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隣国の船

スランプさんが帰ってくれません。

 王妃様のお茶会の後、ジュフア様と殿下と港に行く事になった。

 ジュフア様の船が気になると殿下が言ったから。

 私も隣国の船は乗った事がないから気になるので連れてきてもらったのだった。

 私も一緒に行きたいと言ったらジュフア様は嫌そうな顔をした。

 

「ユリアスは船に興味あるのか?」


 殿下も不思議そうだ。


「隣国の船の積載量は常々気になってました」

「積み荷か……」


 殿下は呆れ顔だ。

 失礼じゃないかな?

 とりあえず連れていってくれたから文句はない。


「あれ?ユリちゃん?」


 船に乗ると、私の知っている顔がほとんどだった。

 私は他国の船乗りに下町の行商人のふりをしてお土産を売り付けるのを趣味にしているのだけど、その時の常連客がほとんどだったのだ。

 逃げ出して良いだろうか?


「ユリちゃん!何その綺麗な服!似合うね!貴族様みたいだ!」


 常連客の中でもフレンドリーによく隣国の話をしてくれる男の子が私にニコニコしながらそう言った。


「ユリアス」


 殿下はまたも呆れ顔だ。


「え、え~と………」


 私が何を言ったら良いのか悩んでいるとジュフア様が眉間にシワを寄せて言った。


「お前、スパイか?」

「ジフ、ユリアスはスパイじゃなくて商人だ」


 殿下の言葉にジュフア様が首をかしげた。

 どんだけ不思議そうな顔をするんだ。


「ユリちゃん?」

「あ、あのねリシュ君………久しぶりだね………後で品物持ってまた来るね!」


 私の動揺を察したのか、殿下が私の肩をそっと抱き寄せると言った。


「悪いな、こいつは今俺の連れだ。仕事の話は後でにしてくれ」

「………」

「嫌そうな顔をするな」


 そんな所有物みたいに言われるのは癪だ。


「ユリちゃんじゃねぇ~か!船に乗ってくるなんてどうした?」

「船長までこの女を知ってるのか?」

「王子は女に興味が無いから知らねんじゃないっすか?ユリちゃんが売ってくれる商品は品質が高くて嫁の土産を選ばせたら外れが無いって船乗りの中でも有名な娘ですぜ」


 船長さんの言葉に感動してしまった。


「それにしてもユリちゃんが男連れだなんて、うちの若いやつらが知ったら海に身投げしちまうぞ」

「何のこと?」

「おいおい天然か?うちの若いやつらはユリちゃん狙いで土産買ってるやつも多いんだぞ!」

「そ、そうなの?それ、喜んで良いの?」


 私が首を傾げると船長さんは豪快に笑った。

 何なんだ?


「リシュ、お前見込み無いな」

「うっせえ!ユリちゃんそいつと付き合ってんの?」


 私はいまだに私の肩を抱いている殿下を見上げた。

 

「この人とはそう言うんじゃないよ!」

「なら、他に好い人は居るのか?」

「………」


 私は暫く黙ると苦笑いを浮かべた。


「わたしね。最近、婚約破棄されたの。だから当分は好い人はできないかな?」


 私の言葉に殿下以外の周りが息を飲んだのが解った。

 見上げれば殿下がまたも呆れ顔だった。


「本当の事ですよ」

「本当の事だけどな」


 傷心ぶるなと言いたいのかも知れないが、文句は受け付けない。


「ルドニーク、本当か?」

「ああ、先週か?婚約破棄したばかりだな」


 ジュフア様が気まずそうな顔をしたのが解った。

 まあ、女性が婚約破棄されるのは痛手にしかならないと思うからそんな顔もするだろう。


「そ、そうか。お前も大変だったな」


 ジュフア様が気まずいのにもかかわらず頑張ってつむぎだした言葉に私は笑顔を作った。


「お気になさらず」


 殿下はそんな私の頭を軽く小突くと離れて言った。


「ジフ。彼女は傷心でも何でもない。気にするな」

「いや、ルドニーク。女の心と言うやつはガラス細工の様に繊細だと聞くぞ」

「彼女の心はオリハルコンだから大丈夫だ」

「失礼ですよ。私だって傷付きます!」

「君の心の傷はお金が絡めばすぐ塞がるだろ?」

「………確かに」


 私が納得すると殿下は大きなため息をついた。

 

「納得するところじゃないだろ?」

「私の心の傷を埋めるために、またイベントに参加してくださるって今言いましたよね?」

「言ってない」

「可哀想な私を笑顔にするために体を張ってくださるって言った」

「言ってない。あのイベントは二度とごめんだ」


 思わず舌打ちをした私に、またため息をつく殿下。

 私の舌打ちと殿下のため息はワンセットになりつつある気がした。


「ユリアス、舌打ちは止めてくれ」

「イベントやりたくないとか我が儘言うから、ついついです」

「何言ってもやらん!」

「じゃあ、私も舌打ちぐらい許してほしいです」

「………せめて人の居ないところでだけにしてくれ」


 殿下が小さく呟いた。

 何でこの人はこんなにも優しいのだろうか?

 物凄く怒って良い事なのに。

 私は苦笑いを浮かべた。


「気をつけます」


 私の言葉に殿下も苦笑いを浮かべた。

 あれは信じていない顔だ。

 それでも、私と殿下の関係が少しだけ近いものになった気がしたのだった。

中途半端でごめんなさい!

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― 新着の感想 ―
[一言] コミカライズよりまいりました! 原作はやっぱりおもしろい! とても読みやすくて軽快で読み切っちゃうのがもったいないー!
[良い点] 令嬢の前向きな姿勢は爽快。周りの男性陣もいいキャラでテンポよく婚約破棄に向けての取り組みも面白くスッキリした。 [気になる点] 商売人としても令嬢としてもあるまじき場面での舌打ちが多発しす…
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