」

幸広がフォローをしつつ、到に情報を流す。こういう時でもなければ話題に出来ないからだ。

「えっ、五才!? そんな、やっと物心が付いた頃にですの!?」

「………そして十の時に、ノエルの提案で天使や天界を創り始め……、同時に最高神の名を与えられた。全ては、私が世界を創る力を持っていたから……ただそれだけの理由だった。実際私は何も知らなかった。ただ、ノエルの言うとおりにしていれば良かった。………笑えない話だ。そうして招いた結果が、魔物が現れ始めるという惨事だったのだからな。私が十三の頃だったか」

悔恨の念を抱きながら、彼はポツリポツリと話した。前世の記憶を多重人格化するほどだ、彼の傷は深いのだろう。今も、癒えることの無いまま。

「しかし、それはノエル様にも予測できなかったこと……。あなたが責を感じる必要はないでしょう。それよりも、今は他に考えることがあるはずです。一刻も早くカケラを集めるため、皆動いているのですから」

ラファエルは幸広の言葉を背中で聞いて、しばし黙りこんだ。

そして

「生まれ変わりのおまえに聞いても、詮無きこととは思うが……、おまえは今でもノエル側か?」

真意を問う。これには幸広が柳眉を寄せた。

「………私は、前世も今も、どちらかに付いた覚えはありませんね」

前世の記憶はほとんど無いが、少なくとも史書を見る限りはそれが真実だった。

「でも望月君……、僕のこと、おまえはあっち側の人間だって……」

到が酷く酔いながら、切れ切れに言葉を発する。いっそ呆れるほどの知的好奇心だ。

「だからだろう。だから、自然と私がノエル様と接する機会が多くなった。それだけのことだ。そもそも仕えるだなんだというのは、事実が歪曲されて伝わったもので、元々は天界にいる神々と人間界の、ただの連絡係だったのだからな」

「ということは、マリクさんがノエル様を良く思ってらっしゃらなくて、ラファエル様側に付いていて……それで自然とノエル様との連絡はスルーフ様が取ることになった、ってことですの?」

「史書に寄れば、な」

幸広が淡々と話すと、ラファエルは少し申し訳なさそうに目を伏せた。

「そうだったのか……。てっきり、マリクは私、スルーフはノエル側に賛同かと思っていたが……。考えてみれば、連絡係が二人ともノエルと接触しない訳にもいかないからな」

子供ながらにノエルに不信感のあった彼は、おそらく傍にいたスルーフも信用出来なかったのだろう。その上、重要な連絡事項は既に成人していたノエルに伝えることになっていた。子供の彼らには知らされないことも多かったはずだ。そんな状況下で信用しろという方が無理がある。

「…………あの、こういうことを聞くのもぶしつけかと思うんですけれど……。マリクさんはどうしてノエル様を良く思わなかったんですの?」

みゆりが気になったようでおずおずと尋ねた。ノエルの悪口のようで言っていいものかしばし迷ったが、事実なのだから仕方ない。

「………あの時代は、生命がそれぞれ生まれながらに天より受けた属性の力を、魔法として操るという技術があった。マリクは太陽、スルーフは月の属性に守護されていてね。二人とも才能があったようで、魔導大学校で教授をしていた。そんな頃光玉が落下し、玉に触れられるという三人に光玉が委ねられた」

ここまでは到もラファエルも知っている話だ。


幸広曰くーー

ノエルが学者だったため、光玉について調べることになったのだが、一人では限界がある。そこで今の学術都市で、多くの学者や研究者も合同で調べることになった。触れられなくても文献を調べたりと出来ることはある。二人とも教授というからには博識だったし、魔については造詣も深かったから、その調査班に招かれることもしばしばだった。それで、本業がおろそかにならない程度に協力することもあったのだとか。

だがその時から既に、マリクはノエルのやり方に不満を持っていた。


「彼は研究自体は好きだったが、その割に保守的だった。研究内容をもとに新しい技術開発を進めるノエルとは合わなかったんだ。特に、まだ幼いラファエル様とミカエル様を、その研究に関与させることを良く思っていなかった」

『僕は便利になりすぎた世界が怖いんですよ。文明や科学力が発達すれば大きな争いも招くでしょうし、人は力を持て余すようになる。生きるための知識や知恵も、時代と共に忘れられて。………それに何より、あんな幼子を僕たち大人の都合で利用したくない。研究や開発は、ノエルさんと僕たちで十分出来るじゃないですか。ただ触れられるからという理由で、彼らの意思でもないのに、こんな風に巻き込むなんて』

