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三編みグルグル眼鏡の変身  作者: 雨雪雫
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一章 解き放たれた三編みグルグル眼鏡 11

 土曜日の朝、俺は朝食を済ませてから部屋の掃除をする。舞から9時に行くと連絡があったのでそれまでには完璧に仕上げたいところだ。


 舞が俺の部屋に来るといつも定位置、ベッド頭側隣の床に座る。そこを特に入念に掃除をし、クッションも敷いておく。


 そして9時ピッタリに家のチャイムが鳴る。間違いなく舞だろう。早くお迎えに行かなくては。


 1階に降りて玄関に向かうと、そこには舞と母さんが向かい合って硬直していた。舞は俺を見つけるとにこりと微笑んだ。眩しい。


「歩、おはよう」

「うん。舞、おはよう。さ、上がって上がって」

「ちょっと待ったー!」


 母さんが突然右手を突きだして叫ぶ。若干声が裏返っていた。


「えっ? 舞ちゃんなの?」

「はい。お母様。わたしは舞です」

「えっ、いやでも……ええっ!?」

「こちら、今朝作ったクッキーです。どうぞ、お父様と一緒にご賞味下さい」

「ああ、舞ちゃんだ……いつもありがとう……」

「いえ。それでは、おじゃまします」


 舞は頭を丁寧に下げると、くつをきれいに並べて玄関に上がった。一つひとつの所作が流れるように洗練されている。


「歩? 舞ちゃんを部屋に案内したら、リビングにいらっしゃい? 紅茶、用意するから」


 母さんは暗に事情聴取するから来いや、と言っている。仕方ないので舞を部屋まで送り、リビングに戻る。


「歩、舞ちゃん……随分と変わったわね。最初見たときアイドルとかモデルかと思ったわよ」

「まぁ、うん。でも舞は舞だから。中身は変わらないよ」

「ふうん。ほら、紅茶淹れたから。持っていきなさい。舞ちゃん、可愛くなったからって粗相をするんじゃないわよ」

「しないから……」


 母さんの小言を聞き流し、自分の部屋に戻る。舞は定位置に行儀良く座っていた。窓から注ぐ光が舞の髪で反射して神々しい。


 そして、改めて舞の服装に目が惹かれる。いつもは学校指定のセーラー服なのだが、今日は滅多に見ることができない私服姿だった。


 清潔な白のブラウスに、赤色でミニのプリーツスカート。そこにタイツが加わり、どこを見ても可愛い。完成された美少女。いつまでも眺めていられる。


 頭から爪先まで満遍なく眺め終えると、ふと、舞と目が合った。瞬間、冷や汗が流れる。じろじろと見過ぎてしまった。


 何と言って言い訳しようかあたふたと慌てていると舞は微笑して手招きをする。


「気になるなら、もっと近くで見ていいよ?」

「えっ? あ、いや……大丈夫、大丈夫。えと、その服、舞に良く……」

「ストップ」

「えっ?」

「それは、明日言って?」

「明日?」

「うん。今日は、本を読みに来ただけだから」

「???」

「ね、ね、明日観る映画の漫画、見せて?」

「あ、ああ。分かった」


 映画の原作を本棚からごっそりと取り出し、舞の近くに積んでおく。後は勝手に読むだろう。俺は自分の机に座り、今週授業で勉強した科目の復習をする。


 しかし、あんまり集中できなかった。ちらちらと横目で舞を覗き見ている影響だ。舞に見ていることを悟られないように一瞬だけしか視界に入れない。だからこそ、それだけでは満足出来ず、何度も何度もチラ見をしてしまう。


 自分の部屋に女の子。それも、こんなにもとびきり可愛い女の子がいるという状況に頭が熱くなる。今までも舞がこの部屋に来たことは何度もあるが、その時には正直全く意識しなかった。親友だからこそ、男友達と同じ感覚だったのだ。


 今、俺は間違いなく舞を親友ではなく一人の女子として見てしまっている。それが自分の中でぎこちなさを生み出し、意識させ、フワフワさせる。


 こっそり深呼吸して落ち着きを取り戻そうとしても、微かな舞の香りが鼻孔をくすぐるだけで、より意識が向いてしまう。音楽も特に流していないため、舞が少し動く度に服が擦れる音が聞こえて、それだけで色気を感じる。


 舞も時折俺の方に視線を向け、目が合いそうになる瞬間が多々あったが、慌てて目を反らし、難を逃れる。おそらく、集中して勉強できてない俺が心配なのだろう。


「歩、ちょっと分からないところがあるから、こっちきて?」


 そわそわしていると、舞は自分の左側をぽんぽんと叩き、俺を誘う。そこに座れ、という意味なのだろうか?


 間違ったら恥ずかしいので、とりあえず様子見で舞の正面に座ってみる。


「こっち」


 やはり左側をぽんぽんと叩く。緊張を抑え込み、舞の左側に座り、壁によっかかる。舞の香りが強くなり、ドキドキが、より一層増す。


「それで、分からないところって?」

「んとね」


 舞が俺に体重を預けるように身体が近づく。頭が真っ白になった。彼女の長い睫毛が鮮明に見える。


「舞、ちょっとだけ、近くない?」

「そう? これくらい近づかないと、本、見えないよ?」

「そ、そうかな……」


 舞の疑問に答えている間はずっとくっつくことになった。役得ではあったが、心臓が持たない。

 

 舞と一緒にいると感じる不思議なこの感覚は、何なんだろう。良く、分からない。

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