第一の関門(ファーストステージ)は魔王の部屋
異常に気づいたのはいつからだろうか。
落ちている。
どこまでも落ちていく感覚。
「あ・・れ・・?」
どうも記憶がはっきりしない。
覚えているのはいつも通りに携帯ゲームをベットでいじってたことのみ。
いつの間にか寝落ちていたのだろうか。
ということはこれは夢?
高速で下から上へと変化していく景色は不思議な模様を描いていた。
グラデーションのように刻々と変化しては消えていく。それを繰り返している。
夢だったらここら辺で地面に衝突しそうになって目が覚めるんだけどな。
と考えながらも落ちていくと空間が螺旋状に歪み始め、先に光が見えてくる。
やっと夢が終わるのか。まあこんな夢よりかは現実のほうがましか。
さらに光は強まっていく。落ちるスピードは更に早くなっていき、光によってほとんど何も見えない。
そして、現実に拡張される。
「やっと夢が終わったか。」
大きく伸びをするといつの間にか寝巻きから着替えているのがわかった。
「あれ?なんだこれ。」
手を伸ばすと下は重厚なカーペットの感触で明らかにベットではないのがわかった。
「どうなってんだ。ベットから落ちたのか。」
寝惚けがとれないまま体制を起こすが自分の部屋にはカーペットなんか敷いていないはずだ。
不意に手が何かに触れた。
「なんだこれ?」
目を擦ってよく見るとそれはRPGなどでもお馴染みの長剣だった。
あー不味い、ゲームしすぎてこんななのまで夢に出るようになったか。
早く起きろとばかりに何度も頬をつねるが痛みが顔を走るだけで終わる。
「痛ててててって 、え?」
しかしこれのお陰でようやく部屋、というより大広間を見る余裕ができる。
そうまで言うほど大きな部屋だった。
テラスや本棚なども並ぶなか、窓が点々と配置され豪華なシャンデリラには凝った飾りつけられ、壁も黒を貴重とした高級感漂う城の一室という風情だった。
月の光が注ぎ込んでおり、それを雲が侵食するようにして影がさしこんでいる。
しかし遠くからくぐもってはいるが叫び声などもしているように思えた。
なんかボス戦手前のセーブポイントのような場所だった。
ゆっくりと歩いていくと奥には壮大な扉があり、とても自分一人では動かせそうにない。
とにかくあ、これ次ボスだわ。と思わせるには充分だった。
そこら辺でようやく現状に頭がついてくる。
「もしかしてだけど異世界転移しちゃったのか!」
頭を抱えそうになった。選択肢としては3つ
1、これは夢である。
痛みもあるし、リアル過ぎるので却下。
2、ここは異世界である。
雰囲気としてはまさにこれだ。しかしこんなことが現実であり得るのか。
3、ついに頭が壊れた。
これはあって欲しくない。しかし2よりは可能性がありそうで怖い。
ひとまず{2}だとしても普通この手の物語って始まりの町とかに出現するはずだよね!?
「なんでラスダンみたいな城なんだ。」
先程よりも声は落としたがそれでも叫んでしまうのはしょうがないことだ。
Lv1の勇者がLv99の魔王に立ち向かったらどうなるか何て火を見るより明らかだ。
即die
一撃で決着
没シュート
みたいな未来がすぐに見える。
「こうなったら・・」
すぐにその一番大きな扉から離れると反対側の扉へ向かう。
こっちから敵に会わないように逃げるのが絶対正解だ。
こちらの扉ならそんなに大きくもないし大丈夫だろう。
そう思って手をかけるが簡単に弾かれてしまう。
ナンデアカナイ
よく見ると扉とノブには複雑な文字が刻まれており、これは輝いて浮かび上がっていることによって弾かれてしまっているようだ。
即死トラップでないだけまだいいがそれでもこの状況、詰んでいるのと変わらない。
なら窓からならどうだ。
と思い窓みるが扉と同じような文字が刻まれており、ゲンナリする。
「詰んだ・・・確実に詰んだ。」
そもそもあの王の間みたいな扉を光希一人では動かせるはずもない。
何かないかと探しているとその巨大な扉の横に似たような扉だが二メートルもないような物があるのを発見した。
「けど・・これって王の間と繋がってそうだ。」
唾を飲み込む音がえらく大きく響く。
しかし立ち止まっていても状況は変化しない。
「行くしかないか。」
どうせ役にはたたないと思いつつも剣を拾っておく。
見た目よりも軽かったがそれでもそれなりの重量で軽々とは持ち運べない。
