インスウ王子とパオ姫
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パーティ会場に行けば、当日の集まりにしては多くの人が集まっていた。
華やかなドレスに華やかな髪色。
ラオファンの人間はドレスのように髪色も変えるのだと聞いていたが派手である。
エスコートしてくれている殿下を見ると殿下は慣れているのか、気にも止めていないようだった。
シュナ様は私達の後ろをミーヤさんと付いてきている。
キョロキョロしないように周りを確認していると女性達からやたらと睨まれていることに気がついた。
女性達はコソコソと私の悪口を言っているようだ。
殿下の人気は他国でも健在だと思った。
当の本人は気づいていないように私の顔を覗き込み首を傾げる。
「どうした? 笑顔が硬いぞ?」
「……緊張ですわ」
「珍しい。君はこう言った時はむしろ生き生きとするのかと思っていた」
「私だって緊張ぐらいします、たぶん」
「緊張は嘘か」
私はクスクス笑うと殿下に視線を向けた。
「今私を睨んでいるご令嬢達は私の顧客になり得る方々ですわ。このアウェイな空気をどうにかして彼女達の興味を引かなくては」
「君は本当にぶれないな」
そう言いながら、なぜか殿下もクックッと笑った。
「今日は客人をもてなすパーティだ。皆今宵は楽しんでくれ」
ラオファン国王の言葉で始まったパーティで驚いたのは、婚約者同伴にもかかわらずご令嬢達に囲まれる殿下。
ご令嬢達の波に弾かれて近づく事すらできる気がしない。
そんな殿下を少し離れたところからシュナ様達と眺めているとシュナ様が心配したように私の手を握った。
「ユリアス姉様大丈夫?」
「なにがでしょうか?」
「ルド兄様引きずってこようか?」
心配を顔に貼り付けたシュナ様の頭を撫でた。
「殿下がモテることは存じ上げていますから大丈夫ですわ」
「でも、ユリアス姉様悲しそうだよ?」
私は苦笑いを浮かべてシュナ様の頭を撫でた。
「シュナ様は本当にお優しいですわね」
頭を撫でられたのが嬉しかったのかシュナ様は私に抱きついた。
シュナ様の優しさに癒される。
「ユリアス姉様、何か食べよっか?」
「そうですわね! お伴しますわ」
私がシュナ様と軽食を選んでいると、ジュフア様がわざわざ声をかけに来てくれた。
「我が国の食事は口に合いますか?」
心配そうなジュフア様に私とシュナ様は笑顔を向けた。
「とっても美味しいよ! ねぇ! ユリアス姉様‼︎」
「ええ! とっても。レシピを後で教えてほしいのですが、宜しいでしょうか?」
ジュフア様は嬉しそうに笑った。
その瞬間、周りがザワザワと騒がしくなったのが分かった。
理由は入国の時と一緒。
ジュフア様が女性に笑いかけるというのは凄く珍しいことだからだ。
「兄上」
そんなところにやって来た人物に、私は背筋を伸ばした。
獣人誘拐の主謀者のジュフア様の母親違いの弟。
インスウ様だ。
オレンジの髪にオレンジの瞳の長身。
短髪かと思いきや、襟足が長く、それを三つ編みにしていた。
インスウ様は私を上から下までまじまじと見ながらジュフア様に話しかけた。
「兄上、こちらの美しい方々と随分と親しそうですね、紹介して下さい」
私は淑女の礼をしてインスウ様に笑いかけた。
「パラシオ国ノッガー伯爵家長女ユリアスと申します。以後お見知り置きを」
私の自己紹介を聞くと、インスウ様は不思議そうにジュフア様に視線を向けた。
「隣国の伯爵令嬢とどういった関係なのでしょう?」
「どうと聞かれてもな……今後どうにかなりたいとは思っているが」
