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半分は普通の人のかたちをしていてもう半分は……普段見ることがないもの。じんたいのたいないを模したもの。つまり、人体模型だった。
「あ、人体模型くん。探していたのよ」
沢渡先輩は相変わらず親しげに話していた。僕は、蔵持に起こされ足元に転がっていた懐中電灯を拾った。授業でもじっくり見たことのない人体模型はやはり、精巧に作られていた。心臓の部分に掠れているがなにか文字が書かれていた。
……の…………もの
その視線に気が付いたのか、人体模型は、
「あぁ。これ?これは入学したての頃、要ちゃんが“これは私のもの”って俺に書いたんだよ」
「やだ。そんな昔の話しないでよ」
カップルみたいにいちゃついているというか、人体模型くんしゃべるのね。口はあるし当たり前か。ここまでくると大抵のことでも驚かなくなってきた。
僕は、生徒手帳を出して人体模型くんのことを記入した。“校内をうろつく人体模型。ずっと立ちっぱなしだから散歩と称し運動しているようだ。”
人体模型くんと別れ僕らは、下半身のない女生徒を探す。
よっつめの七不思議。とある教室の一番後ろの席で下半身がない女生徒が座っている。
そして、その女生徒はいた。一番僕が望まなかった教室。それは、蔵持も同じだろう。沢渡先輩は逆に喜びそうだな。
そう、その女生徒は、僕のクラス。そして、いつも僕が座っている席にいた。
下半身がないのだから座っているという表現が正しいのかわからない。その女生徒は、僕らに興味を示さずつまらなさそうに外を眺めている。
「相変わらずつまらなさそうな顔しているわね」
「…………じゃあなにか面白い話してよ」
「うーん。そうねぇ」
沢渡先輩は、ちらりと僕の顔を見て不適に笑った。
「ここの席、この棗くんの席なのよ」
は?なんで沢渡先輩が知っているんだ?僕の席はおろかクラスも知らないと思っていたのに。
「そうなんですか?棗先輩」
「……まぁ。そうだけど」
「なにか面白いものでも入ってないかしら?」
沢渡先輩が僕の机の中を覗こうとしている。
「なにも。今までだって他の誰からも入れられたことないわ」
たしかに、想いを綴った手紙もプレゼントも入れられたことはない。蔵持は、そんな僕を同情するような目で見ている。やめろ、そんな目で僕を見るな。
“とある教室に下半身がない女生徒はいた。その席は、今も使用している生徒のことを考慮して記載しない。”
僕が書き終えたところでかすかにピアノの音が聞こえてきた。この曲なんだっけ?たしか、小学校の給食の時間に流れていたような気がする。
いつつめの七不思議。二回の踊り場にある姿見に深夜一人で映ると異世界に連れていかれる。
音楽室は、特別校舎にあるから一度、一階まで行ってから行く必要がある。その際に、踊り場にある姿見のところによることにして、その場を後にした。
教室を出るときに下半身がない女生徒を横目で盗み見たが、たいして興味を示さずにやはり、つまらなさそうに外を眺めていた。あの席に座るのか。知りたくない事実だった。むなしく扉の音だけが暗闇の校舎に響いた。
ピアノの音をBGMに二階にある姿見へと向かった。この曲を聞いているとなんだかお腹が減ってくる。そりゃそうだった。僕と蔵持は昼食以降なにも食べていない。あんパンとポテトチップスを食べていた沢渡先輩はノーカンだ。
沢渡先輩と蔵持がまるで示し合わせたかのように姿見の二歩手前で止まった。
「なんで進まないんですか?」
「ほら、みんな異世界に行ったら困るなーって思いまして」
異世界に行ったら新しい生活を始めたらいいじゃないか。案外、楽しいかもよ?行ったことないけど。
「だぁーいじょーうぶよ。もし、引きずり込まれたら私たちが何とかするから」
そう言いながら沢渡先輩は、僕の背中を強く押した。その衝撃で僕は一歩前に踏み出してし、姿見に僕が映し出された。
「…………」
「…………」
「……なにも起こりませんね」
蔵持、そのフラグやめろ。へし折りたくなる。姿見が歪んだかと思えば、中から両腕が出てきて僕の手首を掴もうとしている。
「じゃーんけーんぽん」
鏡の中の手は、咄嗟のことで理解できなかったのかパー。沢渡先輩はチョキ。
「私の勝ち」
沢渡先輩が笑うと両腕は、いつの間にか消えていた。
「危なく引きずり込まれるところだったじゃないですか!」
「なによ。助かったんだからいいじゃない。それに助けたのはこの私よ。感謝してもいいくらいだわ」
たしかにそうですが、その原因を作ったのもあなたですよね?
「あ、ありがとうございます」
「わかればいいのよ。わかれば」
なんか納得できない気もするが、助けられたのは事実だからしょうがない。
“注意!姿見に映るべからず。映ってしまった時は、じゃんけんに勝て”と記入した。
僕が引きずり込まれそうになっている間もピアノの音は続いていた。




