第二話 その人物は
千慧に案内されて上がってきたのは、金に近い茶髪を襟足からゴムでくくった、碧眼を持つ十五、六くらいの少年だった。
「あ」
「げっ」
スィフト、博が見知った顔に次々と反応する。
「知らない人もいるだろうから紹介するわ。森上義信さん。有名な考古学者で博君のお父様よ」
千慧の話を聞き、到は彼に疑惑の目を向けた。
確か髪や瞳の色が特殊だと、魔力が強い証とチェイニーから聞いた覚えがある。それに、彼は余りにも若すぎる。彼の子の博や真由美よりも若く見えるほどだ。それに随分と消された歴史の事を知っているようだし……まさか彼も前世で何か関わりが……?
「えっ、本当に博君のお父さんなの?!だってすごく若いよ!?」
「………昔から、このままなんだよ。年を取らない。なぁ、千慧、博」
彼は仰天するセラフィに穏やかに笑いかけ、昔から自分を知る二人に聞き返した。
「ええ」
「アンタは昔から、中身も外見もそのまんまだよ………」
博が嫌味を込めて答える。義信博士は学者として素晴らしい人間なのに、博とはウマが合わないと見える。
「いいじゃん、別にそんなこと。セラやスィフトだってある程度成長したら年取らないじゃん。それと似たようなモノなんだよ、きっと」
久美が楽観的にいう。そういうものなのか……??
「………で?なんの用だよ、親父」
博が目も合わさず訊く。
「ん~、用って言うか……。久々に五大都市に来たから、千慧に会っておこうかと思ってね。博まで来ていたとは奇遇だねぇ」
「用がないならとっとと帰れよ。で、友美、そのカケラどの辺りにあんだよ」
父との再会が面白くないのか、強引に話を戻そうとする博。
「だからー、地底と海底と天界と地上でしょ?ちゃんと話聞いてたの、博くん」
久美が呆れ顔で言う。
「ああ、そういやさっき言ってたな……。……って、地底や海底なんてどうやって行くんだよ?」
博がスィフトや千慧を見るが、返ってくる言葉は
「どうやっていくんでしょう?」
「私が知るわけないじゃない」
「ゲームだったら、こう、町の人とかに聞けばわかったりするんだよね~」
という他人事のようなものばかり。
「いや、地底へは」
義信が割って入ろうとする。が
「えー。確かにゲームならそれが定石だけど、いくらなんでもそんな、そこら辺の人が知ってるとは思えないなぁ」
「だな」
「聞くだけ無駄に終わりそうですわ」
「めんどくせー」
口々にワイワイ言い出す聖戦士達。さらに久美が続ける。
「あーあー、どっかに長老様とか占い師とか学者とか固まってないかなー。手当たり次第に聞けるのに」
「え?学者?」
「そういえば………」
セラフィが《あれ?》という顔で首を傾げ、スィフトが《あっ》、と何かを思い出した。そして義信博士を振り返り、続けた。
「博士も学者でしたよね?一応」
「スィフト……あんまりじゃないか?半年とはいえ一緒に旅をしながら研究してたのに」
「すみません。一緒に研究した記憶より、博士のアホな言動の方が印象的だったんで」
真顔でしれっと言うものだから、義信は面食らって黙りこんだ。
「で?知ってんのかよ、親父」
「知ってるもなにも、地底にはしょっちゅう行ってるよ。とある地点の大穴を、飛竜に乗って下降するんだ」
その言葉を聞いた途端、博の顔が青ざめた。
「ぎゃーーーー!!やめろーーやめてくれーー!!!」
「うるさい黙れ」
ゴンッ。
物凄い大声で叫ぶ博に、幸広が隠し持っていたロッドで渾身の一撃。哀れにも博は目から星を出して気絶した。
幸広はついとっさに手が出てしまったが、その瞬間自分がいかに恐ろしい失態したか気付いた。義信の前で息子の博を殴ったという事実に今更ながらに気付いたのだ。
冷や汗だらだらの幸広に義信は言った。
「幸くん……、君、いい度胸してるね」
「す、すみません、ご子息を」
「いや、そうではなく」
(ショックでロキの人格が出なければいいのだがな)
義信は少しずつ口から息を吐き出した。
「まぁいいさ。これが初めてでもないのだろう。私はこれから用があって、連れと砂漠の地下街に行くつもりだ。その間飛竜は連れていけないから、君達の好きに使うといい。ただし、博は論外としても、乗れるのはせいぜい四人だが」
義信からの発案に、ラファエルは頷いて返事をした。
「そうか。地底へ行くメンバーはこちらで考慮しよう。そなたからの助力、誠に感謝している。これからもよろしくお頼み申したい」
「こちらこそ、いつも息子達が世話になって申し訳ない。それでは私は先を急ぐので失礼するよ。何か分かったらまた寄らせていただくから。ね、千慧」
そう言って颯爽と出ていった彼を、到は胡乱な目で見つめるのだった。