隣国の姫と王子
第二章?
婚約破棄が上手くいき、私は傷物令嬢として新たな人生を歩み始めたのだが、何故こうなった?
お妃様の主催するお茶会に参加し、案内されたテーブルにはマニカ様とお妃様と隣国のお姫様が二人。
え?何でこのテーブル?
私は笑顔で皆様に挨拶をしてその場を立ち去ろうと思った。
「ユリアスちゃん!よく来たわね!座って座って!」
お妃様のフレンドリーさに負けました。
「お妃様、こちらの方は?」
東隣の国であるラオファン国の上の姫様であるランフア様。
綺麗な紫色の長い髪に菫色の瞳のボッキュッボンの美人なランフア様が私を値踏みするようにジロジロ見ながらお妃様に聞いていた。
下の姫様であるムーラン様は赤紫の長い髪を三つ編みにしていて、優しい桃色の瞳の可愛らしい人で何故かマニカ様と睨みあっている。
何故だ?
「こちらはユリアスちゃんですの」
お妃様のアバウトな説明に私は慌てて姫様達に頭を下げた。
「自己紹介が遅れてしまい申し訳ございません。私は、ノッガー伯爵家長女ユリアスと申します。以後お見知りおきを」
私が自己紹介を終えて頭を上げると、ランフア様に睨まれた。
「お妃様、何故伯爵なんて身分の方をこのテーブルに招くんですの?」
もっともです。
私だって他の身分が同等から下の方達にお菓子やドレスや宝石の話がしたい。
ビジネスチャンスなのに何故このテーブル?
「ユリアスちゃんには色々な人と仲良くなってほしいからよ」
何故だろ?
この外堀を埋められていく感じ。
でも、二人の姫様達は隣国のドレスにアクセサリーを身に着けているのだが、そのどちらにもキラキラの刺繍と大きな宝石がついて興味深い。
「ユリアスちゃん、後でルドニークも来るから待っててね」
ランフア様に滅茶苦茶睨まれた!
お妃様何言っちゃってくれてるんですか?
私、殿下に会いたいなんて言ってません。
「な、何故ルドニーク様が来る事をこの方に言うんですの?」
「ユリアスちゃんはルドニークの良い人なのよ」
違います!
私はプルプル横に首を振りましたが信じてもらえてないみたいだ。
「お姉様、愛に身分は関係無いんですのよ!ねぇ、マニカさん」
「そうですわね、ムーラン様」
マニカ様とムーラン様もバチバチに睨みあっているけど何があったんだ?
私は運ばれてきた紅茶をプルプルする手でゆっくりと口に運んだ。
少し落ち着けた気がする。
私はこのカオスな状況を紅茶を飲む事で現実逃避した。
「ランフア、ムーラン」
「「お兄様!」」
暫くして殿下が濃く長い金髪を後ろで綺麗に束ねた金色の瞳のイケメンを連れて現れた。
あれは隣国の王子殿下のジュフア様だ。
二人の姫様が嬉しそうに笑顔を向けている。
殿下はその後ろからお兄様と一緒に書類を見ながら何やら言い合いをしているようだ。
「ああ、ユリアス。この前の軍事遠征用のパンなんだが……」
私を見つけて殿下が話しかけてきたが思わず舌打ちをしてしまったのは許してほしい。
「隣国の客人の前で舌打ちは止めてくれ」
「すみません。ストレスで」
「ストレス?大丈夫か?」
「殿下、暫く寄って来ないでください。外堀埋められそうで怖いんで」
「心配してるヤツに対して寄るなは酷くないか?」
殿下が私に一歩近づくと、お兄様が私と殿下の間に立った。
「ユリアス、殿下に近寄るな」
「勿論」
「酷いぞお前ら」
お兄様は私に優しく笑いかけた。
その瞬間、殺気を感じた。
見ればムーラン様に睨まれている。
ああ、お兄様狙いだからマニカ様と睨みあっていたのか。
「姫君様方、僕の妹がご迷惑をおかけしませんでしたか?」
