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意外なところに……


 作戦は失敗続きのまま、利益だけが上がる今日この頃。

 毎日、リーレン様に飴を口に入れられる日々。

 ストレスからか少し頭痛もしている。


「お嬢さん大丈夫かい? 顔色悪いよ」


 薬売りのお婆さんに頭痛薬をもらいに行ったらかなり心配されてしまった。


「頭痛薬をもらえませんか?」

「……待ってな」


 そういってお婆さんは私にハーブティーを出してくれた。


「頭痛薬ですか?」

「ただのお茶だよ。お嬢さんはちょっと休んだ方がいいんじゃないかい?」


 優しい言葉と優しいハーブティーの匂いに力がスーッと抜ける気がした。

 ゆっくりと、ハーブティーを口に入れるとなんだか涙が溢れた。


「お嬢さんはいつも頑張りすぎなんだよ。ちょっとは休んだ方がいい」


 そういってお婆さんは私の頭を撫でてくれた。

 優しい手とハーブティーに頭がスッキリして頭痛も引いた気がした。


「このハーブティーとっても美味しいですわね」

「ハーブティーにこの飴玉を入れてるんだよ」


 見せられた飴はここ最近私が毎日食べている飴そのものだった。

 思わずお婆さんの手を掴み引き寄せ、首の後ろにウロコ型のアザがあるのを確認した。


「お婆さんがバネッテ様?」


 お婆さんの顔色が悪くなる。


「探してたのは、貴女です」


 私はバネッテ様を抱きしめた。


「リーレン様とハイス様が会いたがっています」


 バネッテ様は肩をビクッと揺らした。


「ママとパパが?」

「はい」


 言われてみれば、お婆さんはグリーンドラゴンのことも知っていたしあの時何か残っているといいねと言っていた。

 グリーンドラゴン本人だったから何も残っていないことを知っていたのだ。

 私にとっては鉱石が宝だったりするから何も残っていないというわけではなかったのだが。


「会いにいきましょう。ご両親に」

 私はそう言ってバネッテ様の家から彼女を連れ出し、城に向かったのだった。



 城に着いて、直ぐに王族のプライベート用の応接室に通された。

 そこにはリーレン様とハイス様が待ちきれないように部屋の中をウロウロしていだのだと後で聞いた。

 そんなこととは知らず、私が応接室のドアを開けてバネッテ様を中に入るように促している間に部屋から出てきたリーレン様に抱きしめられていた。


「バネッテ〜」

「マ、ママ、恥ずかしいから離して」


 お婆さんの姿のバネッテ様に若い女性の姿のリーレン様が抱きついてお婆さんの方が若い女性にママと言っているのは側から見たら異様である。


「で、バネッテ、その好きな男ってのは誰なんだ! パパがバネッテに相応しい男か見極めてやる!」


 再会を喜ぶよりも、バネッテ様の好きな人が気になるハイス様。

 リーレン様はハイス様を睨むといった。


「娘が元気な姿を見せにきたんだから、今はその話はいいでしょ!」

「だが」

「とにかく、その話はまた今度」


 そういうなり、リーレン様はバネッテ様の手を引いて応接室を出て行こうとした。


「リーレン、どこに行く」

「お風呂よ、せっかく大きなお風呂があるんだからゆっくり浸かって疲れをとって、その後パパと晩酌よ」


 晩酌という言葉に渋々リーレン様達を見送ることにしたハイス様。


「ユリちゃんも一緒に入りましょう」


 そういうが早いか、リーレン様にバネッテ様とは違う方の手を掴まれて城のお風呂に連れて行かれた。

 


 今日初めて城のお風呂は常に入れるように天然温泉を掛け流しなのだと知った。

 ハイス様に頼んでリーレン様が作らせた天然温泉らしい。

 火炎竜と呼ばれるドラゴンの間違った使い方だと国王達に言われたらしいが、私からしたら最高の力の使い方だと思う。

 服を脱ぎバスタオルで体を隠して振り返ると、そこにはリーレン様とお婆さんではなく、深い黒に近い緑のストレートの髪がお尻の下ぐらいまである、神秘的と言う言葉がよく似合う女性の姿があった。

 だれ?

