第十六話 全てを知る男
直人の操縦で、降霊術の指し示した北西の無人島へ向かう中、博は長椅子に足を投げ出し寛いでいた。
(…………まぁ、実際は霊なんて降ろしてないわけだけど)
博や久美はそれがどういうからくりなのか知っている。つまりーーあれは暗示の一種だということを。
結局のところ、ルーファウスの潜在能力に働きかけて、世界の縮図だと思わせたあの地図上から、カケラの場所を探らせたに過ぎない。だからこそ、ルーファウスとカケラの力が必要だったわけだ。他の人間にはカケラの在処を探すことは出来ないだろう。
あるいは。
(俺なら見付けられるかも………なんてのは流石に自惚れか)
自嘲気味に笑う。
今回活躍してるのは自分よりも千慧の方だ。結局操縦の仕方も千慧が確認して直人に伝授していたし。
その隣で、久美は相変わらず楽しそうにきゃっきゃとはしゃいでいる。足下がガラス張りになっていて海中が見えるのだが、見たことの無い魚や生き物に興奮しているようだ。
「なんかあの魚キモカワイイねー!!細長くてニョロニョロしてる!」
「ホントだねー。てか動き早っ」
「あの魚、食べられるのかなぁ………?」
セラフィとスィフトも興味津々である。
唯、ルーファウスと自分だけが考え込んでいた。勿論、互いに考える内容は別物だが。
ルーファウスが考えているのは娘の事に相違無い。自ら封印した娘を助けるため、画策していることはとうに知っている。
愚かだな、と博は思う。
『あの男は本当に、余計なことしかしない』
父親の言葉が木霊する。本当に、その通りだと思う。確かに彼は頭は良いのだろうが、進むべき方向を間違っている。故にその才を無駄にしている。いや、それどころの話じゃない。暴走しているのだ。いっそ腹立たしいを通り越して呆れるくらいだが、それをルーファウスに言ってもしようの無い事も、博にはわかっていた。色々とやらかしたのはあくまでもノエルであって、ルーファウスはその咎を背負って生まれてきたに過ぎない。
そろそろあの人ーー父親も、砂漠からカケラを回収している頃だろう。それに、ラファエル達も………。となると、ルーテが本格的に動き出す頃合いだ。天界であえて一騒動起こしてからネフェニーの力で千年前に帰る………。最終的にはそこでいわゆる『第二の戦い』の決着をつけることになるだろう。ルーテの本当の目的はネフェニーさえ知らない。あの人と自分だけが知っている。
(……………くだらない茶番だな)
知っていることを、さも知らない振りをして、裏から手を回して、未来を作り替えようなどと。それも、誰かの死の上で成り立つ未来だ。
それでも。
ノエルが用意した未来よりはマシな筈だ。
別に、あの人を助けたいとか、そういうことではない。
少しでもいい未来を創りたいとか、そういうことでもない。
博は以前、幸広に全てを信じていないと言った事を思い出す。
(俺があの人に協力してるのは………)
突然ガクンっと艦が停まる。
「着いたよ。無人島」
直人が淡々と言い、ルーファウスは手にしたカケラを見た。
「微弱だがカケラに反応がある。やはりこの下で間違いないな」
「じゃあもう潜っちゃいましょ」
千慧の指示で、潜水艦は海底にザブンと潜る。見たところ周囲に海獣の姿は見当たらない。これなら捜索も楽に行きそうだ。
「ルーファウスさん、どう?反応は」
セラフィが不安そうに尋ねる。
「先程より大きく光っている。光は北に伸びているな」
「北か。わかった」
と、直人が進路を変えた途端に眼前に広がったのは。
「…………何、これ」
久美が目を丸くする。
そこにあるのは、三角屋根の下を幾多の柱が支えている建物だった。
「………博士の書物で見たパルテノン神殿みたい………」
「それにしても海底に遺跡なんて………ムー大陸とか、アトランティス大陸を彷彿とさせるわね」
「あれは言い伝えだろ?」
「そりゃそうだけど」
「まるであの中にありますって言わんばかりだね」
セラフィが言うとおり、おそらくあるとしたらあの神殿内だろう。
「とりあえず全員セラフィに水膜を張ってもらって、私の魔法で神殿の入り口に転移する。セラフィ、頼めるか?」
「あっ、はい!がんばります!」
緊張の為セラフィが上ずった声を上げる中、久美が二人を見てニヤついていたのを、当の本人である彼らだけが気付かなかった。




