第二十話 ルーテと義信
「さすがだね。もう天界のカケラを手に入れたとは」
部屋のソファで寛ぐルーテの前に、義信が転移魔法で現れた。
「フフ、それも無血開城よ。素敵でしょう?」
ルーテは口角を上げて笑った。
「ずっと、憧れていたのよね。相手が屈服するしかないような状況を作って、何の労力も使わず落とすことに。………まぁ、ネェフェニーの力があったおかげだけど」
そう………、あのあと天界へ転移した私達は、千年前にラファエルやミカエルを送り人質に取っていることを盾に、カケラを強奪したのだ。とはいえ、代わりに魔石を置いてきてあげたのだけど。私達の目的はカケラを集めることであって、天界の無力化ではない。
「彼女は何処に?」
義信が辺りを見回す。
「貴方が来るだろうと思ったから、一人にするよう頼んだわ。純粋なあの子のことだもの、立ち聞きはしないはずよ」
「そうだね………。僕達の『本当の目的』を知ったら、きっと彼女は悲しむだろうからね」
「そんな必要、ないのだけどね。………まったく、何ゆえ、こんなことになってしまったのかしら」
ルーテは何度も思った自問自答を繰り返す。
一体、どこで何を間違えたというのか。
その答えは、おそらく。
「やっぱり、未来なんて、知ろうとしたのが間違いだったのよ」
ルーテは一人呟く。
そうだ、そうに決まっている。
思えば、全てはそれから始まった。
私が生まれた時、周りは私の未来を覗こうとした。
彼女が生まれたときも、周りは彼女の未来を推ろうとした。
私が彼女とカケラを手にしたときも、ノエルは今後の未来を予見して、私達を神の座から外した。
そして私は時天使であるネェフェニーの力で、彼らがクロウを倒し損ねるであろうことを知った。
だからこそ、それを好機とし、全てを終わらせる計画だった。
それなのに。
「まさか、彼らがクロウを倒せない理由が………私達の計画に対抗するためだったなんて」
本当に想定外だった。
そもそも、彼らがクロウを倒していたら、こんな計画、思いつきもしなかったのだ。
「卵が先か鶏が先か………そんな話を、思い出したわ」
この状況を作ってしまったのは、果たして私達との戦いを恐れてクロウを封印させたノエルなのか。
それとも、クロウが封印されると知って、それを利用しようとした私達なのか。
ある意味では、予見した未来通りに進んでいると言える。
「この先………どうなるのかしらね」
他人事のようにポツリと漏らす。
「ネェフェニーには視てもらわなかったのかい?」
今までただ黙って聞いていた義信が問う。
「もう未来を視るのはこりごりよ。良いことなんて何もないわ。踊らされるだけ………。たかが人間如きが、神の領域に手を出した事への、天罰が下ったのかも」
唯、一つ言えることは。
「この先どんな未来が待ち受けていても……私は後悔しない」
「そうだね……。あとは、あのおバカさんの暴走を、どうやって食い止めるか………」
義信が忌々しげな顔をする。
一度は愛した男だと言うに、何だかノエルが少し哀れに思えた。
私の気持ちを察して、彼は微笑む。
「私が今愛しているのは君だけだよ」
だからこそ……過去は精算しなくちゃいけない。そう、言って。
私達はまた、次の計画に移る。
全てを、終わらせるために。




