表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/38

13話 二章 子分達との感動(?)の再会 下

 今にも戦闘開始されそうな雰囲気を察して、ノエルは口におかずを放り込んでから、緊張感もなく「はいはい注目」と言ってフォークを振った。


「ナイルもザックも、ここで刃物出さないでよ、僕がタイチョーに怒られちゃうから。そもそもさ、大きな怪物だったら早い者勝ちで攻めればいいんじゃない?」

「リーダーがそう言うなら」

「俺はリーダーについて行くだけだよ」


 二人の少年の方から、カチン、と武器がしまわれる音がした。


 一瞬のひやっとした緊張感から解放された周囲の騎士達が、居心地悪そうに視線をそらしていった。彼らの直属の上司であるマッケイが、すぐにでも説教を始めそうな顔を上げて「あの馬鹿共が」と、退職した後のことを前向きに考えるノエル達を睨み付けている。


 その時、奥のテーブル席の存在を全く忘れていた中で、最年少のミシェルが「リーダー達、ちょっと落ち着こうよ」と困ったような声を出した。


「みんなが冒険家になったら、ぼく、……ぼく絶対足手まといになっちゃうもの。そんなの嫌だよ」


 ノエルは、きょとんとして可愛い弟分を見やった。


「何言ってんの、ミシェルも一緒に決まってるじゃん。ミシェルは弱くなんてないよ」

「ほんとうに? リーダー、ぼくを置いていったりしない?」

「何言ってんだよミシェル。リーダーも俺達も、突然いなくなったりしないんだぜ?」


 大袈裟な奴だなぁ、とトニーが歯を見せて笑った。


 ここにいる誰もが親の愛を知らない。けれどミシェルは違っていて、彼は両親から優しさと愛情だけをもらい、そして廃墟となった教会の前に置いて行かれた子供だった。


 あの頃は伝染病が流行っていて、幼いミシェルの皮膚にも初期症状が出ていた。彼は熱に朦朧とする中「親を待っている」と言ったが、そこには少ない銭と食べ物が置かれていて、近くで彼と同じ髪を持った男女の病死体を見付けた。


 この子だけでもと希望を残して、ここに置いていったのだろうと推測された。恐らくは別離を決意した際、幼いミシェルには皮膚症状も発熱もなかったのかもしれない。


 あの時、ノエルは前世の知識を頼りに、仲間達と一緒になって薬草を探し回った。前の世界にあった流行り病に似ていることから、初期では強い感染力はないはずだと看病を続け、そうやってミシェルは医療機関のない中で一命を取りとめたのだ。


 だからもう、誰にも置いていかれたくないのだろう。ノエル達も、彼の面倒を見ると決めた時、悲しくて寂しい別れは絶対にしないと決めていた。


 代わる代わるミシェルを安心させた後、ディークがノエルの皿から唐揚げを取った。


「俺的にはさ」


 口に放り込んで咀嚼しつつ、彼が話を戻して考えるようにそう言った。


「つまり冒険してもいいけど、最終的には一つの場所に落ち着きたいと思っているんだ。俺ら自身で、俺らがいつでも帰れる場所を作るんだよ」

「まぁ、いずれはそれも必要だろうな」


 トーマスが、ようやく言いたいことを察した様子で、頭をかきながら同意の声を上げた。


「いつまでも、このままじゃいられないもんな。リーダーには落ち着ける場所も必要だし」

「なんでそこで僕が出てくるのさ?」


 これまで定住地を決める話が出たこともないのに、とノエルは仲間達を訝って見つめる。


 そもそも一つの場所に、ずっといるなんて考えたことはない。食うために土地を転々としてきて、冒険暮らしとなったら海や大陸を渡って大冒険するつもりでもいた。


「でもリーダーって、落ち着きがないからなぁ」

「リーダーが大人になる未来を、子分である俺達が想像できないのが悲しいよな」

「おいコラ、本人の前で失礼なことを言うんじゃないよ」


 ノエルは「僕がチビって言いたいのかコイツらは」と苛々して、ご飯を口に詰め込んだ。確かに『家』というのは魅力的だけれど、でもきっと自分には無理だろうとも思っている。