驚いた顔をするインスウ様をチラリとも見ないで、ジュフア様は私の手を掴んだ。
「どうにかなりませんか?」
ジュフア様はせつなげな眼差しを私に向けた。
「ジュフア様には申し訳ございませんが、何度言われても私の気持ちは変わりませんわ」
ジュフア様はフーッと息を吐くと苦笑いを浮かべた。
「何度断られようとも、俺はユリアス嬢が振り向いてくれるまで言い続けます」
ジュフア様はそういって熱っぽく私を見つめた。
「……兄上が好きな女性」
インスウ様はそう呟いて、私にニコニコと笑顔を向けた。
「ただ兄上がタイプじゃないだけでは?」
インスウ様はそういってクスクスと笑った。
どうやらジュフア様が報われないことが嬉しいようだ。
そこに殿下が女性といるのが見えた。
可愛らしいピンク色の髪の毛の女性が必死に話しかけている。
殿下はそれに苦笑いを浮かべていた。
「殿下はラオファン国でもモテモテですわね」
思わず呟けばジュフア様がフゥーと呆れたように息を吐いた。
「ルド!」
ジュフア様が殿下に声をかけると殿下は天の助けとばかりにジュフア様のもとにやってきた。
殿下が近づいて来るのをインスウ様が冷たい目を向けているのに私は気がついた。
もしかしたらインスウ様は殿下のことも嫌いなのかも知れない。
「ルドニーク王子、我が妹パオと仲良くされて嬉しいかぎりです。このままパオをお嫁にもらってくださると良いのですが」
インスウ様の言葉にパオと呼ばれた女性は顔を赤くして殿下の腕にしがみついた。
殿下は顔を青くさせパオ様から腕を勢いよく引き抜くと私の後ろに回り込み私の肩を抱いた。
「ああ、今紹介しようと思っていたんだ! 俺の婚約者のユリアス・ノッガー伯爵令嬢だ」
殿下の言葉にインスウ様とパオ様がポカンとした顔になった。
「婚約者を一人にするなんて信じられん! ユリアス嬢、ルドなど止めて俺と結婚しよう」
ジュフア様が呆れたように言った言葉に殿下はフンッと鼻を鳴らした。
「ユリアスを他国にやる気は無いと言ったよな?」
「ユリアス嬢が優秀な人材であるのは知っているが、大事にしないなら俺にくれ」
「無理だな。ユリアスがいなくなったら国が衰退する」
殿下の言葉を聞いた周りが引いているのが分かった。
みんな、愛情のかけらもないこの言葉が私には最高の褒め言葉だとは気づいていないのだ。
「まあ! 愛の無い結婚なんですのね!」
パオ様は嬉しそうに言った。
「愛の無い結婚なんでしたら止めて私と結婚しましょう! 私はルドニーク様を愛してますもの!」
パオ様の言葉に殿下の口元がヒクッと引きつった。
「ルドニーク様! 私と真実の愛を育みましょう!」
「いや、国で大々的に発表されている婚約者だからな! そう簡単に婚約破棄なんて出来ない」
殿下、それでは私を愛していないと言っているように聞こえます。
と、言ってやりたいがそんな空気では無くなった。
パオ様が瞳をキラキラさせて殿下の手を掴んだからだ。
「大丈夫ですわ! 彼女は身分はただの伯爵令嬢。王族との結婚が決まったのですから彼女には妾にでもなってもらえば良いのですわ!」
明るくハキハキと弾む声でパオ様はそう言い放った。
まだ仮定の話なのに自分との結婚が決まった体で話を進めるメンタルの強さに思わず感心してしまった。
「私、鬼では御座いませんので婚約破棄してほしいなどとは言いませんのよ」
「パオは本当にいい女だね」
インスウ様が誇らしげに笑ってパオ様の頭を撫でた。
「私は婚約破棄でも構いませんわ」
私は思わずそう言っていた。
『婚約回避のため、声を出さないと決めました‼︎』も、宜しくお願いいたしたす!