第十七話 海底神殿
セラフィの水膜とルーファウスの転移魔法で、一行は海底神殿へと降り立った。
勿論、セラフィの魔力はチョコで回復済みだ。
「別に私たちまで降りる必要なかったと思うんだけどねぇ」
千慧が相変わらずぶつくさ言いながら、最後尾に並ぶ。
水膜に覆われたパーティーは、一人一人がシャボン玉の中に入っているような感覚で、当然神殿の建物に直接触れることは出来ない。そして海中なのでふわふわ浮いたように歩く状態だ。故に神殿内に入っても、全く現実味がなかった。例えるなら、そうーーVRか何かの世界のようで。
博が感傷に浸っていると
「さっさとカケラを回収して戻りましょう。水膜もいつまでも効果がある訳じゃないし」
セラフィが焦って皆を促す。
「そうだな……。カケラの反応で言えばもう少し奥だが…………」
ルーファウスがカケラを確認しながら、先頭に立ち早足で奥へと進む。すると、だんだんカケラの光が強くなってきた。
巨大な石柱を何本通り抜けただろうか。
先を急ぐ彼とは裏腹に、博の足取りは重い。
ーー視えたからだ。カケラの気と共に、巨大な禍々しい『何か』が。
ノロノロと歩きながら、目を閉じ意識を集中する。
ーー捉えた。あれは………
「止まれ!!」
博の突然の叫びに、ピタリと足を止める一行。
「……………奥に、海竜がいる。カケラの影響を受けてるから、本来より強力になってる。迂闊に近付くと危険だ」
神妙な顔で言う博だったが、このパーティーに危機感があるわけもなく。
「えー、マジで?博くんわかるの?すごーい!」
「予言者みたいだね」
「占い師?とか」
「うわめっちゃ似合わない」
直人には特に、ヒドイ言われようだ。
「じゃあとりあえず、面倒だけど間者を送って様子見させようかしら」
と千慧が人形を使う。ベニヤ板のようなものを人や狐の形に象って、浮遊霊を捕まえそこに容れ、偵察に行かせる。狐の姿に降ろすのは、彼女お得意の降霊術だ。
「珍しく千慧ちゃんが積極的だー」
「命あっての物種だもの」
「でも、まだ気配は遠いんだよね?ちょっとずつ進んどこうよ」
スィフトの言うとおりだ。セラフィが心配していたように、水膜がいつまで持つか知れないのだ。
「まぁでも敵?が出るんなら、みんなで来といてよかったんじゃないか」
「だなぁー。で、直兄、海竜だったら、雷が効くよな?確か」
「そうだな。海に棲む生物は雷に弱い……。あと本当に竜なら急所と言える逆鱗があるはず……」
タラタラ歩いていると、狐の人形がヨロヨロと戻ってきた。身体中八つ裂きにされたような、満身創痍の姿で。
「うわ、ヒドイ……!」
「敵が強いのは本当みたいね。もういいわ、ご苦労様」
千慧が優しく声をかけると、狐は形からでて浮遊霊に戻っていった。
「雷が弱点なら私がラムウを召喚しよう」
「おれも一応雷迅の術が使えるから、あとはみんな援護してくれれば」
「まぁ、勝つことよりも、カケラを回収して潜水艦に戻る事が優先ね……。久保くんは真っ先に戻るようにね。運転手がいないと話にならないから」
「わかった」
「それじゃあみんな!行くよー!」
久美の掛け声で、一行は再び歩を進めた。
☆ ☆ ☆
その頃。初めてルーテとネフェニーに対面したラファエル達は、彼女達の目的がわからず狼狽していた。
「……………一つ、言っておくけど。私は別に世界の破滅を目論んでいるわけじゃないし、貴方達に危害を加えるつもりもないわ」
ルーテが淡々と口にすると、ネフェニーがそれを肯定し首をぶんぶんと縦に振る。
「そ、そうです!私達は世界の平和のために………」
「世界平和だと?二度目の戦いを計画したのはそなたたちではないか!それゆえ、ノエルがそれに対抗するために、ヴァイスをわざと封印させたと聞いているのだぞ!」
ラファエルが激昂する。
「そうですわ!そのせいで、ラファエル様は心身を病まれて……。こんなことがなければ、もっとラファエル様だって生きられたはずですのよ!?」
みゆりも許せないとばかりに噛みつくが、到と幸広は冷静だった。義信博士ーーリズの発言がある以上、ルーテだけが悪者だと一方的に決めつけられない。
すると彼女は
「…………そう。あなたたちも、全ての元凶は私だ、と………。そう思っているのね」
と、傷付いたような顔で呟いた。
到はそこに、何か彼女の悲哀を見た気がした。なんだか一方的に責める気にはなれなくて、言葉をかける。
「そういうわけでは。僕達はリズさんに、全ての元凶はノエルだとも聞いています。ですから、僕達にどういうことなのか、何が真実なのか教えてもらえませんか?」
ルーテの表情はあまり変わらずわかりにくかったが、少しだけ目元が緩んだのを感じた。しかし。
「………それは無理な話ね」
彼女は明言を避けた。




