一章 解き放たれた三編みグルグル眼鏡 2
「おはよう、舞」
舞に挨拶を返してから自分の席に座る。この位置だと教室内が見渡せるので、周りのクラスメイトが遠巻きに舞を眺めて、何かヒソヒソと会話しているのが分かった。舞は周りの視線に全く興味ないようで、再び読書に戻っていた。
鞄を開けて飲み物を出しながら、ばれないように舞をチラ見する。
本を読んでいる横顔も可愛い。言うならば、美術だ。絵画だ。作品だ。ずっと眺めていられる。しかし、今更見惚れるというのは親友としていかがなものか。それではまるで、今までの舞には魅力がなかったと態度で表しているようなものではないか!
それでは舞を地味子、昭和女子と揶揄した、外面しか興味のない男子と全く同じではないか。それだけは絶対にしたくない。俺は舞と対等でいたいんだ!
とにかく自分を落ち着かせるためにお茶を飲む。ゆっくりと、呼吸を落ち着かせるように、ゆっくりと。
ペットボトルから口を離し、おもいっきり息を吐く。よし、大丈夫。いつも通りにするんだ。
普段通りなら教室ではあんまり喋らない。俺と舞は休み時間は基本、勉強してるか本を読んだりしている。なので、容姿が激変したからといって急に話しかけるようになるのは不自然だ。いや、今日はずいぶんと可愛いね、ぐらいは言いたいのだけれど、ちょっと、勇気ない。
一時間目の教科書とノートを鞄から取り出し、机に置く。授業で当てられそうな箇所の予習をしようとしたところで。
「ねぇ、歩」
舞は読んでいた本を閉じて、俺の方に身体を向けた。
「ん、どした?」
普段とは違うことが起きて俺は動揺したが、声が震えないように、噛まないように、普段と変わらないように、一語一語意識して声に出した。
「わたしね?」
「ああ」
舞と目が合う。見つめ合う。それは一瞬だったのか、数秒だったのか、数時間だったのか。時間感覚が狂うなかで、それでも、頬が熱くなるのだけはハッキリと感じた。
「……ふふっ! 歩って、分かりやすいよね」
「な、なにがだよ!」
「なんでもなーい」
「今日はずいぶんと機嫌がいいんだな?」
「まぁね。先制パンチが成功したし?」
先制パンチとはなんだ、と訊こうとしたところで、学校のチャイムが鳴った