一章 解き放たれた三編みグルグル眼鏡 3
朝の一悶着から昼休みまでは特に変わりはなかった。クラスメイトの視線がひしひしと刺さったくらいか。昼食も終わり、舞が席を外したので俺も歯磨き等を済ますためにお手洗いに向かった。
歯磨きをしながらこの後どうするか考えようとしたところで、鏡越しに男子のクラスメイトの大半が整列して俺を凝視していた。え、なにこれ怖い。ホラー?
どうやら男子トイレで密談するために俺を追跡してきたらしい。それにしても男子トイレギチギチだぞ。なんと暑苦しい……。
歯磨きを済ませて振り替えると、サッカー部に入ってる男子が、代表として一歩前に出てきた。流石サッカー部。爽やかイケメンだ。羨ましいね。
「高坂。訊きたいことがある」
「なに? サッカー部君」
「オレは『さかべ』だ! 坂部!」
「さっかーべ……!」
「さかべだ! って、んなことは今どうでもいい! 花園だよ! 花園! アレはどういうことなんだ!? 変わりすぎってレベルじゃねぇぞ!」
「いや……。正直、俺が訊きたいぐらいだけど」
「ん? 高坂でも知らんのか?」
本当は心当たりはあるけども、あれは誰かに言い振らしていいものではない。俺を親友と見込んで俺だけに話した可能性が高いしな。
「ああ。親友でも知らないことの1つや2つ、3つぐらいあるよ」
「そんなもんか……。お前らいつも一緒にいるから何か知ってるかと思ったのだが」
「それは買いかぶりだよ坂部。坂部だって、友達の全てを知ってるわけじゃないだろ? 知ってたら逆にアレだけど」
「確かに……それはなんというか、気持ち悪いな」
「せやせや。というわけで、俺に訊いても答えられることはなんにもないよ」
「はい! はい! 次、おれっちの番!」
坂部を押して主張したのはいかにも軟派な、金髪をしたクラスメイトだった。確か、バンド部に入ってる奴だ。
「なに? バンド部君」
「おれっちはばんどうだ! 坂東!」
「ばん……」
「そのネタはもういいから! なぁなぁ、高坂、花園をおれっちに紹介してくれよ~! 一目惚れっちまったからさぁ~! 彼女の可憐さに!」
坂東が甘えるように懇願すると、後ろに並んでいた男子達も俺も俺もと主張をする。舞、他の男子から見ても可愛いのか……。
「紹介も何も、みんな同じクラスじゃないか。普通に話しかければいいのでは?」
「それができたら苦労しないんだよなぁ~! 今日、高坂が来る前に花園に話しかけたけど、超冷たいじゃん? 塩対応じゃん? 最終的に無視されたし! でも高坂を中継すれば大丈夫かもじゃん!」
俺は言葉に詰まった。舞の、恋に本気になる発言のサポートをするなら、今はまたとないチャンスだ。多くの男子を舞に紹介できるだろう。……しかし、心がチクチクとし、俺は、そのチャンスを先伸ばしにしてしまった。
「こればかりは俺の独断で動けないからな。とりあえず舞に訊いてみるよ」
「絶対だぞ!? 頼んだぞ、救世主!!」
舞の恋をサポートすると言っておきながら、この体たらく。なんて情けないんだ。