ラオファン国
勿論、慰謝料請求いたします!3 発売決定!
皆様!
ありがとうござます!
隣国の港に着くと、ラオファン王家の家臣達の出迎えをうけた。
「ルドニーク殿下、よくぞお越しくださいました」
少しツリ目の男が恭しく頭を下げた。
その後ろに並んでいた者達も同じ様に頭を下げて見せた。
「ジフ……ジュフア殿下に会いにきたのだが」
「すぐに参ります」
男がそう言ってから暫く滞在期間の話などをしていると、周りがザワザワと騒がしくなった。
「ルド! よく来たな」
そこに現れたのは隣国の王子のジュフア様だった。
「それに、ユリアス嬢……少し見ないうちにまたお美しくなられたようだ」
ジュフア様はそう言ってから私の手をとり、手の甲にキスを落とした。
ジュフア様の行動に隣国の港がシーンッと静寂に包まれた。
理由は分かっている。
ジュフア様は女性嫌いでどんな美人も虫ケラを見る様な目を向けることで有名だから。
そんなジュフア様が私の手にキスするなど隣国ではあり得ないことなのだ。
「ルドとはその後、変わりはないか?」
「仲良くしている! ジフ、挨拶は済んだだろ。手を離せ」
殿下はニコニコしながらジュフア様の手をはたき落した。
「嫉妬深い男だ。ユリアス嬢、ルドが嫌になればすぐに言ってくれ。俺はユリアス嬢をいつでも幸せにしたいのだから」
周りが言葉を失っているのをしり目にジュフア様は私にニコニコと笑って見せる。
「ジュフア様、丁寧なご挨拶をありがとうございます。ランフア様のご婚約も順調なご様子に私も我が事の様にお喜び申し上げます」
「それもこれもユリアス嬢のお陰だ。ユリアス嬢には感謝してもしきれない。どうだろう?
ルドの婚約者など辞めて俺と結婚してもらえないだろうか」
「ユリアスを見ると口説かずにはいられない病気は早く治せ」
殿下の言葉にジュフア様はフゥ〜と息をついた。
「ユリアス嬢が手に入るのであれば治す必要などない」
「なら、やっぱりすぐ治せ。ユリアスは俺の婚約者だ」
殿下はそう言って私の腰を抱いた。
突然のスキンシップに少し驚いてしまう。
殿下が近過ぎて少し緊張してしまう。
「? どうしたユリアス」
「いえ」
顔が近いせいでこの前の耳にキスされたことを思い出してしまう。
冷静を装うために真顔になってしまったのは許してほしい。
「ルド、嫌がられてるぞ」
嫌なわけではないのだが、顔が赤くならないようにするには仕方がなかった。
「ところで、ルドの後ろにいるのは?」
見ればシュナ様が殿下の後ろに隠れるように立っていた。
「獣人の国の」
「ああ、シュナイダー殿下とお見受けします。我がラオファン国へようこそ」
ジュフア様はどうやらシュナ様が男性だと分かったようだ。
「ユリアスはシュナを女だと思ったが、ジフはよく分かったな?」
ジュフア様は袖をまくり腕を見せた。
「女だったら鳥肌が出るし、獣人の国の王子の情報ぐらいは頭に入っている。まあ、ユリアス嬢には鳥肌は出ないがな」
ジュフア様の話が確かなら、私の護衛も男性だと分かるのか?
さり気なく護衛の一人であるルチャルを呼び、持ってきたお土産の品をジュフア様に差し出させると嫌そうな顔をしていたから、その鳥肌はどれだけの性能か?
