第二十三話 ノエルの策略
「リズのことで、話していないこと………?」
ミカエルが聞き返す。
「そうだ。リズが神にならなかったのは、親の反対があったからだ、と前に言ったな。………彼女は元々心の臓に病を抱えていた。成人までは生きられないだろうと言われていたようだ。持って十五かもしれぬ、と」
「!?バカな……!!天界ではそんな様子はなかった!それに、実際二十歳まで私達と共に」
ラファエルが愕然とし反駁するも、ルーファウスが苦々しげに毒づいた。
「それがどういうことか…………わかるだろう、おまえ達なら。千年もの間、光玉の魔力の影響を受けて生き続ける、ミカエル、おまえが何よりの証明ではないか」
「まさか……光玉の魔力で、彼女にも不老の効力が……?」
「その可能性はあるな」
到と幸広が推察する。
「地上に帰れば病は進行する………。だから私も、正式な神ではないが、彼女を天界に置いておいた。しかし、結果どうなったか、行く末は先程聞いただろう」
「ラファエル様との子を身ごもり……、その子を産むために地上に降りた……」
みゆりは答え合わせするように、スルーフの話を繰り返した。
「そうだ。文字通り命懸けで出産し、死期を悟った彼女は、私に娘を預け、ラファエルの元に向かった。最期に自分が愛した男に会いたかったのだろう。私に会いに来たときは、もう虫の息だった」
「え……じゃあ、リズさんは、その……どちらにしても、亡くなる運命に……?」
みゆりの頭の中で、話の流れが繋がってきた。
「そうだな。彼女にしてみれば、むしろ本望だったのではないのか」
ルーファウスが嘆息する。そう、それが彼女の望みだったとしても、自分は望んでいなかった。
「何故………その事を言わなかった!?」
ラファエルが怒りで震える。
「その事………とは?」
「とぼけるな!病気のことや、子がいたことだ!知っていれば、私は………!」
ラファエルがルーファウスに詰め寄る。だが、逆にルーファウスは彼に怒りを露にした。
「勘違いするな。それをお前に言うのはリズであって、私がペラペラ話すことではない。何故、リズがお前に伝えなかったかわかるか?子がいることをお前に言う……。それが何を意味するか、本当にわからないとでも?」
「……………っ!!」
ラファエルが黙り混む。
病気のこと、子がいることを知っていれば、自分はなんと言っただろうか。おそらく、子を諦めて自分の傍に居るように言っただろう。だがーー彼女はそれを望まなかった。だから、一人で地上に降りて、一人で産んだ。
「だとしても!戦いが終わった後に、彼女の病気や娘の事をラファエル様にお伝えしていたら、ラファエル様がこんなに傷つかれる事はなかった!まさかそれも、リズさんの願いだったなんてふざけたこと言わないですよね!?」
マリクがラファエルを背に庇ったまま、ルーファウスを威嚇する。本当に、彼らはとことん馬が合わないようだ、と博はルーファウスの陰から盗み見して思う。
ルーファウスの方も、千年前の世界に来たせいか、前世のノエルの人格と今のルーファウスの人格が混同しているようだ。混沌としている。まぁ、これは仕方ないと諦念する他ないが。
「あなたはそうやって自分のしたことを正当化しますけど、僕が何も知らないとでも思っているんですか!?わざわざクロウをラファエル様に封印させたのだって、本当は………!!」
マリクはそこまで言って口をつぐむ。これ以上真実を口にすることを躊躇ったのだろう。しかし、ルーファウスはそんなマリクを無視して続ける。
「そうだな。おまえが思う通りだ。私の本当の目的は、光玉を破壊することだった」
「!?光玉の………破壊?」
何がなんだかわからない、双子神はそんな表情をしていた。
「光玉で不老化することには早くに気づいていた。だが単なる不老化ならまだいい。私が危惧したのは、このまま光玉の魔力の影響を受ければ、我々は不老不死になるのではないかということだ。命あるものはいつか死なねばならぬ。だから、光玉を破壊することを考えた」
研究の中でわかったことがある。
それは、光玉を使えば一時的に内包される魔力量は減るが、時間と共に魔力がまた充填されるということ。
だが、光玉に充填される前に全ての魔力を使いきってしまえば、それはただの石だ。破壊することは、理論上可能。それは、一緒に光玉を研究していたマリクやスルーフも知るところだった。
「だから、光玉の魔力を使い切るために、クロウの存在を利用した………。本来ならヴァイスが倒せる程度の敵を、わざと生き残らせラファエル様に戦わせ、封印させて、その後の闇天使や光天使の魔力を封じ、人へ創り変えさせ……そうして光玉を破壊しようと」
スルーフがノエルの思惑を代弁する。
「ああ、そうだ。他に光玉の魔力を使いきれるような状況は考えつかなかった。私にとっては、千載一遇のチャンスだった」