…………それは、スルーフも思っていたことだった。だが、帰る場所の無い彼らに、それ以外に生きていく術があっただろうか。マリクとて、そう言いながらも心のどこかで安心していたのだ。周りの大人に囲まれている間は、彼らを救えていると。


そうして数年のうちにマリクの意と反して、光玉の力を利用した多くの科学兵器が造られていった。

「研究から五年経ったある日………とうとうノエルは天使を創るという計画を実行に移そうとした。これには流石に半数の研究者が渋い顔をした」

あまりに規模の大きな話だ。命を創り出すなどと、出来るわけがない。もし失敗して恐ろしい怪物が生まれたらどうするんだ。そんな声がそこここで上がった。

マリクも異を唱えた一人だった。


『天使を創るですって? それを実行出来るのはあなたじゃないですよね? やっと十になったばかりの子に、そんな大任を押し付けるっていうんですか?! あまりにもふざけてる。もし何か問題が起きたらどうするつもりなんです! あなたが責任を取れるんですか? いいえ、取れるわけがない!』

『彼の能力は傍にいた私が一番理解している。問題が起きるとどうして言いきれるのかな? 無論、彼の負担を軽減するため私もきちんとサポートする。君は大概開発に否定的だけれど、いつまでも古い技術のままでは、そう遠くない未来にこの星は機能しなくなるだろう。ーーいいかい?地球の資源は無限ではないんだよ。新しいエネルギー源を創らなければ、この星で生命は生きていけない。そのエネルギーを光玉から創り出すのはそんなにいけないことかい? やっと十だというが、今後彼の身に何かあれば、この星を永らえさせる力を持つものは二度と現れないかもしれない。君の言葉をそのまま返すよ。もしそうなった場合、君が責任を取れるのかい? 取れるわけがないよね』

『………………………!!』


ノエルは周囲の反対を押し切って、ラファエルに天使の創造を指示した。それに伴い、ミカエルには西の島に天使の住む為の神殿や、玉を祀るための塔を造らせた。それは今までの戦いで皆が知る事実だ。

「光玉に関する調査も一区切りつき、西の島に住むようになった三神だったが、民たちと全く接触しないというわけにもいかなかった。大陸に住む天使たちの様子も把握しなければならなかったし、民の生活も気にしておられた。そこで定期的に西の島へ使いを呼ぶことにしたんだ。それを聞き、マリクが自ら志願した。どうやら幼いラファエル様のことが余程気がかりだったようでな。スルーフはマリクとは旧友だったから、必然的に同行させられたと聞いている。マリクがノエルと上手くいきそうにないことは、誰が見ても懸念材料だったからな」

「それで、懸念通りマリクさんとノエル様はうまくいかず、派閥のようなものが出来てしまったのですね」

みゆりが納得したように言った。

「………マリクが言ったように問題が起きたからな。魔物が現れ始め、彼はますますノエル様に反発心を抱いたんだ……。………ところで、そろそろ地底への入り口があるはずなんだが……」


史書に寄れば、北方の山岳地帯にある大穴から地底へと行けるらしい。それを伝えたところ、ラファエルが付近の山間部まで連れてきてくれていた。方角ではこの辺りだが、何せ霧で周りがよく見えない。

「………おそらくあの大穴だろうな」

手綱を握ったラファエルが、少し東に舵を取る。すると、その先にはまるで全てを呑み込むかのような、巨大なブラックホールが存在していた。一体どれくらいの深さがあるのか見当もつかない。

「………こ、こんな深いところを降りるんですか……」

さすがにみゆりがビビる。到は蒼白な顔でその大穴を見つめていた。

「ぼ、僕ちょっと気分が………。すみませんけど、この辺で休憩を……」

「なんだ、情けないな。そんな悠長なことを言ってる場合か。さっさと降りるぞ」

ラファエルにバッサリと却下され、悲痛な叫びをあげる到。

「そ、そんな」

「安心しろ。辛いのは一度きりだ。喉元過ぎれば熱さを忘れるというだろう」

幸広まで酷なことを言い、

「行くぞ」

「ええっ、そんなひど……」

言いかけた到など完全に無視し、奈落の底とも思える穴に下降していった。

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