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森は魔獣でいっぱいです

 出発の朝、天気は快晴。

 山歩きにはもってこいの日である。

 リーレン様は朝からハイス様の腕にしがみつきながら楽しそうに現れた。

 私と殿下はゆっくりと頭を下げた。


「ユリちゃん、ルーちゃんおはよう! あらあらまあまあ! マー君じゃない! 久しぶりね!」

「リーレン様、ご無沙汰申し上げております。変わらずお美しい貴女様にお会いできたことを心よりお喜び申し上げます」


 マイガーさんが型通りの挨拶をするとリーレン様は口を尖らせた。


「マー君ったら他人行儀過ぎ! 昔はもっとフランクに話してくれたじゃない! 近寄ってくんな、妖怪ババァって言われた時はその勇気に感動したのよ」


 マイガーさんはニコニコ笑顔を崩さない。


「リーレン、あれはマイガーを高い高いして空まで吹っ飛ばしたから怒られただけだ」

「ルーちゃんは楽しそうだったわ」

「あの後、暫く弟に触るなって抱っこすらさせてもらえなかっただろ」


 リーレン様は口を膨らませてムッとしていた。


「すまないなマイガー」

「ハイス様が謝られることではございません! 当時から沢山助けていただきましたから」


 苦笑いのマイガーさんをハイス様は軽く抱きしめ背中をポンポンと叩いていた。


「ハイスはマー君大好きよね。嫉妬しちゃうわ」

「勇気のあるヤツは好きだ」


 そう言いながらハイス様はマイガーさんと肩を組んだ。

 なかなか仲良しである。


「で、そちらは?」


 リーレン様の視線の先には私の護衛が二人。


「「荷物持ちだと思ってください」」


 二人はそれだけ伝えるとテントなどの大型の荷物を背負って見せた。


「そうなのね! じゃあ、貴方達にも飴ちゃんあげる」


 そういうが早いかリーレン様は二人の口の中に飴を押し込み、強引に食べさせていた。

 二人はかなり驚いていたが、拒否は認められていないようだ。


「マー君も飴ちゃん食べる?」

「自分はお菓子を大量装備しているので大丈夫です」


 そう言ってマイガーさんは可愛らしい包み紙に包まれた飴をリーレン様に見せた。


「欲しくなったら、いってね!」

「勿論お願いいたします」


 マイガーさんはそう言って頭を下げた。




 マイガーさんの案内で着いた場所は、人の手が入っていないのが見ただけで解る鬱蒼とした森。

 鳥か何かの高い鳴き声が響いていて、不気味さを醸し出している。


「お嬢、この森の奥にある山が目的地だよ」


 マイガーさんの指差す先ははっきりいって森しか見えない。

 森の入り口までは馬車できたが、この後は徒歩だけでしか進むのは難しそうだ。


「ユリアス様、もしお嫌でなければ自分がユリアス様を背負ってお運び申し上げますが?」


 護衛のバリガさんに心配されてしまった。


「大丈夫です。歩けますわ」


 そういった私を心配そうに見つめるバリガさんには悪いが、こんなに自然溢れる場所にいるのだ。

 自分で歩かなくては利益に繋がるものを見落としてしまうかもしれない。

 言うなれば、この森自体が私には宝の山であるのだ。


「殿下、ウサギがいますわ」


 私がひょこっと出てきた真っ白なウサギを指差すと、殿下が呆れたようにため息をついた。

 はしゃぎすぎてしまっただろうか?

