第二十九話 籠城作戦
フィリアは預かった聖剣を地べたに置く。
「……………お父様。私が試してみる間、引き続き結界をお願いします」
神妙な顔をして頼み込む娘に
「もちろんだ!」
と間髪入れずに即答するラファエル。それを聞いて、フィリアは安堵の笑みを浮かべた。
(………大丈夫。お母様に出来たのなら、私にもきっと……)
ペンダントを外し、左手首にブレスレットのように巻き付ける。そしてその手を聖剣の柄の紋様付近にかざした。
パアアァ………
聖剣が光りだし、その光を魔石が取り込む。その間にも人造生命体は迫り来て、こちらに攻撃を始めた。
ガルルゥ………、ガアォッ!!
狼や獅子が、結界を破ろうと体当たりしてくる。
ドガッ、ドガッという音と衝撃に、ラファエルも動揺する。
「やはり、カケラを取られた状態では結界の強度にも限界があるな」
「みたいですね。なので今のうちに、少しでも敵の数を減らすとしましょうか」
到は鞄から魔術書を取りだし、魔法を唱える。
「テンペストボルト!!」
天上から雨雲を呼び寄せ、バリバリと雷を発生させる。
ズガァンッという派手な音と共に落雷させ、狼や獅子を一体ずつ倒すことに成功した。
ルーファウスもそれに続くように炎魔法を唱える。
「ボルケイノ!!」
地表にマグマを這わせて、結界に近付こうとする人の姿の生命体を三体攻撃する。しかし、瀕死に追い込んだとはいえ絶命には至らなかったようだ。
ノエルがトドメとばかりに召喚魔法を発動させる。シヴァのアイスダストだ。ラファエルには以前戦った氷の精霊が、味方のようになっているのが不思議な感覚だったが、彼女の強さは本物だ。例えノエルがカケラを持たずとも、発動させれば氷の精霊自身の魔法の威力は変わらない。
問題は、カケラなしで何度呼び寄せられるかということ………。
「フィリア!まだかかりそうか!」
焦り娘の方を見る。
「もう少し………」
フィリアが力を振り絞り、聖剣から魔石に光玉の魔力を移しきる。
「終わりました!これを使ってみて下さい!」
フィリアに言われ、みゆりは聖剣を持ち上げる。
持ち上げた時の感覚は、以前より少し重い。その様子を見てとって、フィリアが声をかける。
「光玉の魔力で軽量化されていたので、少し重いかもしれません……。扱えそうですか?」
「それで剣の威力が増すなら、不平は言ってられませんわ。ありがとうございます、フィリア様」
そう、僅かにだが確かに重い。しかしそれは光玉の力に頼らず戦うという、自分の信念を試されている。
「重いって言っても、デイジーが強化前から使いこなしてた剣だ。おまえなら使えるさ」
博が気楽に言う。発言からして前世の事を覚えているのは本当なのだろうと到は思った。ルーテよりもこの男の存在の方がよっぽど謎かもしれない。
「剣が使えるようになりましたし、私も攻撃を……」
みゆりが結界から出て敵に近付こうとするが、幸広が制止する。
「待て。敵の数はまだまだ多い。今外に出るのは危険だ」
「だな。俺も忍法で敵の体力を削る。だからおまえらも魔法で間接攻撃よろしく」
そう言うや否や、博が雷迅の術を唱える。そして続々と近付いてくる狼や獅子にダメージを与えた。
「わかりました!アトミックドラグーン!!」
到も炎の龍を象った魔法で追撃する。
「ラファエル様、私も結界を張って二重にします。少し体力を温存して下さい」
幸広も弱まってきた結界の効力を強化する。聖杖の聖石と魔石がある分、自分の魔法でもある程度は守れるはずだ。
「長期戦になるが……仕方ないな」
ラファエルはまだ二十数体はいるかという敵を見て嘆息する。
「あちらにはネサラが付いていった。きっと大丈夫だろう」
ルーファウスが、希望的観測を口にする。
あれが何故ルーテに付いていったのか……ルーファウスにはわからなかった。ルーテの最終目的と関係しているのか。そもそもこれらの敵は、数さえいるものの、一体一体は特別強いわけではない。地道に戦えば倒せる相手………
(…………つまりは、時間稼ぎということか………)
ルーファウスだけでなく、到や幸広もそう思いつつ、乗るしかない状況にある。
(彼女の本当の目的は………おそらく………)
三人は同じ答えに辿り着いていた。




