喧嘩売りましたね?勿論、買います!
あの後ムーラン様は早々に隣国にお帰りになった。
自国でいい男を探すらしい。
帰り際、『お兄様をよろしくね!』って言われたがジュフア様は私のお兄様が接待しているので私は関係ないのでは?って思っている。
ムーラン様が帰国したからと言って平和が訪れた訳ではない。
一番厄介なのは残ったジュフア様のもう一人の妹のランフア様の方だったのだ。
ランフア様はこの国の次期王妃として外堀を埋め始めたのだ。
有力貴族を取り込み、令嬢達を従えて歩く様はかなりの権力者なのだとパッと見で解るほどだった。
「……お嬢、俺………暫く学園休んでいい?」
「マイガーさん?」
マイガーさんも目に見えて元気がなくなり明らかにランフア様に見つからないようにしているように見えた。
どうしたんだろ?
なかなか心配である。
とりあえず、マイガーさんに3ヶ月も休んだら留年してしまうと言おうとした時だった。
「貴方、マイガーじゃない!」
ランフア様の声が廊下に響いた。
マイガーさんの体がビクッと跳ねた。
「貴方、ルドニーク様の従者のくせに今まで私に顔も出さないとは何事なの?」
ランフア様はツカツカとマイガーさんに近づくとマイガーさんを睨み付けた。
私も慌ててマイガーさんに視線を移した。
マイガーさんは一切の感情が見えない表情でランフア様を見ていた。
「貴方には言っておいたわよね!この国に私が着いたら一番に頭を下げに来なさいと!」
「………申し訳ございません」
マイガーさんの感情の無い声に背筋が冷える。
「貴方って本当に使えない!」
そう言ってランフア様は手に持っていた扇子を振り上げてマイガーさんを殴ろうとしたのが解った。
私は慌ててマイガーさんの前に立った。
思いっきり頬を扇子で殴られ口の中が痛い。
「お嬢!」
マイガーさんの瞳に色が戻った気がした。
「何で庇ったりなんか」
マイガーさんが泣きそうな顔で私の頬に触れる。
痛いからやめてほしい。
「前に出てきた貴女が悪いのよ」
ランフア様は私を見下したように言った。
「お嬢に怪我させてなに言ってんだ!」
マイガーさんはランフア様の胸ぐらでも掴みそうな勢いで叫んだ。
私はマイガーさんの腕を掴んだ。
「止めるなお嬢!」
「マイガーさん、貴方が手を出したら台無しになってしまうでしょ?大人しくしてなさい」
私は口元に笑顔をのせると言った。
「ランフア様何をそんなにお怒りなのでしょうか?教えて下さいませんか?」
ランフア様は艶やかに笑うと言った。
「王族の従者のマイガーが職務を全うしていなかったから躾けようと思っているだけなのに貴女がシャシャリ出てきたんでしょ?ユリアス伯爵令嬢」
「王族の従者………だから、殴ると?」
私はイライラを笑顔に押し込めて言った。
「ですが、マイガーさんは既に王族の従者ではありませんのでマイガーさんに謝って下さい」
「はぁ?何故私が?王族でいずれこの国の国母になる私が何故謝らなければならないの?」
私はニコニコと笑顔を向けた。
「悪いことをしたら謝る。そんな簡単なことも王族はしてはいけない。解ります。そう教えられてきたのですよね。ですが、ここは平等の学園の中ですので王族であっても謝ることを誰も咎めたりしません」
「馬鹿なの?そんなことを言ってるんじゃないわ」
私は更に笑顔を顔に貼り付けて言った。
「では、何を言っているんでしょうか?」
「あら~本当に馬鹿なのね!私が何で謝らなければならないの?」
私はマイガーさんに視線を移した。
「マイガーさん確認なんですが、ランフア様に殴られたかったのかしら?」
「お嬢、何でそんなこと聞くの?殴られたいのはお嬢にだけ」
「ドMだから誰にでも殴られたいのなら話が変わってきちゃうから聞いたの」
私はランフア様に笑顔を向けた。
「マイガーさんは貴女様に殴られたい訳ではありませんでした。ですので謝罪を」
ランフア様はイライラしたように言った。
「だから!謝る気なんて無いって言ってるでしょ!」
騒ぎを聞き付けたのか、ランフア様の後ろからお兄様と殿下とジュフア様が走ってきたのが見えた。
「謝る気が無い。そうですか、それならとるべき対処をさせていただきます」
「とるべき対処?貴女私が誰だか解ってないの?馬鹿なの?」
馬鹿はお前だ!って言ってやりたいが台無しにするわけにはいかないから無駄にニコニコしておく。
「ランフア!」
「お兄様!その女がマイガーを殴ろうとしたぐらいで謝れと煩いの!お兄様も言ってやってくださらない?王族が謝罪なんかしないと」
後ろの殿下の口元がヒクヒクしている。
殿下の乳兄弟でこの国の宰相の息子だって解って言ってるんだろうか?
殿下は私に視線を移すとギョッとした顔で私に走り寄った。
「ユリアス、口の端が切れてるぞ!」
「ああ、マイガーさんの代わりに殴られまして」
「な、なんて恐ろしい」
殿下は私が眉間にシワを寄せるとバツの悪そうな顔をして視線を逸らした。
そこに怒気をはらんだ笑顔のお兄様がやって来て言った。
「殺そう」
「お兄様、落ち着いて」
「殺そう」
「殺すのは一瞬です。うちの従業員に手を出そうとした事を後悔させなくては!フフフ……」
「……そうだな!ハハハ……」
私とお兄様は共鳴するように笑った。
「恐ろしい」
私とお兄様は殿下の呟きを無視することにしたのだった。
ながくなりそうなので切ります。