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螺旋階段を抜けて

大きな怒号が響くなか、アベルは息をきらしながら最上階を目指して突き進んでいた。


手には聖剣を携え、碧眼で金髪をなびかけているそのどこか中性的な外見は勇者というその呼び名にそぐっているように見えた。


「なあ、ジン。本当によかったのか。」


隣にいる幼少期からの親友に問う。


彼はいつもの不適な表情を崩さずに問い返してくる。


「何がだよ?」


「今しているのは俺らが悪魔に受けた仕打ちと変わらないじゃないか。こんなのは悲しみの連鎖を生むだけなんじゃないか。」


ジンは頭を掻きながら言った。


「あのなー。じゃあ悪魔には無抵抗で侵攻されるのが最善手っていうのか。そりゃあ魔族は人間とおんなじ生活をしているさ。でも悪魔を動かしてるのもあいつらなんだ。」


「・・・・」


「どっちにしろ結果はかわんねーよ。お前が動こうと動くまいと。」


「それは俺らが魔王に勝つことができたらの話だろ。」


強力な力をもつ魔族の頂点、魔王。


今回の攻撃では連合軍が魔王軍の上官である魔族を夜に紛れて強襲し、その隙に各部族の最強の少数で魔王を打つと言う計画だった。


「そんな迷いは死に繋がるぜ。」


と軽い調子で言うジンだったが今はそのいつもと変わらない態度に驚きを感じてしまう。


まだ手は少し疼いて震えている。


例え魔王がどんな人物でも倒す覚悟はある。

強大な力に挑むのが怖い訳ではない。


しかし役目を全うできなかった場合については別だ。

そこで生き残った魔王の旗印にさらに悪魔が集い。種族間で連合しても勝てなかったという事実と共に全種族にとっての暗黒期が到来する。


その役目の重さに大きな重圧を感じてしまうのだ。


そんなことをしているうちに最上階が見えてくる。


「勇者よ。これをみろ。」


エルフ族の英雄ミーミルが扉を指差してくる。


「これは・・・相当強力な封印ですね。」


「ああ、恐らく全員で攻撃にしないと空かないような代物だ。」


「ここで魔力を消耗するのは避けときたいのに。」

妖精族のエスカノールがいうと横から声が入る。


「おーっとストップストップ。そんな荒っぽいことしなくても開くって。」


ジンは一人で前に出ると取っ手に触ようとする。


すると取っ手からは弾かれるのだがそれに構いなく無理矢理手を伸ばしていく。


電流のようなものが走り、焦げ臭い空気の臭いが漂う。


そのまま取っ手をつかんでしまうと封印はすぐにとけ、ゆっくりと扉が開く。


「ジン!どうやって。」


「俺は手癖の悪い盗賊(シーフ)だぜ?ちょっとてこずっちまったが特殊技能(スキル)でこんなもんよ。」


ちょっとというがジンが結構なダメージを食らってしまったのが態勢や顔色から伝わった。


「ジン、すぐに治癒魔法をかけてもらえ。」


「こんくらいどうとでもなるさ。本当にヤバイなら自分のポーション飲むさ。折角魔力温存したんだ。早くいこう。」


ジンと眼をあわせるが向こうは譲ろうとしない。


しょうがなく、奥の部屋に向かうと大きな扉がそびえたっていた。


「この奥か・・・」


横にも小さな扉があったが今のところは無視をしておく。


するとその時アベルの鋭敏になった聴覚が厚い壁の向こうの声に気づく。



少女と少年の声?どうしてだ。


気にはなったが城をしっかりと見て回った以上、ここにいるはずだ。


そのそびえたつような扉を大きく力を溜めてから引いていく。


あまり開けられていなかったような音と共に開いた扉に即座に剣を放てる状態にしながら中へ侵入する。


「!?」


しかしそこには誰もいなかった。


「勇者様!」


「アベル!」


というような声と共に仲間も次々と入って来るが部屋の様子に絶句する。


「いない?そんなはずわ・・・」


アベルの目の前の光景が信じられなかった。


長い試練を越えて遂に追い詰めたと思った魔王に逃げられたなんて。


それどころか部屋の外から聞こえた少年と少女の姿すら見当たらない。


誰もこの状況を説明できないまま時が過ぎていく。


黒雲が月を覆い隠し、更に闇に飲まれていった。






「ここまで来ればひとまずはいいだろう。」


螺旋階段をひたすら降りていると明かりのある通路まで繋がっていた。


息をきらしながらひとまず立ち止まると大きく酸素を取り込んだ。



「大丈夫か?」


「大丈夫じゃ・・・ないですよ。」


と魔王の方は壁に突っ伏すような状態で息もたえだえという様子だった。


魔王なのに一般人よりも体力がない様子に本当に普通の女の子なんだな。


そう思うと少し微笑ましくなってくる。


「しっかしこの階段長いな。ここでたぶん城の地下ぐらいだろ?」


「え?あー私のこの道についてはよく知らないので。寧ろなんで知ってたか聞きたいくらいです。」


「俺もここのことは知らなかったよ。けどまあゲームだったら隠し扉くらいはあるかと思ってな。」


その言葉に少女は頭を捻る。


「げーむ?何ですかそれ。」


弱ったな。と光希は思う。


見つけたのは半ば勘なのだ。あまり理由を聞かれても困る。


「まあ言って見れば只の勘だよ。」


と正直な所を言って見るが、


「貴方、何者なんですか?とても人間側の味方をしているようには見えない。」


と逆に怪しまれてしまう。

しかしそれ以上に答えようがないのでしょうがない。


光希は少し考えたあと冗談めかして答えた。


「んー、まあ勇者になりきれなかった一般人市民かな。」


魔王はその回答に更に意味がわからないという風に首をかしげたがそのまま力強く頷く。


「あの状況下で助けてくれたのは貴方だけでした。だから信じてみます。」


「そうしてくれると助かる。」


通路に光が差し、出口が見えてきた。

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