花冠
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孤児院にお土産を持って行くと外で遊んでいた小さな女の子が私を見てパァーっと嬉しそうな顔をしたのが解った。
「姫様だ~!」
「ミランちゃん。お土産持ってきたよ」
ミランちゃんはこの孤児院の最年少の女の子でまだ5歳。
「ふぁぁぁ!皆~姫様が王子様みたいな男の人いっぱい連れてきた~!」
ミランちゃんは、まわりに響く様に叫んだ。
ゾロゾロと他の子供達も建物から顔を出す。
「あ、あれ」
その子供達の中にマイガーさんがまざっているのに気がついたのは殿下だった。
「おお!兄弟!………」
マイガーさんは私達に手を振った後、顔をしかめた。
あんな顔するのは珍しい。
「マイガーか?」
「ジュフア様、マイガーさんと知り合いですか?」
「ああ、ルドの従者だろ?」
「………」
今、マイガーさんはうちの従業員だ。
「昔からそうだが、ルドの側を離れるとは躾が成ってないな」
「マイガーさんは出来る人ですよ」
私はそれだけ呟くと建物の中に向かって歩き出した。
子供達が私のお土産を殿下から奪い取り仲良くはしゃぐのを眺めていると暗い顔をしたマイガーさんが私の隣に立った。
「何で女嫌いのあいつがお嬢と一緒に居るの?」
「金づるだからですかね?」
「………じゃあ搾り取ってよ。俺あいつ嫌いだから」
何となくそうだろうと思った。
お兄様にも殿下にもあんな顔したところを見た事がないから。
「マイガー先生元気ない?」
ミランちゃんが心配そうにマイガーさんの顔を覗きこんだ。
可愛いな~ミランちゃん。
「ミラン、先生を元気づけてくれ!」
マイガーさんはミランちゃんを抱き上げてクルクルと回して遊んであげ始めた。
ミランちゃんもキャッキャと楽しそうにまわされていてた。
「マイガー先生!姫様に花畑を見せてあげたいんだけど、つれてって良い?」
ミランちゃんを回しているマイガーさんに三人の男の子達が言った。
「花畑?」
「裏庭のちょっと先に花畑があるんだ!」
「俺が姫様に花冠作ってやる!」
「俺は首飾り!」
男の子達は嬉しそうに笑った。
子供って何でこんなに可愛いのだろうか?
私は三人に手を引かれてその場を後にした。
お兄様達に内緒で、三人の男の子達に連れられて後ろからマイガーさんに肩車されたミランちゃんがついてきている状況で花畑に案内された。
男の子達が器用に花冠を作っている横でミランちゃんも一所懸命作っている。
マイガーさんはミランちゃんの横に寝っ転がってうとうとしている。
私も同じように花冠を作っていたら、ミランちゃんが突然泣き出した。
皆驚いてミランちゃんに駆け寄る。
「どうしたミラン!」
「マイガー先生に何かされたか?」
「いくらマイガー先生でもぶっ殺すぞ!」
男の子達に詰め寄られマイガーさんは慌てたように首を横に振った。
「ミランちゃん、どうしたの?」
「あぅ、うまぐ……うまぐ出来ない」
「上手く出来ないの?」
私が優しく聞くと、ミランちゃんは顔をくしゃくしゃにしてそう言った。
私は笑顔を作ると言った。
「私のをあげる」
「ちがうの!姫様にあげたいの!」
「そうなの?じゃあ、一緒に作ろう」
ミランちゃんは大きく頷いた。
可愛いミランちゃんを膝にのせて一緒に花冠を作った。
出来上がりは、けして綺麗じゃなかったが嬉しいことに代わりはない。
「ありがとうミランちゃん」
「えへへ!姫様花嫁さんみたいよ!」
そんなミランちゃんに男の子達が、私にと言って作っていた花冠をかぶせてあげていた。
ミランちゃんの頭が小さいせいで首飾りになってしまっているうえに顔が花に埋もれてしまって苦しそうだ。
ミランちゃんはそれでも嬉しそうに微笑んでいた。
私は手元にある最初に作った花冠をマイガーさんの頭に乗せた。
「お嬢?」
「マイガーさん………似合わない」
「こう言う可愛いもんはお嬢がしないでどうすんの?」
「似合うかと思ったんだけど………」
私が悩む真似をするとマイガーさんは柔らかい笑顔を作った。
ああ、店に来るお嬢様達がキャーキャー言うのが解った気がする。
マイガーさんは器用に、二輪の花の茎を絡めて私の左手の薬指に巻いて縛った。
花の指輪だ。
「これで花嫁さんの完成だよ」
「相手も居ないのに?」
「俺が居るじゃん。なんなら叩いて言うこときかせれば良い」
「ドMな花婿はちょっと………」
「残念」
マイガーさんはニカッと笑った。
なんだか元気が無かったマイガーさんが少しだけ復活したような気がした。
花畑から帰ってくると、バハル船長とジュフア様が睨みあっていた。
「姫様!何でこいつらなんか連れてきたんだよ!」
「別に構わないでしょ?」
「構うだろ!」
私は殿下に近づくと言った。
「裏庭のグラウンドの整備を頼みたいのですが」
「人使いが荒いって言われないか?」
私は舌打ちしたくなったのを片手で口を押さえて我慢した。
「………舌打ちしないのか?」
「約束しましたよね」
殿下は暫く黙るとマイガーさんの肩を叩いた。
「グラウンドって何処にあるんだ?」
「やってやるの?さすが俺の兄弟!案内するよん!」
マイガーさんが殿下を連れてグラウンドに行くのを見送って私はバハル船長に笑顔を向けた。
「あの方、凄く便利なの」
「ユリアス!聞こえたからな!」
後ろから殿下の声がしたがまあ、良いか?
「それでも、やらないって選択肢はあの方には無いのね」
「姫様………手玉にとりすぎだろ?」
「使えるものは親でも使うが私の生きざまです」
「どんな生きざまだよ」
バハル船長は毒気を抜かれたように項垂れたのだった。
スランプさんと戦いたいと思います。