好きな人
6月15日『勿論、慰謝料請求いたします!4』
発売です!
私の好きな人はこの国の王子である。
ルドニーク・レイノ・パラシオ殿下、それが彼の名で私の婚約者である。
私、ユリアス・ノッガーは初めての恋に戸惑っています。
何せ今までお金儲けにしか興味がなかったのだ。
そんな私の側にいて支えてくれたのが殿下だ。
新商品のレポートを書かせたり、外交に必要な書類を揃えさせたり、はっきり言ってワガママばかりの私に愛想を尽かさず婚約者でいさせてくれる彼が最近では愛おしいと感じるのだ。
そんな殿下がモテないはずもなく、彼の周りには素敵な女性達が集まる。
そのせいで私の中にモヤモヤとした感情が生まれていた。
それが嫉妬なのだと解った時、私がどれだけ殿下のことを好きなのか理解した。
私の気持ちを殿下に伝えると、殿下は浮気なんてしないと言ってくれた。
それだけで私の気持ちは浮上した。
自分がこんなにチョロい人間だと初めて知った。
その後、建国記念式典やお兄様に殿下に会うことを制限されたりと色々あったが、どうにか日常に戻ることができた。
学園の食堂でいつものように庶民棟の皆さんと新商品の話をしながら昼食を摂っていると、殿下が当然のように私の横の席に座った。
庶民棟の皆さんもニコニコと私達を見ている。
生温かい目で見られるのは苦手だ、
「殿下、あの、気が散るので横で食べなくても大丈夫ですわ」
「俺のことは気にするな」
気にしないとか無理だ。
「ですが」
「ユリアス、お前は解ってない」
「何が解っていないのでしょうか?」
私が首を傾げると、殿下は悪戯っ子の笑顔で言った。
「一分一秒でも長く好きな女の側にいたいという男心がだ」
キャーっと庶民棟の方々の悲鳴が上がるが、一番叫びたいのは私で間違いないと思う。
顔が熱い。
殿下は赤面する私を見て柔らかな緩んだ顔をする。
そんな幸せそうな顔は、人前でしないでほしい。
私はそんな殿下の顔面にバチンと音がするほどの勢いで両手を叩きつけた。
殿下からカエルが潰れたような鈍い悲鳴が上がったが知るか!
「恥ずかしいので見ないでください」
殿下はそんな私の手首を掴む。
「さすがに痛いぞ」
「ご、ごめんなさい」
慌てて手をどけ、殿下の顔にキズなどないかを確認する。
そんな私を幸せそうに見つめていた殿下の後頭部にお昼の定食の乗ったトレイの角が直撃した。
犯人はお兄様だ。
声にならない悲鳴をあげながら頭を押さえる殿下。
さすがに手加減無しの攻撃を王子殿下にするのはどうかと思う。
「お兄様!」
「両手にトレイを持っていて見えなかった……気がする」
わざとだ! 絶対。
私は殿下の頭を抱え、優しく撫でながら言った。
「コブになったらどうするんですか!」
「殿下はそんなにやわではない」
「丈夫であったとしても、仮にも王子殿下に暴行してはいけません! 慰謝料請求されたらどうするんですか!」
「……」
お兄様を黙らせると、お兄様の後ろからマイガーさんがやってきた。
「お嬢の胸に包まれるとか、ルドずるい! お嬢、俺にもやって!」
マイガーさんの言葉に私も殿下もビクッと肩を跳ねさせ、慌てて離れた。
「マイガー、勘違いするな! 不可抗力だ!」
殿下がマイガーさんに詰め寄るとマイガーさんは口を尖らせた。
「不可抗力〜?」
明らかに信じていないマイガーさんに殿下は必死に説明をしていた。
「殿下もだが、マイガーも殺す」
無駄に殺気立つお兄様に早く気づいてほしい。
私はギャーギャー言い合いをする三人を無視して庶民棟の皆さんに視線を移した。
「煩くしてごめんなさい」
私が謝罪をすれば、皆さんいい笑顔で首を横に振った。
庶民棟の中でも仲のいいルナールさんが瞳を輝かせて言う。
「ノッガー様の可愛らしい顔が見られて幸せです」
更にこれまた仲良しのグリンティアさんがフーと息を吐く。
「王子殿下とノッガー様のイチャイチャしているところを見られるなんて、ラッキーだわ」
イ、イチャイチャ?
イチャイチャなんてしたつもりは無いけど、言われてみればそうかもしれない。
あまりの恥ずかしさに顔に熱が集まる。
「「ノッガー様、可愛い〜」」
二人にからかわれる日がくるとは微塵も思っていなかった。
「ユリアス、こいつらをどうにかしてくれ!」
そこに殿下が助けを求めてきたが、私はそれどころではなかった。
「ユリアス? どうした、顔が赤いぞ?」
今、近寄ってくるのはやめてほしい。
そんな私達を微笑ましげに見つめる庶民棟の皆さんを見てしまえば更に顔が熱い。
「ユリアス大丈夫か? 医務室にいくか?」
「こ、これ以上近寄らないでくださいませ」
私の主張に首を傾げると心配そうに近づいてくる殿下。
「え、営業妨害です」
「妨害じゃなくて心配してるんだろ?」
ムッとしたような顔の殿下をよそに、私はいたたまれなくなった。
「これ以上近寄るなら、慰謝料請求いたします!」
「慰謝料請求でも何でもしろ! 医務室にいくぞ!」
挙動不審の私を心配した殿下にお姫様抱っこで医務室に運ばれたのは言うまでも無い。
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