シュナ様の行方
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私は後悔していた。
ラオファン国が用意した控え室で私は自分の愚かさを痛感していた。
こんな公の場で誘拐してくるなんて思っていなかった。
「私がシュナ様と手を繋いでいれば」
「ユリアス自分を責めるな。君のせいじゃ無い」
殿下はそう言ってくれたが、私が一番近くにいたのだ。
「シュナ様に何かあったら……私のせいですわ」
「あんな格好をしていても、シュナは男だから大丈夫だ。案外つまらなくなって自分でどっかに遊びに行ってるかもしれないだろ?」
私は殿下を睨みつけた。
「本気でそうお想いですか?」
「……いや、ないな」
殿下はため息交じりにそう言うと、泣きそうになる私を優しく抱きしめてくれた。
「心配するな、俺が絶対に見つける」
殿下に抱きしめられながら頭を撫でられて、力が抜けた気がした。
「私、シュナ様は獣人なので香水はやめた方がいいと思いお手製のポプリの袋をポケットに入れておいたのです」
「ドレスにはポケットが付いているのか? 知らなかった」
注目すべきはそこでは無い。
「私が着ているドレスにはありませんが、スカート部分がフンワリした素材なら作れます。ですが、注目して欲しいのは私のオリジナルブレンドのポプリだと言うことです」
殿下はようやく理解したようだった。
「匂いを辿るならミーヤだな」
私は静かに頷いた。
私達はミーヤさんと合流し、城の中を探索するのを不審がられないようにジュフア様にも同行してもらうことにした。
「これと同じ匂いね」
「はい」
私が予備で持っていたポプリに鼻を寄せてからミーヤさんはゆっくり歩き始めた。
「ミーヤさん、分かりそうですか?」
「この城は香水とかお香の香りが凄いからこの優しい匂いは目立つ。他の匂いがキツすぎて頭がクラクラするし、それの匂いが負けないうちに見つけないと」
早く見つけてあげなければ。
私が祈るような気持ちでいる横で殿下が自分の額に手を置いた。
「シュナを見つけられたらマイガーとデートさせてやる」
殿下の言葉を聞いたミーヤさんは天に拳を突き上げて叫んだ。
「本当に! 頑張る‼︎」
ミーヤさんは匂いを確認しながら突き進み王族の居住スペースまでやってきた。
「嫌な予感がするな」
殿下の言葉にジュフア様が頷いた。
最悪の状況を想定しなくてはいけないのかも知れない。
そんなことを考えているうちに奥の方にある一部屋の前でミーヤさんは立ち止まった。
「ここは?」
殿下がジュフア様の方を見ればジュフア様は言い辛そうに言った。
「……インスウの部屋だ」
ジュフア様は意を決してドアをノックした。
暫くしてから、ドアがうっすらっと開きインスウ様が顔を出した。
「遅くにすまないな」
「何でしょうか、兄上」
「獣人の客人を探している。知らないか?」
「知りません」
ドアを閉めようとするインスウ様をよそに、ドアの隙間に指をかけ勢いよくこじ開けたのはミーヤさんだった。
美しき白猫のミーヤさんにそんな力があるとは思っていなかった私は言葉を失った。
「シュナ様の匂い!」
ええ、ドアがメリメリいってます。
ああ、ドアに指がめり込んでいます。
しまいにはドアがガコンッと音を立てて外れてしまい、インスウ様もろとも廊下にポイっと捨てられてしまった。
「アレを押さえつけていたマイガーは本当に凄いと改めて思った俺は間違ってないよな?」
突然殿下に話を振られ、私の意識が戻ってきた。
「……うちの従業員の中でもトップクラスの身体能力を誇る店長のオルガさんが英才教育したのがマイガーさんですから」
殿下は遠くを見つめると呟いた。
「聞いた話だが、たしか君の店の店長は伝説級の暗殺者だったらしいな」
「昔の話ですわ」
殿下は何故か深いため息を吐いた。
そんな話をしているうちにミーヤさんがインスウ様の部屋に入っていってしまい、私達も後を追った。
部屋の中にはだれも居ない。
私達が首を傾げる中、インスウ様が部屋のドアの前に立って言った。
「誰がいるというのです! いい加減にしてくれ。出て行ってくれないか!」
イライラを隠せないインスウ様を横目に、ミーヤさんは部屋の端にある本棚に手をかけた。
ドアの時と同じようにメリメリという音とともにバキバキ、ギギギギギっと大凡聞き覚えの無い音を出しながら本棚は部屋の中心部分に飛んで行った。
「ミーヤは怒らせないようにしよう」
殿下の呟きに私は苦笑いを浮かべた。
本棚の後ろは隠し通路になっていて、下に伸びる階段があった。
本棚のあった場所にはレールのようなものが付いていて本棚の仕掛けを動かすと通路が現れる仕掛けがあったのだろうと推測できた。