 そう思って首を傾げると、マイガーさんが素早い動きでそのウサギを生きたまま捕まえてくれた。


「お嬢、これはウサギじゃなくてホーンラビットだよ」


 何が違うのかとよくよく見れば一本角が生えたウサギである。


「生きてるホーンラビットを初めて見ました。いつもは角だけを素材として見ているので」


 ホーンラビットの角は幸運のお守りにしたりアクセサリーに使ったりするので重宝される素材だ。


「肉も美味いし、夕飯に持ってく?」


 生け捕りにしたホーンラビットの瞳がウルウルとして見える。


「ユリちゃん、かわいくてもその子は結構危険よ」


 危険な生き物なのか。


「ユリアス、生きたままでも番いで捕まえたわけではないんだから増えないぞ」


 殿下に心を読まれて驚いてしまった。


「お嬢が欲しいなら捕まえてくるけど?」


 どうすると言いたげなマイガーさんに私が悩んでいると、殿下のため息が響いた。


「先は長いんだ、また今度にしろ」


 殿下にそう言われて目的を思い出した。

 そうだった。

 直ぐに帰れないし、番いでもないのだから今回は諦めよう。


「じゃあ、今度番いで捕まえてくるね」


 マイガーさんがニコニコと笑いながら言ったので、私も笑顔を返した。


「では、倍に増やしてお返ししますわ」


 私の言葉にマイガーさんはフーッと息を吐いた。


「俺はお嬢にプレゼントがしたいの!」

「プレゼント返しですわ」

「そうじゃなくて、喜んでほしいんだよ」

「嬉しいですが?」


 マイガーさんは、頬を膨らませた。


「お嬢は本当に男心が解ってない」


 何か気に触ることをいったようだが、何が悪かったのかよくわからず首を傾げた。

 そんな私達を見てドラゴンの二人がクスクスと笑っていたなんて知らなかった。

 その後も沢山の魔獣を見かけた。

 羽根の生えたリスとか、巨大な蛇とか。


「お嬢見て、あれお嬢が好きそうなのがいる」


 マイガーさんが指差す先にいたのは金の角の生えた羊だった。


「マイガーさん、あの子の種類はすでに飼ってますよ」

「「「えっ?」」」


マイガーさんに護衛の二人まで驚いた顔をしていた。


「うちの店の最高級ブランケットはあの生き物の毛を使ってますの」

「知らなかった〜」


 マイガーさんがしみじみと呟くと殿下がニヤリと笑った。


「マイガー、しかもその羊を育てるのがラモールなんだぞ」

「はぁ? なんであいつが?」


 驚くマイガーさんと護衛の二人をニヤニヤ見ながら殿下が更に続けた。


「ラモールは農業関係の才能があったらしい。今はユリアスに慰謝料を返すために馬車馬のように働いているみたいだぞ」


 呆然とするマイガーさんと護衛二人を気にすることなく私も口を開いた。


「繁殖にも成功し、年に一度生え変わる角も献上するとつい最近手紙をもらいましたわ。婚約者でいた時は手紙のやり取りなどしたこともありませんでしたが、今は結構文通していたりするんですの。笑ってしまいますね」


 私の言葉に殿下まで黙ってしまうのはやめてほしい。


「ユリアス、文通しているなんて聞いてないぞ」

「まるで浮気しているみたいに言われるのは、心外ですが?」


 それに、ラモール様の手紙には仕事半分バナッシュさんの惚気半分の割合で書かれているもので、私から見たバナッシュさんの日頃のエピソードを添えて手紙を返すとよく働いてくれるのだ。

 利益に繋がるなら文通ぐらいする。


「私、よく働いてくださる従業員は無碍にできないので」


 私がニッコリと笑うと殿下が頭を抱えたのが見えた。


「あいつ、やっぱりお嬢がいいとか言わない? 大丈夫?」


 マイガーさんには肩を掴まれ揺さぶられた。

 目が回るからやめてほしい。


「それは大丈夫ですわ! ラモール様は真実の愛でバナッシュさんと結ばれているのですから!」


 思い込みの激しいラモール様が結構策略家のバナッシュさんの本性に気付くとは思えないし、バナッシュさんも馬鹿な子ほど可愛いみたいだから大丈夫なはずである。


「ルチャル、バリガ、金髪のデコッパチが一人で現れたらユリアスに近づけるな」

「「了解しました」」


 殿下、私の護衛に変なことを吹き込むのはやめてほしい。


「ルーちゃんたら嫉妬深い男は格好悪いわよ」


 遠くで私達を、見ていたリーレン様がクスクス笑う。


「ハイス様の目を見て同じことを言って差し上げてください」


 殿下がそう返せばリーレン様は幸せそうに返した。


「格好悪いところも大好きだから大丈夫」


 リーレン様の言葉を聞いてハイス様がリーレン様を抱きしめていたのは見ないようにしてあげた。

 



