第十話 次に行く先は
義信と別れた後、一行は学術都市にある千慧宅に来ていた。
「それで、何か情報は得られましたか?」
到の問いに、千慧は椅子に座り優雅に紅茶を飲みながら答える。
「貴方達が行った後にね。海底への行き方に心当たりがあるって、博士が」
「王城の地下に、千年前に造られた潜水艦があるんだってー」
客人であるはずの久美が、皆に紅茶を振る舞いながら話に加わる。幸広は相変わらずブレない千慧に苦笑した。
久美が勝手にお茶を淹れても文句を言わない限り、千慧は客人に茶を振る舞いたくないというよりは、ただ単に面倒なだけなのだろう。
淹れられたら淹れられたで、何か恐ろしいことの前触れのような気がして、心中穏やかではいられないだろうが。
「王女様を助けたセラフィさんとルーファウスさんなら顔が利くだろうからって、国王様に借りれないかお願いしに行ったよ」
地天使のスィフトがのんびりした口調で話す。
「じゃあ潜水艦が借りられれば、次に向かうのは海底になりそうですね。だから博士は“君達が海底に行ってる間に”って言ったんですね」
到が義信の言葉を思い出して納得する。
「…………あの。カケラって海底のどの辺にあるとかは………?」
みゆりが至極最もな事を聞く。
「そこまでは、オレの力でもわからんかったわー」
答えたのは意外な人物だった。いつの間にか部屋の片隅に、天界にいるはずのミカエルがいたのだ。
「まぁカケラやカケラで造られた物なら、共鳴反応で大体どの位置にあるかわかるだろう」
ラファエルは突如現れた弟にさして驚きもせず言った。
「それは、まぁ、先程も私の聖剣が光っていましたから……。というか、ミカエル様!一体いつの間に………」
「まぁまぁ、オレの事は置いといて。それより問題は、どうやってカケラを手に入れるかだな………」
ミカエルが腕組みをして思案する。どういう意味かよくわからない。頭上に疑問符を浮かべるみゆりにラファエルが補足する。
「海底にカケラが“落ちている”として、艦内からそれを拾うのは無理だ。物質を瞬間移動させる能力は、私達にはないからな」
「何ですって!?」
それじゃあ潜水艦があったところでどうにもならないではないか。到も衝撃的な事実に動揺を隠せない。
「つまり………スキューバダイビング的な?」
「潜水艦から抜け出て拾ってくるっていう?」
直人が至極現実的な方法を挙げると、久美も「それしかないよね」とばかりに言う。
「なんかゲームでありそうですね。ジョブ潜水士、みたいな」
「二人とも、ジョブチェンジなんて出来んのか?」
スィフトと博がゲームの話で盛り上がると、
「いや、無理だから」
ミカエルが何の話だよとつっこむ。
「なんだよ、つまんねーのー」とぶちぶち言う博を無視し、友美が口を開いた。
「確かセラフィは水天使だったな……?」
「うん、雷とのハーフだけど、基本は水の力を受け継いでるって」
彼女と暮らす久美が説明すると
「ならば水の流れをある程度制御出来るはず。私達の周囲に水が来ないように、バリアのようなものを作ってもらえば」
「へー。天使ってそんなことできんの?すげーな」
「だけどずっとその状態だと酸素がなぁ……」
直人が感嘆するが、ミカエルがまだ問題があると言う。
「さすがに酸素ボンベとかないとキツイですかね」
到がどこかで調達しないと、と考えを巡らせていると
「それなら心配ないわ」
と千慧が立ち上がり、おもむろにチェストの引き出しを開ける。そこから何か取り出し、テーブルの上にことりと置いた。
それは翡翠色の、大きくて円い艶々と石だった。
「以前、皆と遺跡に行った時にあった石よ」
「ああ、千慧先生がそれだけ持ち帰った……」
幸広はおよそ一年前の遺跡調査を思い出した。あの時自分は博に渡されて魔石を持ち帰ったが、彼女はその石を持ち帰っていた。
「気になって部下に調べさせたら、空気の成分を保つ力があるらしいの。酸素が少ない所では、酸素を作ってくれるみたいね」
部下に調べさせたというのがやや気になるが、ともかくこれで潜水艦を借りれさえすれば、海底のカケラは回収できる。
「じゃあそれを持っていけば………」
到が興味津々といった風に、その石をまじまじと見つめる。
「万事解決ね」
千慧が頷くと
「じゃあ、そっちの話が落ち着いたところで、オレの話もいいかな?」
ミカエルが神妙な顔で話を切り出した。




