1日目
『異世界』
それは、人や動物の他に、魔王によって創られた様々な魔物、この世界を我が物にしようとする魔王が存在する世界。この世界には、魔力という不思議な力もあり、それを用いて魔法を使う。
今現在、魔王勢力は各地へ侵攻……魔物の被害を受けている街や村は、そう少なくはない。早く、この世界を救う勇者があらわれて…人々は、そう強く願った。
「ふふふ……いくら願ったところで、無駄なことよ。」
遥か遠くにある、不気味な城……魔王城の最上階にある広い一室の中、奥にある派手な装飾が施された椅子に座っている少女が、遠く…人々を見下すような目を向け、そう言った。
この少女こそが、魔王である『ユネス』。この世界を脅かす存在だ。見た目は少々幼く見えるが、実力はかなりのもの。
「魔王様。」
転移魔法を使い、魔王の前に膝をつき頭を下げた状態で現れた悪魔。この悪魔は『ヴァン』、魔王の配下の内、一番の実力を持つ。王様でいうと家臣のような存在。身長が2mはあるであろう男の悪魔。
「何?ヴァン」
何か用があって現れたであろうヴァンに対して、用件は何かと聞く。ヴァンは頭を下げたまま用件を伝える。
「先ほど、配下から伝達がありました。どうやら、勇者がこの世界に降り立ったようです。今現在、はじまりの森の中にいます。」
「そう…」
椅子から立ち上がり、窓へ近づき荒れた空を見ている…
「ふふふ……精々、私を楽しませてちょうだい……」
と、不気味な笑みを浮かべて、右手から悍ましい色の魔力が溢れていた……
勇者が現れたという情報を得てから数分後、再びヴァンが魔王の前に現れる。
「魔王様。」
「どうしたの?勇者のことかしら?勇者はもう、森を抜けて次の街へ行ってる頃でしょうね…」
フフ、と笑いながら自分の予想を言う魔王。はじまりの森は強いモンスターもいない上、そこまで広くないからすぐに抜けられる。
得意げに自分の予想を言った魔王に対して、ヴァンは
「いえ、まだ森にいます。」
と。
「…え?」
自分の予想とは真逆な報告を聞いた魔王は、ぽかんとした表情に。
「どうやら、レベル上げを行なっているようです。」
報告にあった通りのことを魔王に伝えるヴァン
「そ、そう……あの森、大した魔物がいないから無駄だと思うけど…まぁいいわ。」
数分後、再びヴァンが現れる。
「魔王様」
「ふふ、今度こそ森を抜けたかしら?」
不敵な笑みを浮かべながらヴァンに尋ねる。するとヴァンは
「いえ、まだ森にいます。」
と。
「…は?」
再びぽかんとした表情になる魔王。
「どうやら、道に迷ったようです。先ほどから同じ道を往復しております。」
「あ、あんな森で道に迷うなんて、ある意味すごいわね……」
「おまけに、体力が残り少ないです。」
「回復薬とか、薬草があるでしょ…使い切るほど迷ってるの?」
「いえ、渋って使おうとしません。」
「あー……たまにいるわね、そういうの…」
どうやらこの勇者は、ボス戦に備えてアイテムは極力使わないタイプのようだ。そして所持数上限を達してしまい、捨てる羽目になるのは言うまでもない。
そして、また数分後にヴァンが現れる。
「ヴァン、今度こそ勇者は森を抜けたのよね?」
流石にもう抜けただろう、そう思ってヴァンに尋ねる魔王。ヴァンは
「いえ、スライムによって倒されました…」
と。
「は!?」
ぽかんを通り越して驚く魔王。
「なんで!?」
「道に迷い続け、回復アイテムの使用を避け続け、魔物と接触しても逃げるを選択しておりましたが、逃げるに失敗して倒されました。」
「ものすごく間抜けなやられ方ね……」
「おまけに、セーブをしていないので最初からになります。」
「えぇっ!!?」
勇者が魔王の元へ辿り着くのは、いつになるのか?次回に続く!