一章 解き放たれた三編みグルグル眼鏡 10
四里杉にモテレベルが1だと宣告された夜。自室のベッド上で俺は苦悩の声を出して唸っていた。
何故モテないのだろうかと反省しているわけではなく、俺がひいきにしている少年漫画の映画が現在上映されているのだが、それを今週の土曜日に行くか行かないかを悩んでいた。
違う。もっと正確に言うと、舞を誘ってみるかを悩んでいた。しかし、舞は根っからの文学少女であり、彼女の本棚を細かく観察したことはないが少女漫画すら持ってなかった気がする。
なので、漫画を舞に貸して布教するにしても、この漫画は十数巻あり、読むとなるとかなり時間がかかる。俺みたいに漫画を読むのに慣れていれば一気読みで半日もかからないが、舞の場合は朝から晩までかからだろう。
それなら本を貸して、ゆっくりと読んでもらって来週映画に誘えば良いのだが、近くの映画館の上映スケジュールを見たら来週の金曜日で終了予定とネットに書いてあった。ゴールデンウィーク明けまで延ばせば良いのに。
1人で映画に行けば悩む必要もないかもしれないが、どうせなら舞と観たかった。共有したかった。どうすっかなー、と頭をフラフラさせているとスマホが震えた。舞からの電話だ。
「はいもしもし」
「こんばんは、歩」
「こんばんはー」
「……」
いつも通りの挨拶を交わすと、舞はしばらく無言になった。通話が切れたのかと考えスマホの画面を確認したが、ちゃんと繋がっているようだ。
「歩っ、あのね?」
「ん?」
「今日の昼休み……変な人が来て、変な人とわたしが前世の恋人とかなんとか言ってたけど、アレ、変な人の嘘だから! ……その、真に受けないでね?」
舞にしては珍しくどこか焦ったような声音だった。
「もちろん分かってるよ。昼休みのは誰が聞いても妄想、または厨2だったし。舞、今日は災難だったね」
「……うん。知らない人に急に話しかけられるの、怖い」
俺は今更ながら後悔した。あの時、舞の前に出て護るべきだったのではないか。俺が緩衝材になれば舞は怖い思いをせずに池面を追い払えたのではないか。
「舞、ごめん。あの時俺が間に入るべきだった……」
「ううん。歩は悪くないし、あの時は突然だったから。……でも、もしもまた同じようなことが起きた時は……護って、くれる?」
「あ、ああ! もちろんだ! 約束する! 絶対護る!」
「……嬉しい! 歩のこと、頼りにするね?」
「任されよ! これでも男だからね!」
「ふふっ! ありがとっ! それじゃ、この話はこれでおしまい。それで……次の土曜日なんだけど、一緒にお買い物しよ?」
舞から遊びに誘ってくれることが初めてだったことと、さっきまで考えていた映画に行く曜日が土曜日だったことが頭によぎり、一瞬だけ固まってしまった。
「おっ、いいぞ! どこに買い物行くんだ?」
「…………」
「舞?」
「歩、他に予定とか、したいことあった?」
「えっ!? いや、まぁ、予定って程ではないけど。でもたいしたことでは……」
「じゃあ、土曜日に何かしたかったんだ? 教えて?」
「あー……。それじゃあ……」
俺は先ほど考えていた映画について話した。舞は神妙に相づちを打つ。
「大丈夫、大丈夫。映画は日曜日に行くから。土日どちらに行っても変わらんし」
「その映画ってどういうお話なの?」
俺はこの機会に件の漫画の素晴らしさを知ってもらうために、ネタバレに気を付けるため、空白が生まれながらもゆっくりと考え、丁寧に説明した。間が空く拙い説明を舞は最後まで聞いてくれた。本当、優しい子だ。
「歩、その映画の漫画って、1日で読める?」
「おっ、おっ? 興味出た? まぁ、読めなくはないけど、朝から晩までかかるかもだよ?」
「大丈夫。それじゃあ、土曜日に歩の家でそれを読ませて? それで日曜日に映画とお買い物、行こ?」
「いいね! いいね! いやー、日曜日が楽しみだー!」
「うん! わたしも!」
テンションが上がってつい、ベッドの上でジャンプした。母さんに怒られた。




