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12話 二章 子分達との感動(?)の再会 上

 起床後、食堂で仲間達にようやく会えた時、ノエルは感極まって泣き付きそうになった。一晩しか離れていないというのに、彼らと当たり前に過ごしていた時間が恋しくてたまらない。


 あの後、こちらは全く悪くないというのに「やぁ、おはよう。大層な起こし方だな」と、フィリウスに超絶不機嫌な笑顔で威圧された。そして早朝一番から説教兼嫌味が始まり、絶対零度の空間の中で支度をさせられてすっかり精神が疲弊しきっていた。


 フィリウスと共に食堂まで降りてきたノエルは、そこで一時的に解放されて仲間達と合流した。一緒に朝食を食べ進めながら、つい先程を思い返して深々と溜息がこぼれてしまう。


「リーダー、お疲れだな」

「ふっ――ディーク、僕と代わってくれる?」


 ノエルは目を向けないまま、死んだような目でそう返した。


 反省週間が始まったばかりだというのに、その様子から色々と精神的疲労を察したトーマス達が「うわー」と同情の声をもらす。ディークも、大変なんだなと労う目をした。


「うん、すまんリーダー。それは無理な相談かと」

「…………だよね」


 食堂内は、奥のテーブル席にいるフィリウスの存在のせいで静まり返っていた。マッケイが彼の相手を頑張ってくれているが、顔に張り付いた愛想笑いは引き攣り気味だ。


 食事を進めながら、奥の緊張した空気を聞いていたトーマスがふと訊く。


「で、どうよ? 鬼みたいな師団長さんは」

「何を考えているのか、さっぱり分からん」


 ノエルは、今の心境でズバッとそう答えた。ぐっすり眠っていた方が悪いはずなのに怒られた、こちらとしては寝相被害を受けた謝罪をさせたいくらいだ。


 おかずを口に放り込みつつそう思い返していたところで、そういえばと思い出す。


「開口一番、単刀直入に雑用係りって言われた」

「うわー、なんかすげぇ人だな」


 白米を追加でもらってきたお調子者のトニーが、近くの席に座り直しながらそう言った。彼女の皿にたんまりと盛られた鳥の唐揚げを減らす協力をすべく、「俺ならすぐに逃げ出すかも」と続けながら、二つ分を取って自分の皿へと移した。


