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プロポーズとプレゼン

ご無沙汰しております。

 お兄様を落ち着かせることに成功した私はランフア様に笑顔を向けた。


「ランフア様は謝る気がない?」

「あたりまえでしょ?」

「では実力行使、いたしますね」

「はあ?貴女に何が出来るって言うのよ?」

「勿論、慰謝料請求いたします」

「はあ?」


 ランフア様、それ姫君に相応しい反応じゃ無いですよ。



「うちの従業員であるマイガーさんを侮辱し、私を殴って怪我をさせたのですから慰謝料請求は妥当な判断だと思います」


 ランフア様は眉間にシワをよせた。


「私は王族なのよ!」

「だからなんでしょう?王族と言う者は、国民に生かされている事を理解していないのでしょうか?」

「何ですって!」

「貴女様が食べている物も着ている服も全て国民の税で出来ているのではありませんか?国民が一人も居なくなればのたれ死にするしかない非力な存在それが王族。そんなことも解らずに我が国の国民に手をあげようとしたのですか?」


 私は見下したように笑顔を作ると言った。


「貴女様が殿下のもとへ嫁がれましたら、私はその動向によって色々と考えなければいけません」

「何をよ!」


 私が笑顔を深くすると殿下が私の前に立った。


「ユリアス、俺にとってはランフアは妹だ」

「だから?」

「嫁いで来ない」


 そして、殿下は小さく『俺あいつ苦手』っと呟いた。

 それを聞いて少しだけ安心してしまった。

 それに、助けて欲しいと言うことだろう。


「ルドニーク様!そんなこと言わないで。隣国との友好を深めるためにも私が嫁ぐのは当たり前のことですわ」


 殿下の口元がヒクリと動いた。


「友好ですか。では何故マイガーさんを殴ろうとしたのですか?」

「だから!何が悪いのよ!あの役立たずには、制裁が必要でしょ?」

「マイガーさんは役立たずではありません」


 不思議そうな顔のランフア様に私は満面の笑みを浮かべた。


「マイガーさんは殿下の乳兄弟で現在の宰相閣下の息子ですが役立たず呼ばわりですか。殿下は自分の兄弟を叩く嫁が欲しいと思いますか?」


 驚いた顔を青くさせ、ランフア様は殿下を見た。

 殿下に表情は無い。

 

「わ、私知らなくて……」


 私は鼻で笑うと言った。


「知らなければ何をしても良いと思っている人間を我が国の王妃にしようなどと誰が思うのでしょうか?私ならついて行けません」


 私がそう言い切るとランフア様はポロポロと涙を流した。

 まるで私が悪いみたいじゃないか。

 その時、突然私は手を掴まれた。

 犯人はジュフア様だ。

 

「ジュフア様?」

「ユリアス嬢、貴女は聡明で皆を率いる技量も持っている美しい人間だ」

「はっ?はあ?」


 私が気のない返事を返すと、ジュフア様は真剣な顔で言った。


「貴女こそ、国母に相応しい!俺の妃になってくれ!」


 ジュフア様の言葉に私は頭が追い付かなかった。

 今、何を言われた?


「俺は女性が苦手だ。だが、貴女は違う。女性嫌いの俺が唯一愛せる女性だ!どうか、俺の妃に」


 妃?

 愛せる?

 どう言うこと?

 呆然としている私の手の甲にジュフア様はキスを落とした。

 ゾワッとした。

 その時、その手をお兄様が叩き落とした。

 私の前には殿下が立った。


「僕の妹に触らないでもらえますか?」


 お兄様の目が完璧に殺気を放っている。


「ローランド、俺にユリアス嬢をくれ」

「妹は物ではない!」

「大事にするし、俺は女性が苦手だから浮気の心配もない!ユリアス嬢の元婚約者のような事にはならない!何不自由なく暮らせるように最善を尽くすと誓う!だから俺に…」


 そこで口を開いたのは殿下だった。


「ユリアスを他国に嫁がせることは出来ない」


 ?

