第二十六話 似た者同士
泣き始めたフィリアを見て、ラファエルは彼女をそっと抱き締めた。そして、視線をルーファウスに投げて
「色々と思うところはあるが、彼女をここまで育ててくれた事には感謝している。父として、礼を言う」
と嬉しそうに笑んだ。実の娘がノエルよりも自分を選んでくれたことで、彼に対する劣等感が薄れていく。なんなら今まで彼がしてきたことを許せそうな気になってくるぐらいだ。
逆にルーファウスは微妙な顔を浮かべている。それはそうだろうな、と博もちょっと哀れに思いながら見ていた。十五年も手塩にかけて育てた少女が、自分よりも会ったこともない父の方を慕っているのだから。
「ノエル様、いえルーファウス様、私がお父様に会えたのも、あなたの助力があってこそです。今までありがとうございます」
目を潤ませながら謝意を述べるフィリア。
(うわぁ……なんか生まれ変わり相手とはいえ、すごく他人行儀ですね)
(フィリア嬢は多感な年頃だからな……。本当の父ではないノエル様に心を開けないのだろう。ただでさえ父娘というのは関係性の構築が難しいというし)
到と幸広が小声でこそこそ会話していると、彼女がおもむろに寝台から降りた。
「私がお父様に会いたかったのは本心ですが、眠り続けた一番の目的は、ルーテさんとネフェニーさんの目論見を阻止すること………。私にどこまで出来るかわかりませんが、今度こそ、お父様にお辛い想いはさせません!私がお父様を幸せにしてみせます!」
(…………………。なんか、最後の方ずれてないか?)
(あれじゃまるでプロポーズですわ………)
(いや、みゆりは他人のこと言えねーだろ。綾子にキャーキャー言ってたじゃんか。私が綾さまを助けるとかなんとか)
(じゃあ第二のみゆりさんってことですか)
(えっ、私、端から見たらあんな感じなんですの?!)
(母にも娘にも袖にされたルーファウスさんは、デジャブでしょうねぇ)
(うわ、キッツー)
「お父様、彼女達の居場所に心当たりはありますか?」
皆がひそひそ言いたい放題言う中、二人の世界を作り出しているフィリアとラファエル。
「そうだな……。ネサラと言ったか。君が視たのはどんな未来だった?彼女達がどこにいて何をしているのか、その辺のことは?」
ラファエルは今まで無言を貫いていた彼に問う。何かを知っているとしたら、先読みの力のある彼だけだ。
「俺が視たのは、クリスタルタワーでルーテが光玉を使って、巨大なロボットみたいな物を作っている光景だ。それで何を企んでるのかまではわからないがな」
腕を組んで、入り口近くの壁にもたれていたネサラが口を開く。
「ロボット………?でも、ルーテさんが僕達に向かわせたのは、人造人間ばかりでしたよね」
「いや、以前私と博、みゆりは遺跡調査で人語を話す狼と戦った。あれを向かわせたのが彼女なら、能力が人間だけを生み出すものとは言えないだろう。何故ロボットなのかは気になるが……」
「そういえばそうでしたわね。それではひとまずクリスタルタワーに行けばいいということでしょうか……」
「だったら俺が送ってやるよ」
ネサラが唐突に提案する。
「俺としても、同族としてネフェニーの事は気がかりだ。元々ルーファウスと乗り込もうと思ってたとこだしな」
「ネサラ……。いいのか?君が来ては、色々と……傷つくことが多いかもしれないぞ」
ルーファウスは彼がついてくること自体、あまりよく思っていないようだ。ネフェニーとの関係を気にしているのだろう。ただの同族と言えるほど、浅い関係ではなかったのだから。しかしそんなこちらの心配とは裏腹に、彼は「けっ」と憎まれ口を叩く。
「俺はそんなに弱くないぜ。どっかの豆腐メンタルの誰かさんとは違うからな」
「…………それはまさか私のことか」
「違うとでも思ってるのか。おめでたい野郎だ。まぁその弱さが人間ってことなんだろうよ」
最後まで悪態をつきながら、彼は時空転移魔法を唱える。すると部屋が光に包まれ、次に目を開けた時には、眼前にいつか見たクリスタルタワーがそびえ立っていた。
☆ ☆ ☆
時は少し遡る。
「ようやくここまで来たわね………」
眼前のクリスタルタワーを見上げて呟くルーテ。
その隣には時天使ネフェニーの姿があった。
「………そろそろ来る頃だと思うのですが」
彼女がそう言った瞬間。
「…………わざわざ出迎えご苦労な事だな」
現れたのは、肩まであるウェーブがかった金髪をふわふわと揺らし、こちらに近付く男。彼はエメラルドの瞳で私達を捉えた。
「ノエル様……!!」
ネフェニーは、思わず息を呑んだ。
自分を長の座から外した彼とは面識があったが、再会しても、彼の美貌は微塵も損なわれていない。
髪や瞳の色もだが、色白で鼻筋の通った端正な顔立ちは、見るものを魅了する何かがあった。
だが、その美貌故近付きたいと思えないのも事実。
美しさと同時に恐ろしさを併せ持った男………。それが、ネフェニーの彼に対する印象だった。