 いや、バネッテ様なのだろう。

 だって、それ以外が今お風呂に入るわけがないのだから。

 胸だって大きく腰はくびれお尻も引き締まり、色気が半端ない。

 涼しげな目元は少しつり上がっているが、優しげな若草色の瞳がそれを感じさせない。

 女の私でもドキドキしてしまう。


「バネッテはそっちの方が可愛いわ」

「この見た目だと変な人間に襲われそうになるから嫌だよ。面倒臭い。人間は直ぐ死ぬからね加減が難しいだろ。なら、婆さんの格好の方が安全さ」


 喋り方はお婆さんのまま声質もなんだか色っぽく感じるのは気のせいだろうか?


「お嬢さんもうちのゴタゴタに巻き込んですまなかったよ」

「いいえ! 私はバネッテ様にお会いしたかったので探していただけですわ!」

「物好きだね〜」


 私達が話している間にリーレン様も服を脱ぎ終わり裸のまま私達の腕を掴んで中に連れて行く。

 私だけタオルをしているのが気に入らないのかバネッテ様にタオルを奪われ悲しくなる。


「返してほしいのですが」

「せっかくの裸の付き合いなんだから諦めな」

「そうだそうだ」


 リーレン様も私の味方ではない。

 タオルを諦め、私達は体を洗い湯船に浸かった。


「バネッテの好きな人って若い?」


 リーレン様が普通に世間話をするように言った。


「言わなきゃダメかい?」


 私は拳を握り言った。


「私にもお手伝いさせてほしいですわ!」


 バネッテ様は苦笑いを浮かべた。


「お嬢さんが手伝ってくれるのかい? それはちょいと複雑だねぇ」


 どういうことなのか解らず首を傾げると、リーレン様が困ったように言った。


「なあに? その男ってユリちゃんが好きなの?」


 意味が解らず首を傾げると、バネッテ様は湯船のお湯を両手ですくった。


「ママって本当に鋭いよね」

「まさか、バネッテ様の好きな男性って」


 バネッテ様が優しい笑顔を作る。


「殿下なのですか?」


 私の言葉にバネッテ様はあからさまに呆れた顔をした。


「なんで解らないんだい? 私ゃ王子殿下なんて会ったことすらないよ」


 では、誰だ?