 あれから三日が過ぎて、ようやく廃坑を見つけた。

 ドア二枚分ほどの大きさの穴を崩れないように木で補強している。

 だが、補強の木もかなり老朽化していて危なく見える。

 しかも、中は暗くて二メートル先は暗闇だ。


「どれだけ深くにいるか解らないからな。今日はこの前で休んで明日の朝一から入る感じで大丈夫か?」


 殿下の提案に私も賛成だ。

 かなり古い上に中が暗くて見えないってことは、ドラゴンの棲家とはいえ他の魔獣が住んでいないとも限らないのだ。

 この中で仮眠をとるのはできれば避けたい。

 他の皆も賛成してくれた。

 夜。焚き火の前で談笑していると、ハイス様が立ち上がった。


「ハイス様?」

「いいのがいた」


 ハイス様はそれだけ言うと森の中に走っていってしまった。


 何事かと思いリーレン様を見ると、リーレン様はクスクスと笑った。


「ハイスも貴方達が大好きなのね」


 どういうことか聞こうと思った時にはハイス様が一羽の白鳥のような鳥を捕まえて戻ってきた。


「あらあらまあまあ! 美味しそう。ユリちゃんはどうやって食べるのが好き?」

「申し訳ございません。食べたことのない鳥ですわ」

「そうね。滅多につかまえられない鳥だものね! でも、普通の鳥肉と大差ないから鳥肉料理で一番好きなものを教えて」


 リーレン様が私に話しかけている間にハイス様が素早い動きで鳥を解体し、次に見た時にはただの鳥肉に変わっていたのがすごいと思った。


「リーレン、こんなところでは凝った料理なんてできないぞ。串に刺してシンプルに焼いて食べるぞ」


 この旅で驚いたのは、ハイス様がお料理上手ということだ。

 今日の鳥肉も美味しい串焼きになったし、骨を使ったスープも美味しくて幸せな時間を過ごしたのだった。

 


 次の日、いざ廃坑探険をしようと入り口に立つと不思議なことがおこった。

 昨日まで真っ暗だった廃坑の中が明るいのだ。


「昨日食べた鳥、覚えてる?」


 リーレン様は悪戯が成功した子供のように嬉しそうに笑った。


「あの鳥を私達は、暗視鳥っていってるんだけど、食べてから三日間暗闇が暗くならない効果を与えてくれる鳥なの。普段は暗いところで生活している鳥だから見つけるのが大変なのよ!」


 廃坑はガスが溜まっている場所があるので下手に松明などの火を使うと爆発することがあると聞いたことがある。

 それを考えると、この暗視鳥の効果は嬉しい。


「ハイス様、ありがとうございます」


 私がお礼を言えば、ハイス様は照れたようにプイっと外方を向いてしまった。

 リーレン様はそれを見てクスクス笑っていた。

 暗視鳥の効果もあり、早速私達は廃坑の中に入っていったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ラモールもバナッシュもすごい真面目に働いてるんだな しかもラモールは凄い才能開花してるしお金も何もかも取り上げられたあとじゃお互い恋が冷えきって別れるんじゃないかと思ったけど少なくともラモー…
[一言] 殿下もマイガーもそんな心配しなくても、ユリアスとラモールの間には戻すヨリも火が付く焼け木杭も始めから存在しないからw
[一言] 久しぶりの更新とても面白かったです! また1話から読み始めました! 次も楽しみにしてます!!!!
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