初日
夜が明けた頃、ネットカフェを飛び出し友人に別れを告げ、さっき書いた退職届を
片手に脱兎の如く車を走らせる。
「今日から自由だ」などと人生のリスタート気分になるが、
親や会社の事が頭をちらつかし、いまいちテンションが上がらない。
(悩んどんなら行きんさいや めんどくさいで辞めるのはダメやけど、
自分がやりたくないことならやらんほうがいいよ やりたいこと見つかるといいね)
昨日のねえちゃんからもらった言葉が背中を押していた。
この時の俺はとにかく広島から出て全国を回ってみると何か変わるんじゃないかと
本気で思っていた、本当にただそれだけだった。
車を走らせる中、二人の友人に電話をした「俺も親には滅茶苦茶迷惑かけとるけん」
という言葉を聞き、いつか何処かの居酒屋のお手洗いの張り紙に
「(親父の小言)親には迷惑をかけていろ」
と書いてあったのを思い出した。今の俺には天空の城ラピュタのバルスと
ならんでもいいくらい救われる言葉だった。
4時間ほど車を走らせ、兵庫県の相生に着き郵便局が開く時間になった。
「退職届を郵送する奴なんてかつていたんだろうか、間違いなくクビだろうな」
と笑いながら郵便局へ向かった。
手続きが終わった後、携帯の電源を切り中にあるチップを取り出す。
電話が鬼のようにかかってくるのが目に見えている。もう当分携帯電話を使うことはないだろう。
そして夜になり京都へついた。