一章 解き放たれた三編みグルグル眼鏡 6
夕飯を食べて、お風呂に入り、自分のベッドに倒れる。そして、今日1日我慢してきたことを暴れることで発散する。
「ああああー! 舞、可愛い過ぎんだろ! なにあれ! なにあれ! 無理! 無理無理! 親友である前に俺も男だからね! 無防備すぎるよぉ! 女の子って三編みと眼鏡取るだけであんなにも変わるのかー!」
バタバタとベッドを転がったり跳ねたりする。それはもう、まな板の上の魚のごときビクンビクン具合だ。
「うるっさいよ歩! 暴れるなら外で暴れてきな!」
母の一喝で俺は最小限のビクンビクンで小さく暴れる。
今日の舞は謎の積極性を感じた。行動一つひとつが俺のツボを刺激するため、平常心を保つのに苦労した。
帰りは普通だったが、人の視線を多く惹き付けていた。生徒に限らず、通行人男女問わず舞に釘付けだった。流石は天使。
「ふぃー。まったく我が親友は最高だぜ。そのうち写メとろ」
本人に気づかれないように撮るのではなく、堂々と撮りたいところだ。色んな角度から撮りたい。ローアングルを除く。
もう、開きなおった。外見が変わったからって手のひら返しするのが嫌だったけれど、別に問題ないって本人も言ってたし。昨日までの舞を否定するわけでもない。三編み眼鏡状態の舞の写真もたくさん持っているし。
眼鏡で思い出した。眼鏡外しているけれど、視力は大丈夫なのだろうか?
わりと大事なことなのでトークアプリで連絡を入れる。
『舞よ。眼鏡を外しているようだけど、コンタクトかね?』
返事はそのうち来るだろうとゲーム機に手を伸ばしたところでスマホが震えた。速い。
『眼鏡は伊達だったから裸眼』
マジか。伊達かよ。俺、親友名乗ってながらも舞のことで知らないこと多くね?
『なにゆえ、伊達眼鏡してたのん?』
『笑わない?』
『笑いませんとも』
『三編みと眼鏡はセットだったから』
『?』
首を傾げていると、スマホが震えた。通話のようだ。
「ほーい」
「こんばんは、歩」
「こんばんは」
「それで、どうして三編みには眼鏡か、という話なのだけれど」
「ああ」
「歩、こたつの上には?」
「みかん?」
「ショートケーキの上には?」
「いちご?」
「うん。だからね? 三編みには、眼鏡なの」
「つまり……付属品とかそういうの?」
「うん」
「なるほど……視力矯正のために着けてたわけじゃないのな。それなら大丈夫か」
「心配してくれたの?」
「当たり前だろ。無理して裸眼にしてるようなら迷わず眼鏡を推すわ」
俺も裸眼で生活できるので視力が弱い人の見え方、というのは想像ででしか分からないが、かなり危険と聞く。舞をそんな危険と隣り合わせにさせられるか。
「ふふっ、ありがとね。わたしは裸眼でもきちんと見えるから大丈夫。むしろ、伊達眼鏡をしてた頃よりも良く見えるかも?」
「伊達眼鏡ェ……」
「電話しちゃったけど、歩は何してたの?」
「俺か? 何にもしてなかったよ。ベッドでゴロゴロしてただけ」
「そうなんだ? わたしもベッドでゴロゴロしてたよ。奇遇だね?」
「俺達は魂レベルで絆が結ばれているからな。行動も似てくるさ」
「そういうことは淀みなく言えるのにねぇ」
「なにがだ?」
「べーつに。電話ってまだ大丈夫? 何かしなきゃいけないことあったらそっちを優先して欲しいけど」
「なーにを遠慮しているんだ。俺が舞以外に優先することなんてないぞ」
「まったくもう。天然なんだから。……それじゃ、きいてきいて。えっとね……」
寝る直前まで他愛ない会話で電話が続いた。舞が本気を出せば恋の成就なんて簡単だろうし、いつまで親友として舞の近くにいることができるか分からないから、1日1日を大切にしたい。