 毎度のことながら、本日も第二班だけ牛乳がセットで付いていた。


 今回もノエルは、砂糖と苺ジャムを混ぜて半分飲んだ。静かに繰り広げられたジャンケンで大きなジニーが負け、残りを飲み干して青い顔でスープを口にかき込む。


「ジニーが甘さで死にそうになってるぞッ」

「唐揚げを口に放り込むんだジニー!」

「リーダーってさ、毎回思うけど使うジャムの量も半端ないんだよな」

「ジャム入れるんなら、砂糖の必要はないのでは、って俺は思わなくもない」

「でも砂糖だけの牛乳もきついんだよな~」


 そうやりとりする仲間達の声を、しばし考え耽っていたノエルは聞いていなかった。


「ねぇ、僕は朝にタイチョーのとこに行けなかったから、予定が分からないんだけどさ。今日の予定ってどうなってんの?」

「食事が終わったら、一旦トイレ掃除」


 トーマスがすかさず答え、次いで隣のディークが小さく挙手してこう続けた。


「それが終わったら、第四庭園の落ち葉拾い」

「そのあと、ディークとトーマスは第二師団の執務室に行く予定なんだ」


 ミシェルが控えめに挙手して、そう教える。


「その間、ぼく達は演習場の土をならして、それから宿舎の裏手の雑草むしりだって」

「掃除と雑用仕事だけでも、予定って埋まるもんなんだね~」


 感心と呆れがない交ぜになった思いで、ノエルはそんな感想を口にした。ここは無駄もないような場所だから、そういった仕事を取ってくるのも大変だろう。


「そういえばさ、第三班の奴らが書庫の整理を頼まれたらしいぜ」


 ふと、思い出したようにトーマスが言った。


「王宮側にある騎士団の書庫で、今度から俺達も自由に出入りしていいことになるみたいだ」

「他の奴らはどうか知らねぇけど、俺ら難しい本なんて読めないぞ」

「絵本があるかまでは聞いてないけど、タイチョーにでも確認してみるか?」


 トーマスが、指示を仰ぐようにノエルへ目を向けた。


 物のなかった幼少期、彼女が文字を教えながら読み聞かせてくれていた絵本は、彼らにとって少ない娯楽の一つだった。そのため、読書といえば絵本という認識になっている。


 今でも、数人で同じ絵本を広げて読むのがノエル達の読書スタイルだ。


「絵本がなかったとしても、子供向けの児童文学までであればどうにか読めるもんねぇ」


 少し考えつつ言ったノエルは、それなら楽しく時間を潰せるかもしれないと思った。


 やりとりを聞いていた周りの騎士達が、食事の手を止めて振り返る。立派な青少年達が絵本を読む光景は想像し難かったのか「せめて冒険小説にして欲しい……」と誰かがポツリと切に呟く声もした。


「少年冒険記は、まぁまぁ楽しかったな。海に繰り出して仲間と一緒に大陸を見付けるって話には、俺も興味が持てるし」

「懐かしいなぁ。俺も、そのおかげでちょっと難しい字なら書けるようになったんだよな」


 仲間の二人が、思い出すようにそう言った。


 すると、トーマスが途端に目を輝かせて、興奮したように身を乗り出した。


「そうだよな、砲弾も使いたい放題だし海賊って面白そうだよな? なぁリーダー、やっぱり海賊しようぜ。隠された財宝を探しに行って、最終的に貿易会社を立ち上げるんだ!」

「夢がデカいな。というかトーマス、貿易会社って言葉をどこから仕入れてきたの?」


 ノエルは、彼の夢がよく分からない方向に向かってるなと気付いて、困惑を浮かべた目を向ける。そうしたら別の仲間が「俺は海賊とかヤだよ」と唇を尖らせた。


「ここクビになったら、まずはギルドで冒険するって話で落ち着いたじゃん。トーマスはさ、ただ武器を製造して使いたいだけだろ?」

「武器は男のロマンだ! じゃあ、ギルドの後で海賊するんだったら問題ないだろ?」


 トーマスが、胸を張ってそう主張する。


 戦時中、本物の海を知っているマッケイに話を聞いて興味が湧いた。いつか皆で実際に見に行ってみようと話して、いずれはそれを叶えることは決めていた。


「まぁ、ちょっと落ち着けよお前ら」


 あちらこちらから飛び交う意見を一通り聞いたディークが、悪ガキ集団の副リーダーの一人として場を制した。


「冒険者登録して、自由気ままな旅の道中で海まで冒険すればいい。でも俺もトーマスと同じで、最終的には会社を立ち上げるのは有りかなと考えてる」


 フォークを持った手を上げて、「だからさ」と彼は皆に言う。


「ここを出たとしても、最終的には戻ってきて王都で店を立ち上げるってのはどうだ? 商人も面白そうだろ?」

「ディーク、それってお菓子も置いてくれるお店?」

「あはは、リーダーはお菓子に目がないねぇ」

「やっぱりなるなら冒険家ですよリーダー。ギルドに冒険者登録して、ドラゴン退治して人魚を探して、そのままばんばん冒険しちゃいましょーよ!」


 端に座っていた仲間の一人が、立ち上がって力強く主張した。


 近くにいる他の騎士達は、すっかり食事の手も止まってドン引きしていた。奥の席でぶるぶる震え始めている第一師団のマッケイ師団長の存在もあって、とにかく「なんつー話をしてんだよ……」と退職後の話に花を咲かせている彼らを青い顔で見守っている。


 すると、中央の席にけだるげに座っていた少年が、ふと顔を上げて疑問を投げた。


「陸上と海だと、強い敵がいるのはどっちなんだ? 全力で殺し合えるような相手がいるなら、陸だろうが海だろうが構わねぇけど」

「ザスクは相変わらずだなぁ。まぁ、俺としても海に怪物でもいるのなら賛成しないこともないね」

「黙れナイル。テメェみてぇな暗殺野郎は、三流怪物の相手でもしてろ」

「うふふふ、君みたいに美学もない惨殺こそ、手下怪物を相手にするのがお似合いじゃない?」


 戦い方が対象的な二人が、その途端に睨み顔と美麗な笑顔で『殺す』と伝え合った。

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