僕を好きな人 ローランド目線
隣国の王子と姫が二人、お妃様のお茶会に呼ばれて一週間。
何故か三ヶ月間の留学をすると言い出した。
早く帰れば良いのに。
隣国の王子であるジュフア様は明らかに僕の妹のユリアスを気に入っている。
ユリアスは美人でスタイルが良く頭の回転が早く人を思いやれる心を持っている。
自慢の妹。
そんな妹だからこそ昔から僕は自分の伴侶の心配よりも妹の伴侶の心配をしていたのだ。
自分の伴侶なんて、同じ伯爵かその下の爵位ぐらいで僕の言うことをきける女性を探せば良い。
そう思ってきた。
だが、運命とは解らないものだ。
貴族令嬢に僕は人気がある方で、視線や表情で僕に惚れているかぐらいは解るようになっていた。
だから、侯爵家で殿下の幼馴染みでもあるマニカ様が僕に好意を寄せているのも隣国の姫君のムーラン様が僕を狙っているのも解っていた。
マニカ様は控えめで僕と話す時は顔を赤らめてどもってしまうあがり性。
ムーラン様は大人しそうな見た目とは違いグイグイ好意を押し付けてくる苦手な女性。
どちらにしろ、身分の問題で僕が二人とどうこう出来るとは思っていなかった。
その日、裏庭の一角にあるベンチに妹のユリアスとマニカ様が座っているのを見つけた僕が二人に近づこうとしたとき、彼女達の前にムーラン様が立ちはだかったのが見えた。
何となく見付からないように隠れると、ムーラン様がユリアスに笑顔を向けた。
「ユリアス嬢、また会いましたね」
「は、はい。ムーラン様」
何故マニカ様には挨拶をしないのか?
僕は咄嗟にそう思った。
「ユリアス嬢、良いのよ!」
「何がでしょう?」
「私の事をお姉様と呼んでも」
「いいえ、ムーラン様をそのように呼ぶなど恐れ多いことです」
ムーラン様はユリアスにしつこく姉と呼ばせようとしている。
マニカ様はゆっくりと窘めるように言った。
「ムーラン様、ユリアスさんに無理を言うのは止めてください」
「まあ、マニカ様だってローランドが欲しいんでしょ?」
「呼び方一つで、人一人の気持ちは動いたりしません」
「呼び方一つで変わるかも知れないじゃない。私はローランドを国に連れて帰りたい。だからこそ出来ることはすべてやるわ」
僕は一応、跡取りなんだがムーラン様はそのへんを何も解っていないようだ。
「ローランドにはユリアス嬢が居るじゃない。ローランドは所詮伯爵でしょ。国から居なくなっても問題ないはずよ」
言われたい放題でイライラを通り越して呆れてしまった。
「私より、伯爵のローランドが侯爵の娘をもらうのも無理な話でしょ」
どっちにしろ、僕に二人を嫁にもらえる理由は無い。
僕が苦笑いを浮かべている間に、マニカ様がクスクスと笑った。
「ローランド様はいずれ宰相になると私は思っているんです」
マニカ様の言葉に僕が一番驚いたと思う。
「宰相?今の宰相には息子が居るって噂じゃない」
「この国の宰相と言う職業は血縁者であればなれるような簡単な職業ではありません」
「なら尚更ローランドが宰相なんて」
「ローランド様を侮辱しないでください」
「たかだか伯爵じゃない」
「ローランド様は爵位などでは測れないほどの実力をお持ちの方です」
「話にならないわね。ごきげんよう」
ムーラン様がイライラした顔で去っていくのが見えた。
さっきから、胸が熱い。
何だろうか?この感情は?
「マニカ様」
「言いたいことは全部言いましたわ!」
「素敵でした」
ああ、ユリアス、僕も同意見だ。
「ローランド様の前でも言いたいことが言えれば良いのだけれど………」
「そのうち言えますよ」
「ありがとうユリアスさん」
あれ?マニカ様ってあんなに可愛い人だっただろうか?
さっきから可愛く見えてしょうがない。
僕は隠れるのを止めて二人の元へ向かったのだった。
収まりきらなかったので続き物にします。