第二十二話 二人の司祭
ミカエルの転移魔法で向かった先は、魔導大学校だった。そこにいるマリクとスルーフに話を聞こうという腹である。
かくしてスルーフのいる教官室に一発転移を果たす。広めの室内に壁にはたくさんの本棚、そして魔導書がこれでもかと詰め込まれている。格子状の窓から月夜が見えたのが印象的だった。
「突然現れるので誰かと思えば……未来からいらっしゃったんですね」
机を挟んでスルーフと向い合わせだったマリクが、振り返り全員をしげしげと見渡した。
「そうだ。ルーテに飛ばされてな。こちらではどういう状況なのか、ルーテの狙いはなんなのか、情報を持っていれば教えてくれないか」
友美の姿を見たマリクが痛ましそうに彼女を見る。
「こんな小さな子に……運命を背負わすなんて。僕は絶対にノエルさんを許さないです。どんな理由があろうと……!!」
「落ち着け、マリク」
スルーフが座っていた椅子から立ち上がり、彼の肩をポンポンと叩きなだめる。
「………初めましての方がほとんどですね。私はスルーフです。こちらはマリク」
「スルーフさん……というと、史書を残した、望月さんの前世……?」
色白で黄色の髪をした男の挨拶にみゆりが反応する。確かに話し方や雰囲気が幸広そっくりだ。マリクの方も裸眼だし茶髪で見た目こそ違うが、口調や思考が同じようだとみゆりは思った。
「そうだ。あれには私が知る中でも重要だと思われる事を中心に記している。全てを記しているわけではないから、君達の知らないこともあるだろう。………こちらの状況を知りたいと言ったな。今はリズやラファエル様が亡くなり、十五年経っている。ネサラの話だとネェフェニーが行方不明になっていると。ノエルは地上で娘と暮らしていたが、今はどうかわからん」
「娘と……?」
ミカエルも初耳らしい。信じられない、と訝しそうな顔をしている。彼は戦いのあとも天界に残ったので、地上で暮らすノエルのことは感知していなかったのだろう。
「ではまさか、恋仲だったリズとの……?」
ラファエルの顔が曇る。自らが引き裂いた二人の事を思うと、自責の念にかられるのだろう。
そんなラファエルに、マリクが叫ぶ。
「違います!その娘さんは……リズさんと貴方の子です!」
「!?」
「なん……だって?」
ラファエルが驚愕する。
「だから……、だから僕は、ノエルさんを許せない。その事を貴方に隠して、自分の娘のように育てた彼を!」
マリクが激昂する。どうも、魔導研究者という論理的な職業の割には、なかなかどうして感情的な男のようだ。
しかし、到には気持ちは痛いほどわかる。それが本当なら同じく神として過ごしてきたラファエルに対し、あまりにも酷い仕打ちではないか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。まず整理させてくれ。何故リズの娘をノエルが……?」
ミカエルが動揺して額に手を置く。
「リズさんが地上にいる彼に預けに来たようですよ。亡くなる直前に。どうやら一時期天界を離れていたのは、娘を産むためだったようですね。当然ながら天界にはそういう施設はありませんから」
スルーフが反対に至極冷静に答えた。
「だったら、何故そのまま地上にいなかったんだ!そうしたら私を庇って死ぬ必要もなかった!」
ラファエルが慟哭する。その通りだ。何故彼女はわざわざ天界に戻ってきたのか。産後の身体では、動くだけで負担がかかる。娘を預けてまでラファエルに会いに行ったその理由とは。
「それは」
「それは私が説明しよう」
言い掛けたスルーフの言葉を遮って、背後から声がした。
振り向くと、ルーファウスとネサラ、博がいた。どうやら転移魔法で現れたらしい。
「ルーファウス………!!」
ラファエルが睨む。今までの話の流れで、元々あった不信感が更に募ったようだ。
「ノエルさんの生まれ変わりの方ですね?貴方は全てを覚えていて、今まで動いていた。……そういうことですか」
マリクがラファエルを庇うように前に立つ。
「そうだな。………リズのことは、色々とすまなかったと思っている。彼女に付いては二人に話していないことがあった。それを話していれば、また違った未来があったかもしれない。今更だがな」
ルーファウスは双子神をそれぞれ見やった。