いまや、どんな仕掛けだったのか確認することは出来ないぐらいこわれてしまっている。
ミーヤさんは迷うことなく下に下りていき、私達もそれを追った。
そして、一番下に鍵付きの部屋があった。
まあ、ミーヤさんが蹴破ったのだけど。
中は上にあったインスウ様の部屋に似た部屋だった。
そして、先程ミーヤさんに投げられた本棚にそっくりな本棚の上で、シュナ様がプルプルと震えながら此方を威嚇していた。
「シュナ様!」
「ミーヤ!」
シュナ様はミーヤさんに気がつくと、本棚から飛び降りてミーヤさんに抱きついた。
「ご無事ですかシュナ様」
「うん。お腹すいたよ〜」
感動の再会の間に周りを見渡すと部屋にはソファとテーブルとベッドがあって、テーブルの上には沢山のお菓子が載っていて、インスウ様がシュナ様を餌付けしようとしていたことが窺えた。
「お前らは勝手にこんなところまで来てどういうつもりだ!」
ようやく追いついたインスウ様の怒鳴り声にシュナ様が怯えたのが分かった。
「シュナ様を返していただきたかっただけですわ」
私は笑顔を消してそう言い放った。
「その赤毛の虎は私のものだ!」
そう叫んでミーヤさんからシュナ様を奪い取ろうとしたインスウ様はあっさりミーヤさんに蹴り飛ばされていた。
「その子は私が捕まえたんだ。私のものだ」
ヨロヨロと起き上がりブツブツと何かを呟くインスウ様は人外のようで恐ろしく見えた。
「インスウ、それは違うぞ。獣人はペットでは無い」
ジュフア様がそういうと、インスウ様は鼻で笑った。
「ペットにして何が悪い。獣人は獣だ! 飼われてこそ価値があるというものだろう? 私が国王になればその獣人も全て私のものだ!」
シュナ様達を指差して高笑いするインスウ様に私もクスクス笑いながら言った。
「インスウ様の頭は本当におめでたいんですのね」
私の言葉にシーンと静まり返る部屋には私のクスクスと笑う声がよく響いた。
「なんだと? たかが伯爵令嬢ごときがなんと言った!」
インスウ様の怒鳴り声に私は肩を一度すくめると、インスウ様を睨みつけて言った
「インスウ様は頭がおめでたすぎて、目眩がしそうですわ!と申しました」
「そこまで言ってなかったぞ」
殿下の呟きは聞こえたが無視だ。
「貴様! そんなことを言ってタダで済むと思うなよ!」
インスウ様の下っ端みたいな言葉に吹き出しそうになったが耐えた。
「タダで済まないのはインスウ様ですわ。今回何故私達がラオファン国に来たとお思いですか?」
私の言葉にインスウ様は怪訝そうな顔をした。
「私達はパラシオ国王からの書状を持ってきたのです」
私はニコニコと笑顔で続けた。
「この度、我がパラシオ国の兄弟国である獣人の国で誘拐事件が多発している。そのため、早急に犯人を見つけ出し近隣諸国で団結し総攻撃を仕掛ける心づもりである。ついては、ラオファン国も力を貸して欲しい。と言った内容が更に過激に書かれている書状ですの」
私はゆっくりとシュナ様の頭を撫でてから言った。
「インスウ様が国王になった暁には、一夜にしてラオファン国は地図から消えてしまいますわね。だって、パラシオ国の王族はドラゴンの加護があり、ドラゴンの力が使える上に近隣諸国が後ろについているのですから」
インスウ様は真っ白な顔をして膝から崩れ落ちた。
「では、シュナ様は返していただきますね」
インスウ様は私の言葉に顔をシュナ様に向けて言った。
「そ、その子だけは連れて行かないでくれ。他は何もいらない。ただ、その子だけは、愛しているんだ」
驚きの言葉に私達が動きを止めると、シュナ様を抱き締めていたミーヤさんが虫ケラを見るような顔でインスウ様を睨みつけて言った。
「我が国の第二王子であらせられるシュナイダー様に愛を乞うなどあつかましい羽虫だ。次にシュナイダー様の前に現れでもしたら、次は喉元切り裂いて泥水の川に流す」
ミーヤさんの言葉にインスウ様がキョトンとしながら呟いた。
「お、王子?」
「そうだ」
「ど、ドレスを着ているではないか?」
インスウ様がミーヤさんからシュナ様に視線を移すと、シュナ様は首を傾げて言った。
「似合わない?」
「よく似合っている」
「もうすぐ大人になって似合わなくなるの。だから、ユリアス姉様に頼んで着せてもらったんだよ! 獣人の雄は子供の時は可愛いけど、大きくなると筋肉質になるから」
インスウ様は理解できないようだった。
「スカートめくって……あること確認させるか?」
殿下が突然言い出した言葉を真に受けたシュナ様がスカートをめくり上げてインスウ様に見せるとインスウ様は意識を保っていられなかったようで、失神してしまった。
流石に可哀想に見えるが、自業自得? 因果応報? といったところなのだろう。
暑いですが、皆様水分とって頑張りましょう!