詳しく調べたい。
そんなジュフア様にシュナ様は怯えたよう顔をしていた。
「シュナ様。ジュフア様は優しい人ですので大丈夫ですわ」
シュナ様は私の腰に回った殿下の腕を軽々と外すと私に抱きついた。
「この人怖い」
私は苦笑いを浮かべた。
「シュナ様、ジュフア様は味方ですわ」
「でも」
私はシュナ様の頭を撫でてから言った。
「ジュフア様、大事なお話があるのですが」
「……分かった。立ち話もなんだ。俺の執務室に案内しよう」
ジュフア様が合図を送ると、先ほど挨拶をしていた家臣が馬車を用意してくれた。
ラオファン国のお城の美しさに感動しながら案内されたジュフア様の執務室で、私は言い放った。
「ジュフア様、慰謝料請求をいたしたいのですが、よろしいですか?」
ジュフア様以外の周りにいた人達は何を言い出したのか分からなかったのかポカンとした顔をした。
「何故だか聞いても?」
「そうですわね。強いて言うなら、お家騒動に巻き込んだことに対して……でしょうか?」
ジュフア様は頭をかくと小さく笑った。
「ユリアス嬢には敵わないな。慰謝料とはいかほどか?」
私はニコニコしながら言った。
「獣人の解放と保護ですわ」
私の言葉に殿下は眉間にシワを刻みジュフア様の胸ぐらを掴んだ。
「殿下、ジュフア様には犯人を捕まえるために力をお借りするのですから止めて下さいませ」
私がそういえば、ジュフア様は苦笑いを浮かべた。
「ユリアス嬢には全てお見通しか。ルド、義弟の不始末の尻尾も掴めない俺なんて殴ってくれて構わないぞ」
「弟?」
私はゆっくりと説明を始めた。
「はい。ランフア様が教えてくださったではありませんか。ジュフア様の義弟のインスウ様が国民に危険な仕事をさせたくないのだと。それでは、採掘の仕事はどうなるのか?」
殿下は、ハッとしたように頭を上げた。
「獣人を誘拐してきてやらせるつもりか?」
殿下の言葉にジュフア様がため息をついた。
「次期国王を決めるために実績を出すことを王から求められ、俺は今まで進めていた採掘の安全性を上げるための足場の話をその場でした。そして、インスウが口にしたのが獣人族の誘拐の話だった。俺はそれはダメだと言ったが、残念なことに我が国王は、その話にマイナスの感情を持っていない」
「で、ジュフア様は獣人を逃がすために情報を集めていたというわけですね」
何故か周りが驚いた顔をした。
「情報を集めていたのは事実だが、ユリアス嬢は何故それを?」
「初めてシュナ様を見た時、ジュフア様は王子だとすぐに気が付きました」
「それは、鳥肌が出なかったからじゃないのか?」
殿下が首をかしげる中、私はクスクスと笑った。
「ジュフア様はシュナ様が獣人の王子の特徴と一緒だったから鳥肌が出なかったんです。現に、私の護衛が近づいた時、嫌そうな顔をしましたよね? 私の護衛は二人とも男性です」
ジュフア様は気まずそうに視線を逸らした。
「そんなジュフア様のために我が国の国王陛下から書状をいただいてきましたの」
私の合図に護衛のバリガが陛下から書いてもらった書状を手渡してくれた。
「内容は、最近獣人族の誘拐事件が多発している。これは、許しがたいことだ。よって近隣諸国一丸となって犯人を炙り出し滅するつもりでいる。故に、ラオファン国も協力してほしい。と言った内容が更に過激に書かれています」
「いつの間に」
殿下が信じられないと言うような顔で私を見ているが無視だ。
殿下には言っていないが、陛下も王妃様も今や茶飲み友達と言っても過言ではない。
よって、お願い事も簡単だ。
陛下にお願い事をすると大袈裟になりがちだから滅多に頼めないのだが、今回はやりすぎな方が効果的だと思ったのでお願いした。
「この書状があればラオファン国王も目を覚ますはずですわ!」
ジュフア様はボーッと私を見た後、近づくとそのまま強く抱きしめられた。
「女神だ」
突然のことでかなり驚いたがそれだけ喜んでもらえたのだと納得することにした。
「ジフ、今すぐ離れろ殺すぞ」
殿下の低い声と剣を抜く音が響いた。
ジュフア様が慌てて私から離れて分かったのだが、ジュフア様の首元に私の護衛達が、剣を突きつけていた。
不敬罪だ。
「親愛の表現だろ!」
殿下は眉間にシワを寄せ私を引き寄せた。
「ユリアスは俺の婚約者だ!」
「……残念ながらな」
ジュフア様は私に困ったような笑顔で言った。
「ユリアス嬢、ルドを嫌になったらすぐに俺を思い出してほしい」
「覚えておきますわ」
お読みくださり、ありがとうござます!