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僕の好きな人 ローランド目線

本日、二度目の更新です。


「ユリアス」

「お兄様!」

「向こうから二人がここに居るのが見えてね。こんなところで何をしていたんだ?」


 ユリアスは瞬きを数回すると言った。


「マニカ様が初めてご自分でマドレーヌを焼いたらしくて、ご馳走になっていました」

「ろ、ろろろ、ローランド様もおひとつい、いかがですか?」


 マニカ様が勢い良く立ち上がり僕にハンカチにのせられたマドレーヌを突き出した。

 僕はそのマドレーヌを一つ受け取るとベンチに腰を下ろした。


「マニカ様も横へお座りください」

「ひゃい!」


 マニカ様は僕の横に勢い良く座る。

 緊張のあまりカミカミのマニカ様も愛らしい。


「私、仕事を思い出したのでこの辺で失礼しても構いませんか?」

「ユリアスさん!」

「構わないよ」

「ではお兄様、マニカ様の事を宜しくお願いしますよ!」

「ああ」


 僕はマニカ様の作ったマドレーヌを頬張った。

 お世辞にも美味しいとは言い難い味だったが食べられない事もない。


「ど、どうでしょう?」

「旨いよ」


 自然と旨いと言葉が出た。

 良かった~っと安心したように笑ったマニカ様は本当に可愛くて僕は見とれてしまった。


「マニカ様」

「はい。ローランド様?」

「貴女は僕が好きですか?」


 マニカ様は一拍おいて一気に赤く染まった。

 

「は、はい!」


 声が裏返ってしまっている。


「僕は伯爵家の長男で跡取りです。それを考えたら侯爵家のマニカ様を嫁にもらえるとは思えないのです」


 マニカ様は辛そうな顔で笑顔を作った。


「………はい。ですが……いずれ、ローランド様が宰相になられたら私を思い出して下さいませんか?」


 マニカ様は泣きそうな顔で続けた。


「私はたぶん、ずっと貴方が好きなので………」


 僕はマニカ様の顔を眺めながら言った。


「自分が跡取りでなければなりふり構わず宰相にでもなって貴女を手に入れるのに」


 マニカ様は驚いた顔をすると言った。


「わ、私、ローランド様の子供を産みます!」


 突拍子もない台詞に驚いた。


「ローランド様のお父様が引退するまでに子供が爵位を継げるように私が教育し………」


 マニカ様は勢いを失い俯いてしまった。

 どうしたのか見ればポタポタと雫が溢れて落ちるのが解った。


「マニカ様?」

「わ、私、はしたないことを言いました。申し訳ございません」


 ああ、なんて可愛いんだ。

 僕はマニカ様の手を掴むと立たせた。


「ローランド様?」


 僕は何も言わずマニカ様を引っ張ってあまり使われていない庭の手入れ小屋に連れていった。


「ローランド様?」


 僕はマニカ様をそのまま抱き締めた。


「ろ、ろろろ、ローランド様!」

「僕の子供を産む?………貴女がそうまで言うなら僕は今の宰相を蹴落としてでも宰相になります」

「ローランド様」

「それまで、待ってくれますか?」

「……は、はい勿論」


 体を少しだけ離してマニカ様の顔を見るとマニカ様は蕩けそうに顔を緩めていた。

 なんだこの可愛い生き物は。

 

「わ、私に出来ることがあれば何でもおっしゃってください!何でもいたします!私がローランド様を支えて見せます!」


 マニカ様がニコニコと笑いながら僕を見上げた。

 あまりの可愛さに気がつけば唇を重ねていた。

 驚いて逃げようとするマニカ様を抱き締める手に力を入れて阻止する。

 

「何でもするだなんて、男を惑わす言葉は僕以外に言っては駄目だ」

「!」


 体を固くして僕を見上げるマニカ様にたえられずにキスを繰り返せば、マニカ様はこれ以上ないってぐらいに赤くなって意識を手離した。

 その時、焦った僕は離れがたい気持ちを抱きながらも彼女をお姫様抱っこして救護室に運ぶ事しかできなかった。






「お兄様、マニカ様は大丈夫ですか?」


 救護室でマニカ様の手を握りながら彼女が目覚めるのを待っていると、妹がマニカ様を心配してやって来た。


「ああ、問題ない」


 妹は僕がマニカ様の手を握っているのを見て顔を綻ばせた。


「マニカ様の事をお姉様って呼んだ方が良いですか?」

「好きにしろ」

「手加減してあげてくださいよ」

「無理だな。そんなことより、マイガーの父親………殺すか?」


 真剣に言ったのに妹はクスクス笑った。


「宰相閣下を殺す前に次の宰相候補に選ばれる所から始めないとじゃないですか?」

「そんなに待てる気がしない」

「今まで眼中にも無かったくせに」

「今は可愛くて仕方ない」


 マニカ様の顔に張り付いた髪の毛を優しく横に流してやると、妹は苦笑いを浮かべた。


「可愛がりすぎて嫌われないでくださいよ」

「………善処しよう」


 可愛くて仕方ないが、嫌われるのは嫌だ。

 この可愛い生き物は僕のものだ。

 それに、キスする度に倒れられるのも困る。

 少しずつならして、僕なしでは生きられないようにしなくては。


「お兄様、悪巧みしている顔になってますよ」

「そうか?」

「マニカ様が目覚めた時にそんな顔してたら怯えられちゃいますよ」

「それはまずいな」


 妹は何故か僕の頭を軽く撫でた。


「お兄様が幸せで私も嬉しい」

「ユリアスはまだまだ家に居て良いんだからな」

「……はい勿論」


 妹はそのままニコニコしながら去っていった。

 そのあとも僕はマニカ様が起きるまで彼女の手を握りながら彼女の寝顔を見て楽しむのだった。

溺愛系の兄がマニカ様に恋をした回でした。

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