小さな扉の近くまで来る途中で一度落としそうになってしまう。
その時少し見えた刀身に見覚えある赤褐色を見た気がして鞘をあげると刀身は完全に錆びていた。
むしろこんなに綺麗に錆びる野あのかと言うほど全面を覆っていてもとからそういう剣だったかのようにも見える。
「別に期待してた訳じゃないけどLv1装備かよ。」
まだ身体につけてる軽鎧のほうが高級そうだ。
流石に落胆を隠しきれずそれでも一応藁にもすがる思いで剣をもって扉を慎重に開けていく。
すると奥から
「誰ですか?」
という若い少女の声が聞こえた。
それでも警戒を緩めずゆっくりと入室していくとそこには先程と同等の広さの部屋が広がっており、簡易な王座の横には天涯つきのベットがあった。
そこから声は聞こえて来たようで、そちらを着目する。
そこにはまだ15.6才ほどに見える銀髪の少女が上半身だけをあげたままこちらを見ていた。
少女はその澄んではいるが沈んだ声で問う。
「勇者ですか。思ったりも来るのが早かったですね。まだ三階は下にいると思っていましたが突破したのですか。」
「なんのことを言ってる?」
そこまで言って光希は思い出す。
前の部屋でくぐもった叫び声が聞こえたことを。
つまりあれは今現在この城を勇者が攻めていたのか月が半分位しかでてなかったのにしっかり物が見えていたのはは城下の戦炎があったからなのかもしれない。
恐らくその勇者と勘違いしてしまったのだろう。
少女の手は微かにしかし遠くからわかるほど震えていた。
「さあ、殺してください。そして民を殺すのをやめてください。」
悲痛な声だった。震えは声にまで影響を与えている。
その少女を静かに見つめながら光希は返事をする。
「残念ながら俺は勇者じゃないよ。」
そして少し近づいて疑問を口にする。
「しかし君は魔王なんだろう?何故俺を殺さない。」
少女は伏せぎみだった顔をようやくあげる。
「勇者じゃないのですか・・・確かに私は魔王だけど力はないよ。」
と苦笑したように言う。
「ただ塊儡にするために、血族だから即位させられただけですから。」
そして顔を覆う。
「そうやって利用していた大臣なんかも今回の種族間連合軍の攻撃の途中で逃げてしまって残る戦力も少ない。もうこれしか方法はないんです。」
そして胸にかけてあったペンダントに触れると
少し落ち着いたように手をどける。
「これでも魔王ですから。」
その姿はどう見てもただの少女にしか見えなかった。
「どなたかは存じませんが早く逃げた方が良いと思います。ここにも火がくることもあると思うので。」
そんな魔王を光希は真正面から見る。
「君はどうなんだ?」
「え?」
「魔王としてじゃなくて君自身はどうしたいんだ。」
「そ、それは」
この反応をみて確信する魔王や人なんて関係無いただ生きたいと願っているのは一緒なんだって。
「恐らく君が大人しく殺されたってなんの意味もない。」
こういう世界観では魔族と人間の仲は大抵最悪だ。
聖戦と称して完全に殺戮をされるだろう。
「そんな・・・そんな不合理な。」
「魔族も人間も同じようなことをお互いしてるはずだ。」
「でも、もうどうしようもないんですよ!」
彼女の目には涙が溢れていた。
「魔族とか人間とかエルフとか獣人とかそんなのは。ただ争いを終わらせてほしい。」
「諦めるのはまだ早いって。」
この状況など先程のLv1勇者とLv99魔王の戦いを想像していた時と比べれば楽なものだ。
とにかく逃げればいいのだ。
「こういう城だったら・・・大体王座の裏くらいにギミックがあるはず。」
王座の裏をよく調べているとそれらしき機構を発見する。
「これは何かをはめるタイプか・・?」
部屋を順当に見ているとふと少女のペンダントに目が止まる。
「早くこっちに来て!」
「え・・あ、はい。」
もう半ば放心したような状態で少女は近づいてくるとそのペンダントを手に取るとはめこんでみる。
すると途中でペンダントとその周りの文字が輝き始め、さっきまでは確かにあった後ろの絵画が消える。
「よし、いくぞ。」
呆気にとられている少女の手を引っ張り、ペンダントをはずしながら少女にかけてやる。
そんななかでもしっかり剣を持ったままで思わず少し笑ってしまう。
現れた階段を降りているとペンダントの効果が終了したのか後ろの絵画が元通りになっていく。
それでも光希は振り返らずに走った。