 真剣に悩む私の顔に手を合わせて作った水鉄砲でお湯をかけてくるバネッテ様。

 怒っても許されると思う。


「ルーちゃんじゃないならマー君じゃない?」

「マー君ってマイガーさんですか?」


 私が聞けば、バネッテ様はぷいっと外の方を向いた。

 耳が少し赤いのはお風呂のせいではないと思う。


「マイガーさんは私を恋愛的な意味で好きではないと思いますが?」

「人の好意に鈍感なアンタに何が解るっていうんだい?」


 言われてみれば、人の好意に私は疎い。

 それでも最近では少しは解るつもりだ。

 マイガーさんの私に向ける〝好き〟は殿下に向ける〝好き〟とほとんど一緒だと思う。

 殿下と仲よくしている私を慈愛に満ちた顔で見ている時があるのは、父親や兄のようだと思う。

 実際のお父様とお兄様の方が殿下に殺意を向けていると思う。


「マイガーさんはたぶん、私を妹のように思っていると思うんですが」


 バネッテ様はまた手で水鉄砲を作ると私の顔目掛けてお湯を打ってくる。


「アプッ……バネッテ様はいつからマイガーさんを好きなんですか?」


 私が顔を手で覆いながら聞けば、バネッテ様はゆっくりと言った。


「アンタが養護施設を買い取った後だよ」


 バネッテ様の話では、バネッテ様は人間嫌いというわけではなく子供は好きなのだという。

 だから、養護施設に定期的に薬とお菓子を持っていってたらしい。

 そんな中、マイガーさんが養護施設に講師としてくるようになった。

 子供達と大して変わらない歳なのに一人前に働いているマイガーさんを甘やかしたくなったらしい。

 最初は鉱山からたまにくる感じだったのが毎週マイガーさんに会いに行くようになり気づいた。

 マイガーさんが好きで、出来るだけたくさん会いたくて笑ってほしいって思っていることに。

 それに気づいてすぐに、鉱山で暮らすことを止めて街外れの廃墟に引越した。

 家は元々草ぼうぼうで勝手に住み着いても気づかれず、むしろずっと前から住んでいたように周りも思ったという。

 家の中がまともになった頃、マイガーさんがたまに遊びにくるようになりたまに他の人も薬を買いにくるようになった。

 マイガーさんは楽しそうに私の話をバネッテ様に聞かせた。

 そんなに素敵な人を好きなら、応援しようと思っていた。

 人は直ぐに死ぬ生き物だからこの恋心は仕舞っておこうと決めた。

 なのに、私は婚約者を、二回も代えマイガーさんを選ぼうとはしなかった。


「嬉しいと思う自分の浅ましさを実感したさ」

「恋とは、浅ましいものだわ」


 リーレン様はニッコリと笑った。

 私からしたら、マイガーさんが上機嫌の時は大抵お婆さんにお菓子をもらった時だし、最近では飴はお婆の飴しか食べていないと思う。

 それって餌付けが成功しているんじゃないのか?


「マイガーさんはお婆さんが大好き過ぎて、老後の面倒全部見る気でいるかもしれないと勝手に思っていました。今は見た目がお婆さんだから孫気分かもしれないですが、実はこんなに美しい人だと解ったら意識させられる気がします」

「そう簡単に行くわけないだろ!」


 私はしばらく考えてからいった。


「とりあえず、マイガーさんにドラゴンだったことを話しましょう! 考えるのはそれからでも遅くはありませんわ」


 私がのぼせそうな頭で考えついたのは大したことのない考えだけだった。

 


 お風呂から上がり、ホカホカの状態で先程の応接室に向かっていると、殿下の執務室の前を通る。

 殿下は基本忙しい人だ。

 もしかしたら今も仕事をしているかもしれない。

 一目殿下の顔が見たい。


「ルーちゃんにバネッテが見つかったって報告しなくていいの?」


 リーレン様には全てお見通しなのではないかと怖くなる。


「今、報告してもよろしいでしょうか?」


 風呂から上がってからバネッテ様は美しい姿のままだ。

 殿下がバネッテ様に一目惚れとかは絶対に嫌だ。

 とりあえず、殿下を信じよう。

 そう、心に決めてドアをノックした。

 入室の許可と同時にドアが開き、中からマイガーさんが顔を出した。


「やっぱり、お嬢だと思った!」


 マイガーさんがいるとは思わず飛び上がるほど驚いたし、バネッテ様にいたってはリーレン様の後ろに隠れてしまっている。


「入って入って!」


 促されるまま足を動かすとリーレン様も躊躇うことなく部屋に入っていく。

 要するにリーレン様の後ろにしがみついているバネッテ様も一緒にだ。

 殿下はリーレン様を見ると書類仕事をしていた手を止め立ち上がった。


「リーレン様とユリアス? そちらは?」

「娘のバネッテよ」


 リーレン様がバネッテ様の背中を押してバネッテ様を殿下の前に突き出した。

 あからさまに怯えるバネッテ様を苦笑いを浮かべながら殿下が膝を突いて頭を下げた。


「お初にお目にかかります。バネッテ様、以後お見知り置きください」


 それはそれでどうしたらいいのか解らないバネッテ様は慌てていた。


「王子が軽々しく頭なんか下げるんじゃないよ!」


 バネッテ様の言葉に殿下はキョトンとした。


「私ゃ頭なんか下げられ慣れてないんだ、止めとくれ」


 殿下はゆっくりと立ち上がった。


「それは申し訳ございません。以後気をつけます」


 殿下は他所行きの笑顔をバネッテ様に向けた。

 一目惚れの心配がなさそうで安心している中、マイガーさんがジーっとバネッテ様を見ていたことに私は気づいていなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] まさかのおばあちゃんがドラゴン
[一言] 連載再開ありがとうございます。 待ちきれずに5巻まで揃えてしまいましたが、紙の書籍でまとめ読みするのもこうして連載をじりじりし待ちながら読むのもどちらにも良さがあるものですね。
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