プレゼンの答え
スランプ辛かったですが、ここまで来ました。
私にとって、結婚とは夢でも希望でもなかった。
元婚約者様はアホの代表のような人で、私は元婚約者様を上手く操る事しか考えていなかった。
それが今はどうだろう?
殿下と結婚したら、楽しいことが起きそうな気がしている。
殿下は私をちゃんと頼ろうとしてくれている。
それは、世間一般で言うところの女の幸せなのだろうか?
「ユリアス嬢、こちらが我が国でしかとれないキノコの乾物です」
「これ、高級食材ですよね?これを輸入出来るのですか?」
「はい、勿論」
食堂でジュフア様とビジネスの話をしていると、目の前に殿下が現れた。
「ジフ、3ヶ月たったのに何故君は帰らないんだ?」
「………しいて言うなら、愛しい人がここに居るからじゃないか?」
「君はもう、フラれただろ?」
ジュフア様は私の手をぎゅっと握ると言った。
「ビジネスのパートナーからプライベートのパートナーになって欲しい」
「遠慮します」
ジュフア様は良くこうやって口説いてくるようになった。
プロポーズの有り難みがない。
「君は王子だろ?いずれ王になる存在だ!国に帰って帝王学でも習え!」
「帝王学はこの国だって学べるだろ?自分に自信が無いからって俺に当たるな」
殿下は悔しそうな顔で私を見た。
その情けない顔が私は凄く好きだ。
「ユリアス、持ち帰った俺の話はどうなってしまったんだ?」
私は、今思い出したと言うような顔を作ってから笑った。
「共同経営者になるにしても、雇用条件の折り合いがつかなければ契約にはいたりません」
「雇用条件か………ユリアスは俺に何を求める?」
私は視線を上に向けて少し考えて言った。
「経営の自由ですかね?」
「………解った。その代わり、君が動くのではなく人を動かす方で尽力できるならばだ」
「誰に向かって言ってます?」
「………そうだな」
殿下は苦笑いを浮かべた。
「では、殿下からの条件は?」
「……………」
殿下は暫く考えてから言った。
「俺以外の男を愛しく思わないで欲しい」
何だその可愛い条件は?
ちょっとキュンとしてしまった。
「殿下は私が好きなんですか?」
「言って無かったか?好きだ」
直球ストレートな言葉に心の中がホワホワする。
「で?この条件はのめるのか?」
「………すみませんが、のめません」
「「へ?」」
殿下とジュフア様がハモった。
周りの人達も信じられないものを見るような顔で私を見ている。
「そ、それは、俺への気持ちが無いという事か?」
「殿下への気持ちですか?」
私は少し笑って見せた。
「私はたぶん殿下が思っている以上に、殿下の事を嫌いじゃないです」
「なら、何故………浮気宣言なんて」
「してないから!」
何を勘違いしてるんだこの人?
あ、いや、周りの皆もか?
「ユリアス嬢、では?」
私は一つため息をつくと言った。
「私が殿下と結婚したら、私はこの国の国母になるんですよね?」
「あっ……ああ」
本当に解っていないのか?
「殿下は国王になるんですよね?」
「ああ」
「なら殿下との間に私は王子を産まなければいけないんですよね?それとも、殿下は自分達の息子を愛しく思っちゃ駄目だとかふざけた事を言うんですか?」
殿下は暫く動きを止めてフリーズするとブリキのオモチャのようにぎこちなく周りを見渡した。
「どうしたんですか?」
「ローランドに首を絞められる未来が見えた気がした」
そして、殿下はお兄様が居ないことを確認すると深く息を吐いた。
「ユリアス、心臓に悪い」
「何故?」
「……」
「そんなことより、私と殿下の子供なら賢く可愛い子供になりそうだと思いませんか?」
「………ああ、まずい。本当に、心臓に悪い」
殿下は疲れた顔でため息をついた。
「大丈夫ですか殿下?」
「………だぃ………」
大丈夫と言おうとした殿下の首を突然現れたお兄様が掴みました。
そして、ゆっくり締め上げています。
「何故貴方がユリアスと子供を作る話になっているのか説明しろ」
お兄様、首を絞めた状態では喋れませんよ。
私は思わず苦笑いを浮かべた。
「………」
「死にたいのですか?」
「お兄様、首から手をはなさなくては喋れませんよ」
「……ああ」
漸く手を首からはなしてもらった殿下はゲホゲホとむせていた。
可哀想に。
「お兄様、私王妃になろうかと思っています」