 どう言うこと?


「ユリアスを失うのはこの国の多大なる痛手になる。国母に相応しいと思うのはジフだけではない」

「ルド、ユリアス嬢は政略的な婚約に傷付いているんだぞ!それなのに国の痛手になるだなんて彼女の気持ちを何だと思っているんだ?」


 殿下は私の方に視線を移した。


「ユリアス、君を他国に嫁がせるぐらいなら無理にでも俺の婚約者になってもらう」


 殿下は困ったような顔で私にそう言った。

 殿下は私が必要だと言っているのだろうか?


「ルド!ユリアス嬢を何だと思っているんだ!」

「我が国の経済を担う人材だ」

「何だと!お前はユリアス嬢の気持ちも考えられないのか?」

「ジフ、君がユリアスにプロポーズするなら俺にもその権利があるはずだ。ユリアスの気持ちは俺が決められる事じゃない」


 殿下は私の肩に手を置くと言った。


「この国の経済力は他国に比べて最高水準を極めている…」


 殿下は長々と国の財政を語った。

 周りが呆れているなか、私はその話に聞き入ってしまった。


「…そこで君だ。今の話から君が関わった事業がどれだけあった?君は国に必要だ」


 嬉しい。

 純粋にそう思った。


「国母になれば君の自由は大分削られる。だが、君ならどうにでも出来るだろ?」


 その言葉は私を信頼した言葉だ。


「俺が助けて欲しいと素直に言えるのは君だけだ。だから」


 殿下は私に苦笑いを浮かべて言った。


「俺と国を経営しないか?」


 ロマンなんてものは一切ないプロポーズだ。

 ジュフア様のような愛情は感じない。

 

「ジュフア様、素敵なプロポーズをありがとうございました」

「ユリアス嬢」

「ですが、私は結婚にロマンを求めるタイプではありません。ですので、このお話は無かったことにしていただけませんか?」


 ジュフア様が明らかにガッカリしたのが解ったが仕方がない。


「そして殿下」

「ああ」

「ロマンもへったくれもないプロポーズに私がどう思うか!解って言ってるんですか?」


 殿下は困ったように眉毛を下げた。


「保留にさせてください」


 殿下のプロポーズは取り敢えず保留だ。


「断らないのか?」

「面白いことが出来そうな話でしたのでいったん持ち帰らせて下さい」


 殿下は何故か小さくガッツポーズを作った。

 持ち帰ると言うのは必ずしもいい返事とは限らないと思うのだが。


「待ってくれ!俺のプロポーズを断って何故ルドのプロポーズを断らないんだ?ハッキリ言ってルドのはプロポーズでもないじゃないか?」

「そうですね。殿下はプロポーズではなく、プレゼンをしたのです」


 私は苦笑いを浮かべて言った。


「殿下は私がプロポーズに興味がないことを解っていた。だから、プレゼンをしたのです」


 殿下はジュフア様に向かって言った。


「ユリアスは普通の女じゃない、生粋の商人だ。だからこそ、プレゼンの方が興味を持ってもらえると考えたんだ。ジフ、君はユリアスの事をまだ、理解できていない」


 ジュフア様は暫く黙ると言った。


「ユリアス嬢、ルドの言う通りだ。俺は君の事を理解していなかった。だから、貴女を知る時間をくれないだろうか?」


 ハッキリ言って、ジュフア様を伴侶にして私に何の得があるのだろ?


「ジュフア様、商人のなかでは〝時は金なり〟と言う言葉があります」


 私は満面の笑顔を作った。


「勿論ビジネスの話ならいくらでも時間を差し上げますが、色恋沙汰に興味のない私がその手の話のためにジュフア様に差し上げられる時間はございません」


 ジュフア様は膝から崩れ項垂れてしまった。

 私は苦笑いを浮かべる他無かったのだった。

本格的なスランプです。


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