 だって、前世だって恋も知らないまま、呆気なく終わってしまった。


 安心して守ってくれるような家なんて、そもそも望める身ではない。


 もしかしたら、必要ないからと前の世界で髪を切り落とした幼少の頃、とうに女の子としての諸々も捨ててしまったのかもしれないなぁ。そう他人事のように思い出していると、ディークが苦笑してこう言ってきた。


「怒るなよ、リーダー」


 そう声を掛けてきたかと思うと、空になった自分の皿にノエルが一人で食べきれないでいる料理をいくつか移し入れた。周りの仲間達も、手を伸ばして食べるのを手伝う。


「どうしても無理だったら、そん時は俺がもらってやるからさ」

「僕だって頑張って食べてるのッ、でも少なくしてって言っても聞かない厨房のおっさんが料理を盛り過ぎるせいで、食べても食べてもなくならないんだよバカあああああああ!」


 もらう、と聞いたノエルは、いつも料理を加勢して食べてくれている子分達への申し訳なさが蘇った。おかげで第二班は、いつも食事終わりが遅れてしまうのである。


「なんで唐揚げだけで山盛りにするの!? ミシェルみたいに僕も普通盛りで十分なのにッ」

「ディークのは食事の話じゃないんだけど……まぁ、そこがリーダーの駄目なところだよな」

「よし、正直トキめかないけど、その時は俺も『もらう』に立候補します!」

「それ分かる。誰よりも尊敬してるリーダーが必要っていうなら、覚悟決めるわ」

「うん。俺も尊敬してるけど、残念ながらトキメキはないな」

「つか、リーダーが相手見付けられんのかってところが、そもそもの問題」


 大人になったリーダーの姿、マジでイメージ出来ないよね~と仲間達は頷き合う。それから「ふう」っと息を吐くと、改めて生温かい目をノエルへと向けた。


 まるで残念なものを見るような、それでいて尊敬を含んだその眼差しはなんだ?


 皆から向けられている視線に気付いて、ノエルは顔が引き攣りそうになった。


「よく分かんないけど、トキメく価値ない的なことなの? この見掛けがダメって堂々と僕をけなしてくれちゃってるとかだったら、マジでぶっ飛ばすぞお前ら」


 実のところ、男服だけで分からなくなる体系はコンプレックスだったりする。牛乳飲んで身長と胸が大きくなるんだったら、即効で頑張ってるわとノエルは思った。


 その時、リーダーの傷心を察したディークが、手を叩いて仲間達の注目を集めた。


「はいはい。じゃあ、この話はここで終了! みんなでリーダーの料理を片づけるぞ~」


 そう話を締めると、それぞれが自分の食べ物を片付けてノエルの皿へと手を伸ばした。


 食べられなかった戦争の日々を思えば贅沢で幸福な悩みだろう。そう冷静になったノエルは、ふと、ようやく周囲一帯の空気が張り詰めていることに気付いた。


 首の後ろに刺すような視線を感じて振り返ってみると、物凄く何か言いたそうに睨み付けているマッケイと、最高潮に不機嫌な雰囲気を醸し出しているフィリウスがいた。


 うわ、なんか朝よりもめっちゃ機嫌悪そう……。


 一体どんなへまを踏んだんだタイチョー、とノエルは振り返ったことを後悔した。既に食事を終えていたのか、目が合った途端にフィリウスがおもむろに立ち上がり、凍えるような笑みを口許に張り付かせてこちらに向かってきた。


「もらう、もらわない、か……随分慕われているみたいだな、『ちびっこリーダー』?」


 すぐそこで立ち止まった彼が、言いながら冷やかに見下ろしてくる。


「もう食事も終わったみたいだしな、行くぞ『雑用係り』。――生憎、私は悠長に時間を潰していられるほど暇な身ではないのでな」


 そう仁王立ちで告げてくる姿は、まさに魔王だ。


 それは威圧され息を呑んだノエルだけでなく、見渡すようにして睨み付けられた仲間達も同様の感想を抱いていて、トニーが小さな声で「おっかねぇ……」と呟いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] このやきもちさんめ!
[一言] 前世から拗らせた、嫉妬が丸出し…! そして、気付かない鈍感主人公が、パネェ!(笑) とても良いキャラ達だとおもいます!
[一言] 好かれてますねぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