私の言葉にお兄様の顔色がみるみる青くなっていった。
「ど、どうしてだ………」
そう、絞り出すように言ったお兄様の顔は悔しそうな顔だ。
「簡単な事です」
私はお兄様に笑顔を向けた。
「思ったよりも殿下と居るのが面白いからです」
「ゆ、ユリアス!お、面白いだけで殿下を選ぶつもりか?」
お兄様は今にも泣いてしまいそうな顔でそう言った。
「お兄様、面白いって重要でしょ?私、今まで結婚なんて家のためになれば良いぐらいにしか思ってなかった。それが面白い事だと思えたの。それってすごい進歩でしょ?」
私は満面の笑顔を作った。
「大丈夫、殿下は私が幸せにしてあげますから」
お兄様はギッっと殿下を睨み付けると震える声で言った。
「貴方はユリアスに幸せにしてもらうのか?貴方がユリアスを幸せにするのではなくてか?」
「ローランド、誤解だ。俺にだってユリアスを幸せにする気は人一倍持っているつもりだ!」
「ああ、冷静な判断ができない。殿下、一度フルボッコにしても良いでしょうか?」
「ローランドが冷静な判断ができないのは今の台詞で解りたくないぐらいに解った!落ち着け!とりあえず落ち着け!」
殿下を睨み付けてにじりよるお兄様と完璧な逃げ腰の殿下を見て私は思わず笑ってしまったが仕方ないと思う。
「ユリアス嬢、どうか考え直してもらえないか?俺は貴女を諦められる気がしない」
そんなドタバタの中、ジュフア様が私の手を強く握りそう言ってきた。
「どうか、俺を選んでくれ。君に不自由な思いをさせないと誓う!だから…」
「ジュフア様、一つ良いことを教えて差し上げましょう」
私はジュフア様の手を振り払うと言った。
「女に限らず人と言う生き物は与えすぎると考えることを止めて駄目になるんですよ。ほどよく向上心を持たせる事が出来ればジュフア様にもおのずと心引かれる方が現れるでしょう」
「そんな予言はいらない。貴女が欲しいんだ」
「予言?」
予言と言えば、最近あの予言書を読んでいない。
予言書ならこんな時どんな台詞でジュフア様を黙らせられるだろう?
「ジュフア様………」
「なんだろうか?」
私はジュフア様に笑顔を向けた。
「ジュフア様は私に弱さを見せたいと思いますか?」
「弱さ?いや、俺は弱いところなどけして君に見せたりしない」
「それはつまらない」
「へ?」
私はため息をついた。
「もう少し面白い男になって出直して下さい」
私がジュフア様とそんな話をしている間に逃げ回っていた殿下が私を盾にするように私の後ろに回り込み肩を掴んだ。
「ユリアス、助けてくれ!」
「ユリアスを盾にするとはその根性!頭と一緒にかち割ってくれる」
「ローランド、それは普通に死ぬから!ユリアス何とかしてくれ」
私はクスクス笑ってお兄様に向かって言った。
「お兄様、よく聞いて下さい。殿下はマニカ様の幼馴染みなんですよ。殿下を敵にまわすより仲間になっておいた方がマニカ様との結婚も早まるんじゃないかしら?」
お兄様はピタリと動きを止めた。
そして、暫く考えるとニッコリと笑顔を作った。
「殿下、取り乱してしまい申し訳ありません」
「うわ~~信用おけない笑顔だな~~」
「マニカ様のためなら直ぐにでも殺してしまいたい相手にでも笑顔の一つや二つ作れますよ」
私はお兄様に笑顔を向け、お兄様も私に笑顔を向けた。
「マニカ様との結婚のためにも殿下は大事に、殿下も次の宰相候補にお兄様を推薦してくださいますか?」
「裏切らないと誓うなら推薦しよう」
「書類を作るのでサインを」
「本当にユリアスは契約書好きだよな」
私は後ろを振り返らずに言った。
「ええ。結婚も契約でしょ?楽しみですね」
殿下は私の肩に頭をのせると小さく呟いた。
「本当に心臓に悪い………今ならどんな書類にもサインしてしまいそうだ」
「良いことを聞きました」
そんな話をしていると私にも解るほどの殺気を感じた。
見れば笑顔のお兄様と明らかな殺気を放つジュフア様が居た。
たぶんお兄様からも殺気が出ているのだろう。
「ヤバイ。俺直ぐに暗殺されるかも……」
「では、早く王子を産まなくては?」
私の言葉に更に殺気が増した気がしたが私の気のせいだと思う事にしたのは言うまでもない。
終わろうと思いましたが、続けることにしました。
次から九話分は『それは、お金になりますか?』と同じものです。