一章 解き放たれた三編みグルグル眼鏡 9
男子トイレで情報通の彼と合流し、そのまま校舎裏へと移動した。桜木が等間隔に立ち並び、葉と校舎が日の光を遮り、薄暗い。校舎裏と言えば不良がたむろするイメージであるが、この学校には飛び抜けた不良がいないらしく、誰もおらず閑散としていた。
例の情報通と呼ばれる男子生徒は一年生の新聞部で、四里杉と名乗った。黒縁の眼鏡におかっぱ頭で、リスのような出っ歯が特徴だ。彼は、ずれていない眼鏡をくいっ、と動かすと、おもむろに口を開いた。
「さて、さて……このぼくを呼んだ、ということは情報を知りたい様子。ぼくの信条は等価交換、でね。知りたい情報があるなら情報を渡してもらうよ」
「おけおけ~。それじゃ、さっきおれっちの教室で起こった事件、花園にまつわる情報とかどうだ?」
「花園の情報……! それは今ぼくが一番欲する情報だね! 新聞部の女子から聞いて驚いたよ。1年1組に天使が舞い降りた、とね。それでぼくも色々調べてみたんだけど、これが驚いたことに、花園の情報は全くと言ってないんだ。精々、前の容姿、三編みに眼鏡をかけている、ぐらいだね」
俺は弁当を立ちながら食べて、その様子を傍観していた。校舎裏にはベンチといった気が利いているものなどない。かといって地面に座るのは躊躇われた。シートも誰も持っていないようで、俺だけじゃなく全員もれなく立ちながら昼食を摂っている。
「よっしゃ! それじゃあさっそく……」
坂東は先ほど池面が起こした一幕を手振り身ぶりを交えて説明した。教室を出る前、舞はクラスの女子に囲まれていたけれど大丈夫だろうか。心配だ。
「なるほど、なるほど。池面、顔はいいだろうに全くなびく様子はなさそうだし、花園は身持ち固い、と」
四里杉はポケットから出した黒革の手帳に何か書き込んでいた。
「それな~。もう特定の相手がいるのか、男子に興味ないのか分からないけど……おれっちも声をかけてみたけど会話にならなかったぜ」
「ふむ、ふむ。まぁ、君が相手じゃ大抵の女子が同じ扱いするだろうし、サンプルとしてはお粗末だけどね」
「ええ!? おれっちってそこまで!?」
「知りたいかい? 貴重な花園の情報を提供してくれたし、ここにいる男子のモテレベルを開示しようか?」
「えっ、マジで! おれっち、超興味あるんですけどー!」
モテレベルなんてあるのか……。坂東は乗り気だけど、俺は正直、あまり聞きたくない。現実を叩きつけられてもむなしいだけだ。
「では、では。まずは坂東からだね。キミはモテレベル5段階中2だね。明るい性格はポイント上がるけど軽い言動にチャラい容姿がマイナスだね。そのままバンドを極めればファンと付き合える可能性もありそうだけど、どうだろうねぇ。あるいは、同じベクトルの女子、いわゆるギャルを狙えばそれなりだね」
「おれっち、ギャルは、ちょっと……」
「次、坂部。これはもう文句なしの5だよ! 爽やかなスポーツ少年でリーダーシップもあって、頼れる男だ! これでモテないはずないね。いやはや羨ましいねぇ。ただ、特定の相手がいるという情報はない様子。他校に彼女さんがいるのかな?」
「……いや、いないが……」
「……えっ? アレ? でも……モテ……」
「……」
「つ、次は高坂だね! キミは……とても言いづらいが、ぼくと同じ、1だね。特記がない。影は薄いし、何か飛び抜けた才能があるわけでもなければ、コミュニケーション能力が高いわけでもない。女子と接点を持てないからモテないんだね。女子と仲良くなることがあっても、優しい人止まりだろうね。かなり頑張らないと彼女をつくるのは難しいかもしれないねぇ」
分かってはいたけれど、やはり俺はモテないのか。まぁ、昔から女子に話しかけられることもなければ、縁があったわけでもない。今までで女子と話した内訳99パーセントは舞だし。
しかしまぁ、モテるための努力をしていないのだからこの評価は妥当だろう。帰宅部だし、舞以外の女子に話しかけてみようと思ったこともない。
「それにしても高坂、キミ、情報が少ないねぇ。花園並に謎かもしれない。新聞部の情報網を持ってしても基本情報しかないなんてなかなかいないよ。もしかして、何か秘密があって隠してる? ミステリアスを売りにするのもアリかもねぇ」
「俺の場合は影が薄くて特記することないから基本情報意外ないのでは? 特に秘密もないし、情報を集めている人達の興味を引くとは思えないし」
「うーん。そうなのかなぁ。ぼく、何か見逃しているのかなぁ……」
それからは坂東の要望でどこそこの女の子が可愛いなど、俺には興味のない話題がメインとなったので弁当を食べることに集中した。