お兄様の言葉にムーラン様がパァ~っと笑顔を作った。
解りやすい。
「ほう。貴女がローランド君が溺愛しているという妹さんだったのか」
「ユリアスと申します」
「僕の名前はジュフアだ」
「存じ上げております」
ジュフア様は妹君以外の女性が嫌いだと聞いたことがある。
ジュフア様は私を上から下まで見る。
結構失礼だが、私も人のことは言えない。
だって、隣国の服の仕立てが珍しいのだ。
ジュフア様は妹君達よりも大きな宝石の付いたブローチをしているのが目立つ。
「ジュフア様のブローチはとても素敵ですね」
軽いジャブのつもりで言った言葉にジュフア様は明らかに表情を曇らせた。
「このブローチをご所望かな?」
嫌そうな顔をしたわりに、笑顔をつくってブローチが欲しいか聞いてきた。
欲しいとは言ってない。
「いえ、宝石が採れる国ならではの特産物として興味があっただけです。そのブローチはジュフア様が着けているのが相応しいと思います」
ジュフア様は嘲笑うような顔をしてから言った。
「女と言う者は宝石にすぐ目が眩む。本当は欲しいのだろ?」
私は満面の笑顔を作った。
「私が欲しいのはジュフア様が今身に着けている宝石ではなく安く宝石を輸入する契約が欲しいですわ」
「なんて強欲な女なんだ」
ジュフア様は私を見下したように笑うと懐から、麻布を出すと私の前に放り投げた。
「僕は強欲な人間とはこの手のクズ石でしか契約など結ばん。それでも良ければ契約してやろう」
私は掌サイズの麻布を開いて中を見てみることにした。
中には小指の爪ほどの大きさの宝石がジャラジャラ入っていた。
私は何時も忍ばせているルーペを使って最初に摘まめた石をよく見た。
「そんな小石に価値などないがな」
私は直ぐに指を鳴らして、お抱えの執事を呼び寄せた。
「契約書を」
「かしこまりました」
うちの優秀な執事はあっという間に契約書を作り、私に手渡した。
「この契約書にサインと捺印をお願いいたします」
「………」
何かを警戒したのかジュフア様が契約書を見詰めた。
「お妃様、先程ジュフア様がこの手のクズ石であれば契約しても良いと言ったのをお聞きしましたよね?」
「そうね」
「お妃様もこうおっしゃってますのでサインと捺印を」
ジュフア様は私を睨みながらサインと捺印をした。
私はその契約書を見詰めて微笑んだ。
「ユリアス、悪い顔になっているぞ」
殿下の言葉に私はまた舌打ちをした。
「……舌打ちはやめろ。そんなことより、その小石はどうやって金に換えるんだ?」
殿下は私の手にある小さな宝石の原石を一粒つまんだ。
「削ったらもっと小さくなるだろ」
「だから?」
「だからって………売り物にならないだろ?」
「なりますよ」
私はニヤニヤしながら言った。
「小石だろうが何だろうが、私に売れないものがあると思ってます?」
殿下は呆れたようにため息をついた。
そんな殿下の肩をポンポンと叩いてお兄様が言った。
「庶民向けのネックレスか?」
「指輪も良いですね。私の囲っている銀職人が面白い台座を作ったのでヒット商品間違いなしです。ちなみに、お兄様が囲っている石の職人に研磨をお願いしても?」
「勿論。これは売れる」
「ですね」
私とお兄様は共鳴するように笑った。
「ジュフアも、もう少し考えて契約しないとノッガー伯爵家に搾り取られてしまうぞ」
殿下がジュフア様にいらないアドバイスを始めた。
「殿下、余計な事言わないでください」
「ユリアスも手加減してやれ」
「………は~い」
私は仕方なく返事をしたが、殿下はそんな私を見て大きく溜め息を吐き出したのだった。
今回は恋愛に……
したい?