第一話 「昔話をしよう」
《時天使》と《時空天使》と二つ呼び名がありますが、日本を《ニッポン》と言ったり《ニホン》と言ったりするのと同じ様な感じで受け止めてくださると幸いですf(^_^;
ルーファウスは言った。
「神が三人いたことはもはや周知の事実であるが……神候補が他に二人いたことは知っているかい?」
「神候補?」
幸広と博以外が首を傾げた。
同じく彼と共に神であったラファエルやミカエルでさえも。
「もう一人いたとは初耳だな。ではその一人がカケラを集めているということか?」
到は彼らーーノエルとラファエルの会話を黙って聞いていた。
どうやらラファエルは神候補の一人を知っているらしい。おそらく度々話題に出るリズという女性のことだろう。
「そうだ。だがそう結論を急ぐな」
ノエルは一息ついて続けた。
「石が地上に落ちてから、その石を触れる人間探しが始まった。そして見つかったのは私達の他に少女が二人……。八つのリズと十のルーテだ。だがその二人は神にはならなかった。リズはまだ幼い上に富豪の娘……親が反対した。ルーテの場合は石を持つことは可能だったが………何か禍々しい気が漂っていた。だから、私が反対したんだ」
「まさかそれで、神の座から外したノエルさんを恨んで……?」
みゆりが恐る恐るノエルの顔を覗き込む。
「おそらくは……」
「で?そのルーテって子は、どんな能力を持ってるの?」
苦渋の顔のノエルに千慧が問う。
「石を持たせたときの禍々しい気に気付いてすぐに、彼女から石を取り上げた。それ以降は触らせていないし、私自身彼女と会った最初で最後だ。彼女がどんな力を持っているかまではわからない……。ただ、時天使のネフェニーを味方につけていることは確かだ」
「その人はどんな方なんですか?」
到がたまらず訊いた。前回の戦いでも時空天使長のネサラが協力してくれたが、それは仲間内で不祥事を起こしたものがいるからなのか。
「………彼女とネサラは長の就任争いに巻き込まれていた。天使は通常魔力の高い者が長に就くことになっている。そして魔力だけ見ればネフェニーが長になるはずだった。だが……彼女は心が弱すぎた。故に長には向いていないと私と先代が判断し、ネサラを長に任命した。それ以後だ。彼女が天界から姿を消したのは……。未来読みの力のあるネサラが言うには、ルーテと手を組んだようだ。実際、カケラ集めにこれ程都合のいい存在はいない。時空天使は自由に時間や空間を行き来できるのだから……。彼女の場合はおそらく心の隙間につけこまれたのだろうが」
「そんなこと、全然聞いてないぞ!!それじゃあつまり、お前が彼女達から神や長の座を取り上げたせいでこんな事態になったってことじゃないか!」
ミカエルがいきり立つ。同じく神という立場でありながら、何も知らず過ごしていた自分に対する不甲斐なさもあったのだろう。
「そう彼を責めないで下さい。起きてしまったことは仕方がありません。そもそも、彼女達を神や長にしたところで平穏な生活が送れたとも限りませんし」
幸広がルーファウスを庇った。やはり彼は最初からこのことを知っていたのだ。或いは、もっと知っているのかもしれない。
ルーファウスやノエルが神候補の一人であるリズを知っていて、ルーテを知らないという事にも疑問が残る。おそらくリズと会ったのは一度や二度ではないのだろうが、神ではない彼女と一体どうやって親密になったのか?
到が悶々としていると、突如インターホンが鳴った。千慧がすっと立ち上がり、画面越しに来客の相手をする。
「あら、どうもお久しぶりです。え?ええ、構いませんけど……」
何もこんな時に……と内心苦い顔をしていた到だったが、
「良かった、間に合って」と部屋に上がってきた人物をみて、目を丸くした。
☆ ☆ ☆
遡ること数日前。
「……にしてもねぇ」
自室にいた真由美はシェルに話しかけた。
「まさかあんなところで、お父さんに会うとは思わなかったよ……」
博に五大都市に連れ去られ「おまえもゆっくりしていけよ」の言葉通りのんびり五日ほどをみゆり家で過ごした真由美だったが、果て困った。
………………どうやって帰ろう?
歩きでは何ヵ月もかかる距離。到底春休みのうちになど帰れるわけがない。かといえ、兄にまた久保くんの車を借りて送れとは言いづらい。なにより、また兄のあの危険極まりない運転を体験するのかと思うと……
(終わった……)
真由美は心底兄を恨んだ。そもそもこんなに西国に来ることがあるなら、一人暮らしでもして西国に住んだ方がマシだ。みゆりや綾子、幸広といった仲間で友人もいるわけだし。
そうイライラが募った真由美は、思いの丈を兄・博にぶつけてやろうと思い立った。
しかし毎度の如く、博はそこらを彷徨いていてどこにいるのかわからない。
捜しに捜して、ようやく彼を見つけた場所は何故か国の外。しかも何をしているのかと思えば
「……………こんのバカ兄貴ーーーーっっ!!なんでこんなとこで寝てんのよ!?」
草地にレジャーシートを敷いて、腕を枕に寝転がっている。
「……………ん?なんだ、真由美かぁ。せっかくぽかぽかいい天気のなか昼寝してたのに、起こすなんてあんまりじゃんか」
最初に兄を見つけたときと全く同じ状況に、怒りマックスの真由美。
何でいつもいつも呑気な顔して寝こけてるんだ、このバカ兄貴は!
「うっさいなぁ!お兄ちゃんの方こそ、勝手にこっち連れてきといてどうやって帰れっていうのよ!?」
「……………? あ! あ~それね。考えてなかったわ、うん。悪いな」
兄は悪いという割に言葉尻が軽く、その上どうすればいいか考えてくれる様子もない。
「ふざけ……」
真由美が怒鳴り返そうとしたときだった。
「ぎゃあーーーーっっ」
突如博の叫び声が澄んだ空気を突き抜ける。
「ひ、ひ、ひ」
青白い顔で口をパクパクさせる博。
なんなのよもぅ、と言おうとして、頭上からする声に遮られた。
「おいおい、何だその顔は。まるで幽霊でも見たかのようだぞ、博」
バッサバッサと飛竜の羽をバタつかせながら、上空からそれに乗った男が下降してくる。男には見覚えがあった。というか絶滅寸前の飛竜を引き取り、乗り回しているのなんて彼くらいだ。
「お父さん!?」
その後父が飛竜で家まで送ってくれたから良いようなものの、もう少しで留年の危機が再び到来するところだった。
「ところで……おじさまはまた何処へ行ったんでょうね?」
シェルの問いかけに真由美は首を振った。
「さぁ。お父さんの事だから、また旅に出てはいるんだろうけどね」