第十五話 降霊術、発動。
直人の運転で海辺の洞窟に着いた海底組は、車を降りる。
「それにしても洞窟なんて、なんかワクワクしちゃうねっ♪♪」
相変わらずはしゃいでいる久美を見て、多少緊張していたルーファウスの気が緩んだ。
「ここからは歩きね。あんまり距離がないといいんだけど」
「座りっぱなしも良くないから、逆にいいんじゃね?なんだっけ。エコノミークラス症候群?」
めんどくさそうな千慧を博がまぁまぁ、となだめる。
内部はさすが洞窟だけあって薄暗い。ルーファウスは自分達の真上の天井近くに炎の球を浮かべた。これでかなり明るくなるはずだ。
「わ、明るい!ありがとールーファウスさん」
セラフィが暗がりが怖かったのか、ほっとした顔をした。
洞窟内は当然寒いが、この炎の球なら寒さも防げる。まさに一石二鳥というものだ。
空中浮遊する炎の球に先導させながら、少しずつ内部に進む。
「そういえば、前に遺跡に行った時はこんな暗くなかったよね」
久美が記憶を手繰り寄せていると
「あれは、義信博士が事前に灯りをともしてたからでしょ。ランプ置きのある壁の上部が光ってたじゃない」
と苦々しく千慧。
「この空気の石だって、そこで手に入れたのよ………。あの人は、私達が海底に行くことを予測して、私達に渡すためにあそこに置いて行ったに違いないわ」
「………何?リズが、今回の事を予測していただと?」
遺跡調査の件を知らなかったルーファウスは驚きを隠せなかった。
「やっぱり、彼の前世がリズって人なのね?どうりで親近感があるはずだわ。だけど、一体何を考えているのかしら。カケラを私達に集めさせて、ルーテとかいう人と戦わせるつもりかしらね」
「そんな人じゃないと思いますけど……、博士……案外腹黒いからなぁー」
数ヶ月一緒に旅をしていたというスィフトも、困惑したように答える。
「まぁまぁ、なるようにしかなんないんだしさ、人生。考えすぎててもしょーがないじゃん」
「そうそう、まーあの人のことは置いといてさ。どっちにしろカケラは集めなきゃなんないんだし」
二人と違い、久美と博は全く意に介さない。そのポジティブさがある意味羨ましいとルーファウスは思った。
階段を登り降りし、少しずつ奥へと足を踏み入れつつ、今まで無言だった直人も口を開く。
「それより、海底っていっても地球のほとんどだろ?どの辺にあるとか見当は付いてるのか?」
「私も知らない。カケラの反応を見ながら探すしかないだろうな」
ルーファウスはそれでも見つかるかどうかは賭けだな、と思っていた。探すなら、サメなど海獣の影響を考えて、海上からが定石だろう。カケラのあるだろう地点まで行って、そこから海底へ潜る。だが地上から海底まではかなりの距離がある。地上から海底のカケラが反応するかどうかも怪しいのだ。
「ずいぶん時間がかかりそうですね」
スィフトが控えめに言ったが、尋ねた直人は溜め息をついた。
「見つかる気がしないな………」
「もうっ。しょうがないわねぇ。あとで私が視てあげるから、とりあえず艦内に入りましょ。ほら、あれでしょ」
千慧が呆れながら指差す先に、見上げるほどの巨大な潜水艦があった。
洞窟を抜けた先に海があり、そこに碇を下ろされ陸と海の狭間に繋がれている。
艦体には梯子のような物が付いており、それを伝って天井付近まで登る。天井にある、さながらマンホールのような蓋を開けて、それからまた中の梯子を伝って内部に降りられた。
ルーファウスが驚いたことに、中は意外と綺麗だった。確かにあの時代にはこれくらいの物は造れただろうが、それにしてもとても千年前の遺物だとは思えない。まるで封印されていたかのようだ。
これを造るためにミカエルがカケラを使ったという話もある。
前世の自分ーーノエルは、ミカエルについてはさして注意していなかったから、本当のところはわからないが。
全員が艦内に乗り込むと、千慧がコックピットの反対側にある円卓に皆を集めた。
「誰か世界地図持ってる?」
「あー、俺持ってるわ」
博が背負っていたリュックから、ごそごそと丸めた地図を取り出す。
「お前にしては準備がいいな」
「ま、伊達に世界中旅してないんで」
直人にどや顔をする博から地図を受け取り、円卓に広げる千慧。
「じゃあ、ルーファウスさん。悪いけど、天使のサイズになってくれる?それじゃあやりにくいから」
「ん?ああ、わかった」
ルーファウスは何がやりにくいのかよく分からないまま、言われた通りカケラの魔力で人間と同じ大きさになった。
「これでいいのか?」
体躯は人間と同じだが、背中の翼がやけに目立つ。
今の自分は、人間の姿とは違うのだと、まざまざと感じさせられた。
天使を創り出すと決めたのは自分だが、出来ればこの姿で長く居たくはなかった。
「不満そうね?翼が邪魔なのかしら。心配しなくてもすぐ終わるわ」
千慧が見透かしたように言い、次の指示を出す。
「カケラを握った手の人差し指を、この地図の中心に置いてくれる?」
一体何を始めるというのか。言われるまま従うと
「今から降霊術を始めるわ」
そう言い、何やら目を瞑り怪しげな呪文を唱え始める。
【ΘφЖЯюЧψλμΞΔ……………§§!!】
くわっ、と目を見開き最後の単語を勢いよく口にすると、途端に地図の中心に置いたルーファウスの人差し指が動き始めた。
「………………?!」
「指が………動いてる!?」
降霊術を初めて見る直人とセラフィが固まっている。降霊術を施された当の本人、ルーファウスも柳眉を寄せた。
ススス、と地図上を滑るように移動した指は、とある地点で止まる。そしてそのまま、まるで指先が凍ったかのように動かなくなった。
「……………止まったようね。私の降霊術が失敗でないのなら、そこにカケラがあるはずだわ」
千慧は不敵に笑い、告げる。
「いい?久保くん。今からこの場所に向かうのよ。北西の、この無人島付近にね」




