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第二十五話 焦がれたひと。

ラファエルの娘ーーフィリアと名付けられたその少女の封印を解くため、幸広達一行は五大都市付近のルーファウスの自宅へ転移していた。


そこの地下室に、彼女はいた。腰まである長い白銀の髪が印象的な少女だ。手を組んで寝台に横になって、眠っているように見える。だが、彼女の首から下げられている魔石のペンダントが、そうではないことを知らしめる。

魔石は微かに光り、魔力を放ち続けている。ルーファウスの言うように、封印されていることに間違いないだろう。

「本当は、私の力で封印を解いてやりたかったのだが……」

ルーファウスは悔しげに顔を歪ませる。

血の繋がりはないとはいえ、育ての親だ。彼がフィリアを思う気持ちは本物だろう。彼にしたら、ラファエルが憎いかもしれない。愛した女性はラファエルのもとに行き、娘まで産んで、せめてその娘をと育てたが、その娘も自らを封じ、本当の父親でないと封印が解けないだなんて現実を突きつけられて。

幸広は少しだけ哀れになった。だから、到やマリクのように激しく糾弾は出来ずにいる。例え彼が独善的に物事を進めていたとしても。そしてその結果がこれだとしても。


ルーファウスが魔石のペンダントを外そうと触れるが、結界が張られているようで、バチバチと電気のようなものがほとばしる。

「自ら結界を張れても、他人の結界を解くとなるとやはり無理のようだ。彼女の意思が働いている。………ラファエル。おまえならおそらく………」

ルーファウスが促す。ラファエルは頷いて前世の自分に良く似た髪色の彼女に近付く。

本当に、自分の娘なのだーー。

リズはてっきり、ノエルと恋仲だと思っていた。それを自分が横恋慕して、あげく彼女は亡くなってしまった。自分を庇って。あの時は、世界の終わりを見た気になった。希望など何もないのだと。いっそこんな命尽きてしまえと。

しかし、まさか生まれ変わってから自分の娘に会える日が来るとは。

今初めて、前世の記憶があって良かったと、心底思う。

ラファエルは感慨深げに、彼女のしている魔石のペンダントに触れる。

すると魔石の光が小さくなっていき、最後にはただの石くれのようになった。と同時に、フィリアの目がゆっくりと瞬く。

「!!」

目を見開くラファエルを前に、彼女はゆっくりと半身を起こす。

そして

「あなたが………お父様の生まれ変わり?」

リズと同じ紫の目を瞬かせて、友美の姿のラファエルに顔を向けた。


☆ ☆ ☆


なんだかずいぶん長い夢を見ていた気がする。

私が自らを封じてから、果たしてどれ程の時が経ったのか。

私がノエル様に、そう願ってから。


私が彼の本当の娘ではない事は、物心つく頃には理解していた。 ノエル様が私に接する態度が娘に向けたものとは思えなかったし、何より彼と私は全然似ていなかった。髪の色も、目の色も。


おそらく彼は母に懸想していたのだろう。「成長するにつれ母親に似てきた」と、眩しそうに目を細めて言うものだから、複雑な気持ちになったものだ。育ててくれるのは有り難いが、母を好きだった男が父親がわりとは。私が母の息子だったのならまた別かもしれないけど、とても彼を「お父様」とは呼べそうになかった。そして同時に、顔も知らぬ両親を恋しく思うのだった。


ノエル様に尋ねる気にはなれなかったので、こっそり魔術大学校の教師であるスルーフに会いに行った。彼が最もノエル様と近しい人物だと聞いていたからだ。

そこで自分の生い立ちを知り、これから起こるだろう二度目の戦いを阻止するために、本当のお父様が亡くなった事を知った。


そうだとするならば、私も、お父様の死を無駄にしないために、何かをしたかった。お父様が命懸けで守った世界を守りたかった。お父様とお母様の娘である私になら、何か特別な力があるだろう。現に自分は魔石の魔力を用いて、普通の人が使えないような魔法が使える。もし私が星のカケラの力を使えれば……世界を救う手助けになるかも。


だから。

私は自らを封印した。もはやそれ以外に生きる意味も見出だせなかった。本当の父ではないノエル様はどうしたって私にはただの他人で。彼のために生きていたいとも思えなかったし、私が必要ない世界なら、それはそれで永遠の眠りについても構わなかった。


だけど今。


「そうだ。私がそなたの父の生まれ変わり……今は“友美”という人生を送っている」

「……………っ」


会いたかった。ずっとずっと会いたかった。たとえ生まれ変わりだろうと、私のことを純粋に愛してくれる人に。

「私には前世の記憶が全てある。だから、お父様と呼んでも構わない。今は友美の人格は出ていないから、皆もこの姿の私をラファエルと呼ぶしな」

お父様が慈しむような表情で私を見る。そして私の手をそっと握った。それだけで生きていて良かったと、涙が溢れた。


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