世迷い言 ルドニーク殿下目線
マイガーに連れていかれたのは草をむしっただけの原っぱのような場所だった。
そんな俺達が何をする気なのか気になるのか、子供達が遠巻きに見ているのが見えた。
「マイガー先生、なにするの?」
小さな女の子が近寄ってきてマイガーに聞いた。
「俺の兄弟がグラウンドを綺麗にしてくれるってよ」
「草むしりしてるよ」
マイガーはその女の子を抱き上げると言った。
「ボール遊びだってできるんだぞ!」
「無理だよ」
「俺の兄弟は凄いんだぞ!」
「マイガー先生は凄くないもんね」
「何だと!」
「だって姫様にいつも怒られてるじゃん」
俺が吹き出すと、マイガーに睨まれた。
俺は一つ咳をすると原っぱに向かって手を広げた。
「我願うは土を動かす力」
俺の小さな呪文に原っぱの土が盛り上がり波打つように動いた。
その動きが終わる頃にはグラウンドは走りやすい平らになっていた。
「おお、いつ見ても凄いな~」
「マイガー先生!何あれ!凄い凄い!」
回りにいた子供達も驚いて目を見開いていた。
「これで良いか?」
「十分十分!さっきより断然いいよ!」
マイガーは嬉しそうに笑った。
「これで剣術の稽古も出来る」
「懐かしいな。マイガーとは良く手合わせをさせられた」
「一戦やる?」
「久しぶりにやるか!」
俺とマイガーは笑い会った。
マイガーが奥の方から木刀を持ってきてくれて、子供達という名のギャラリーに煽られてこのバトルが白熱してしまったのは言うまでもない。
「ど~~~して貴方達は手加減が出来ないんですか!」
「すまない」
「ごめんねお嬢」
今、ユリアスに正座をさせられている。
「貴方達は普通の人とは違うと言う自覚がないんですか?」
「お嬢、俺らだって普通の人間だよ」
「だまらっしゃい!備品を壊す人は普通とは言いません!」
滅茶苦茶怒られている。
白熱した俺とマイガーは木刀をへし折ってしまったのだ。
楽しそうに見ていた子供達も木刀が折れたとたんに蜘蛛の子を散らしたように逃げていった。
こそこそとこちらの様子を窺う気配はしているが姿は見えない。
「解った!折れた木刀は弁償する!」
「当たり前です!むしろ慰謝料請求いたします」
俺の口元はヒクヒクした。
「お嬢!俺の兄弟を苛めないで!」
「勿論マイガーさんにも請求します」
「ご、ごめんなさ~い!」
まさか、ここまで怒られる事になるとは。
そこに、さっきの女の子が近寄ってきた。
何故かその女の子は正座している俺に花冠を被せるとニコニコしながらユリアスの足にしがみついた。
「ミランちゃん?」
「この人、王子様みたいなの!マイガー先生と違って冠が似合うの!」
ユリアスは驚いた顔をすると困ったように笑いしゃがんで女の子に視線を合わせると言った。
「そうなの?」
「うん!王子様に正座は似合わないの!」
どうやら彼女は俺を助けてくれようとしているようだ。
ありがたい。
「………………今回はミランちゃんに免じて、弁償だけで許してあげます。次は無いですからね!」
「解った」
「は~い!」
俺は女の子を抱き上げてお礼を言った。
「お嬢さん、本当にありがとう。助かりました」
「良いのよ~」
女の子は俺の頬にキスを落とすとニコニコと笑った。
なんてませたことをするんだ。
思わず驚いていると、マイガーに引ったくられるように女の子を奪われた。
「ミラン!ルドに近寄っちゃいけません!たらしこまれちゃうから!」
マイガーは俺を何だと思っているんだ?
「ミランちゃん、キスとかそういう事は、いざというときの切り札にしなくちゃダメよ!」
「ユリアス、小さい子に何を教えてるんだ!」
俺がユリアスにツッコミを入れると女の子はキョトンとしてから言った。
「姫様の名前」
「?」
何が言いたいのか解らず首を傾げると、女の子はユリアスに向かって言った。
「姫様、ラブラブ?」
突然の言葉に目を見開いてフリーズするユリアスが可笑しくて、思わず吹き出してしまった。
「な、何で笑うんですか!」
「いや、君が驚いているのが珍しくて」
「失礼です!」
顔をほんのり赤くして怒るユリアスが可愛い。
そんな可愛い顔を見せないでほしい。
うっかり惚れてしまいそうになる。
横を見ればマイガーも蕩けそうな笑顔で彼女を見ていた。
彼女は自分の魅力に気がついていないのか。
金儲けが好きで頭が良く、冷たそうに見えるくせに優しくて誰もが惹かれる魅力を持った女。
それに気が付かない能天気さも魅力かも知れない。
照れている姿も愛らし………
よもや俺は彼女に惹かれているのか?
いやいや、それを認める訳にはいかない。
彼女は俺を友人として側に置いていてくれているだけだ。
俺の婚約者になんてしたら、彼女は俺を恨むだろう。
俺が彼女の自由を奪うなんてあってはならない。
今この時の中で彼女に便利だと思われているから俺は彼女の側に居られるのだ。
俺が王子でいる限り、彼女は俺のものにはならない。
彼女は俺を望んだりしない。
『友人で便利な男』
それが、俺が彼女の一番近くに居られる称号。
血迷った事を考えるな。
俺は小さく苦笑いを浮かべた。
婚約破棄されたユリアスがどんな男のものにもならなければ良いなんて一瞬でも思ってしまったからだ。
「そう怒るなよ。騎士団御用達のちょっとやそっとじゃ折れない木刀を20本寄付すれば文句ないだろ?」
「わ、私は笑った事に怒って………今回はそれで手を打ちます」
俺の言葉にしぶしぶ了承したユリアスを見ながら、俺はさっき考えたことを全て忘れる事にしたのだった。
何か、こじらせています。