私が居ない日
すごく長い時間 寝ていたような感覚で目覚めた。
「春瑠...」
今日は、春瑠が朝ご飯の当番だっけ?
散らかったままのカウンターにマグカップに入ったコーヒーがひとつだけあった。
「これだけ?私のは?...パンも目玉焼きもないじゃん。」
(あれ?喧嘩中だっけ?)
返事のない春瑠を横目に冷蔵庫に向かった。
(なにこれ?)
カウンターだけでなく、キッチンもシンクの中も汚れた食器がそのまま放置してあった。
「春瑠?」
少し苛立ちながら私は声をかけたが、春瑠はコーヒーを飲むこともなく、窓の外をみていた。
置きっぱなしのグラスには乾いたお茶の跡が残ったままで、私はそれを取ろうと手を伸ばした。
「え...」
ふわっと指が宙をかく。
「なに?」もう一度触ろうとするも、指はスルッとグラスをすり抜けた。
呆然としている私と、呆然としている彼がいた。
ふと、春瑠を見る。窓の外を見てる彼は、なにを考えてるのかもわからないような、今までみたことのないような顔をしている。春瑠には、私が見えていないことに気がついた。
ソファに座る春瑠の真ん前に座り私は顔を近づけてみた。
「ほんとに見えてないんだ...」
とくに痛いところもないが、死んでるのか?と考えながら、昨日の出来事を思いだそうとしてみる。
「だめだ、、全然わかんないよ。」
なにか、手がかりは...と、広告や紙をみながらヒントを探してみる。
「あ...」顔をあげた先のリビングと繋がる部屋に私がいた。
いや、私の笑顔の写真があった。
写真の前にはコーヒーの入ったマグカップが置いてあり、自分が本当にここには居ないことに やっとショックをうけた。
「服が散らかってる」
服を拾おうとして気づく。
(あ、そうだった。)
死んだことに気づいた直後で そのことにまだ慣れない。
戸惑うまま春瑠の隣に座り、重ならない手を重ねてみたら だれにも見えない涙が流れた。どこも濡れない涙がたくさん流れて、聞こえない泣き声を出して泣いた。
その日から春瑠の生活を見る私の生活がはじまった。