某珈琲店のアップルパイが超私好み
消費税が上がってはじめての休み。
肌がチリチリと焼けるような強烈な陽射しに嫌気がするが、陽射しの低さや薄や秋桜が風に揺れる様子にかろうじて秋だなと思う。
私はショッピングモールに向かった。
欲しかった本は売り切れで手に入らずやや気落ちしながら普段よりいくぶん空いているフードコートで食事を取り、帰路につこうと出口へ向かった。
出口の側には某有名珈琲チェーンの店舗があり、いつもは入る気にならない位並んでる店舗の横を通りすぎるだけだ。しかし今日は列も少なく、席に至っては半分も空いていた。
そういば、ハロウィン限定のタンブラーが可愛いと聞いたなと店内を見回す。残念な事にまだハロウィン限定の商品は並んでいなかったが、アップルパイ有りますの文字が書かれた立看板が目に飛び込んできた。アップルパイ好きの私は迷うこと無く流れるようにレジに並んだ。
レジのおじさんはスキンヘッドで少しレジスターの扱いが不慣れな様子だった。
「アップルパイはどちらになさいますか?」
その質問に私は戸惑った。
アップルパイは一種類だと思っていたからだ。
戸惑う私に丁寧にショーケースを指し説明してくれた。
「アップルパイは二種類ありまして、表面が通常のパイ生地のモノとクリスピーのモノがあります。そしてそれぞれ表面の違いだけでなく中の林檎の品種が違います」
と林檎の品種も教えてもらったので私からの信頼は抜群に上がったのは、言うまでもない。
選んだのは紅玉を使ってるアップルパイ。
紅玉は握りこぶし位の小いさい林檎で果肉がしっかりしてて崩れにくく酸味があってアップルパイとかコンポートとか火を通す料理は最適の林檎。秋の始まり、ちょうど今が旬の林檎で、お値段少しお高めでスーパーに並び、旬からずれるとスーパーでは見かけなくなってしまう。
好みのアップルパイがしっかりくっきりしている私は、この時期に林檎を買ってアップルパイを作るが、紅玉が手に入った時は特に嬉しい。
話がずれた。
目の前のアップルパイの話である。
器のパイ生地は何層にもなる薄い生地ががふっくらと膨らんでいる。そこにみっちりと詰まった飴色に煮込まれた林檎。林檎を、閉じているのは見るからにザクザクとした食感を感じさせるクリスピー生地。
見るからに美味しそうでワクワクとしながら一緒に頼んだアイスのチャイを一口飲んだ。
失敗したなと思った。
甘かったのだ。最初から加糖された飲み物だったらしい。
いつもは、珈琲をブラックで頼むので知らなかったのだ。ここのところカフェインを胃が受け付けず家で珈琲を飲んで気持ち悪くなる事が多いので、ミルクが入ってる胃に優しそうな飲み物をと思ったのだが、ミルクは欲しかったが甘さはいらなかった。これからアップルパイを食べるので甘さはそちらで取る予定だったのに。
カフェラテやミルクティーにして自分で調整出来る物にすればよかった。
気を取り直してアップルパイに向き直る。
三角形の先っぽの方から食べるのが癖だ。フォークで一気に切り取る。
先ず始めにクリスピーのザクザクした食感。次に煮込まれた林檎の感触の後に器の生地にたどり着いた。
断面を確認した。
思わず笑みがこぼれる。
中身が林檎だけなのだ。
アップルパイにはなぜかカスタードクリーム入りの物が多いのが、私はあれが嫌いだ。林檎の甘酸っぱい酸味とほんのりとした甘さがカスタードクリームの強い甘さによって消されてしまうからだ。それが好きな人には申し訳ないが、私にとっては邪道である。ウキウキとして口に含んだ時にカスタードクリームがあったときのあのガッカリした気持ち。忘れられない。
ちなみにカスタードクリームが嫌いかと聞かれると、大好きだと答える。特にシュークリームにはカスタードクリーム以外は認めない。生クリームとカスタードクリームの二種類入ってますというシュークリームは認めない。許されるのはカスタードクリームのみである。
アップルパイの話であった。
ザクザクしたクリスピー生地の食感と柔らかい煮込まれた林檎の食感が絶妙だった。温めてもらったので、焼きたてのような生地の香ばしさを楽しむ事が出来た。
林檎も酸味を残しつつほどよい甘さ、そして煮込まれているのにしっかりした果肉感があるのはさすが紅玉である。
私がアップルパイを作るときは手持ちの本のアップルパイのレシピから砂糖の量を半分にしている。酸味が残りつつもデザートとしての甘さを感じる分量なのだ。
ということでお解りだと思うが、めちゃんこ私の好みのバランスのアップルパイであった。酸味が残るバランスで作ってくれるお店はそう多くない。全力で甘いアップルパイが多い。
しかし、これは理想的な私好みのアップルパイ。
ここのアップルパイを買い占めたいと、強く強く強く思った。
しかし、アップルパイを作る私は知っている。どれだけ砂糖とバターを使っているか。
お昼もフードコートで食べてしまった後だ。
明らかにこれ以上は食べ過ぎである。
その気になればあと何個かは食べられる気がするが、明らかに食べ過ぎなのである。
ぺろりとアップルパイを平らげた私はしばらく悩みに悩んだ。そして、近いうちに必ずもう片方のアップルパイを食べることと今食べてるアップルパイを食べることを誓った。