国王様に気に入られてしまった
スランプが辛い。
国王陛下が怨めしそうに宰相閣下を睨んでいるとバナッシュさんが前に出てきて叫んだ。
「わ、私はラモール様とは結婚しません!」
バナッシュさんの言葉に元婚約者様はバナッシュさんの肩を掴んだ。
「ジュリーどうしてだ!」
「私は何時も、〝貴方と私では身分が違いすぎます〟と言って来ました!それを貴方は侯爵という権力でいうことをきかせていたじゃないですか!」
「な、何を……言ってるんだ」
「私にはラモール様じゃない好きな人が居るんです!」
なんてことだ。
バナッシュさんは思っていたよりアホではなかったようだ。
私が記録した映像にも、バナッシュさんは元婚約者に最初拒否ともとれる台詞を吐いている。
元婚約者様はショックがでかすぎたのか膝から崩れ落ちた。
流石に可哀想になってしまった。
バナッシュさんは、もう元婚約者様を見もしない。
むしろ、殿下を凝視している。
あれ、助けた方が良い?
私が殿下に視線をうつすと、殿下もこっちを見ていた。
助けた方が良いらしい。
私はゆっくりと国王陛下に近寄り言った。
「国王陛下、この話はまた今度と言うことでダンスパーティーを再開しませんか?何時までたっても国王陛下とのダンスが始められませんから」
私が恥じらうように言えば国王陛下もニコッと笑い同意してくれた。
「ま、待ってください!私は王子殿下が好きなんです~!」
バナッシュさんが思いっきり叫んだ。
国王陛下はニコニコしながら言った。
「だから?」
「へ?」
「君はアホだな。ユリアス嬢は婚約破棄されただけで自分を傷物と言っているんだよ?君はラモールと、拒否はしたと言ってもイチャイチャしてた。それの方が傷物と言って差し支えないと思うんだが違うか?他の男とイチャイチャしていた事実がある令嬢を国母には出来ない」
国王陛下の言葉はもっともだ。
「あ、愛があればそんな障害…」
「俺は君に対して愛はない」
そこに殿下の冷たい声が響いた。
むしろ怯えてらっしゃるもんね。
「そ、そんな!酷い!なら、マイガー様」
バナッシュさんがマイガーさんの方を見た。
宰相閣下の眉間にシワが寄った。
「美人に告白されるのは嬉しいけど、悪いね。俺、お嬢に人生捧げるって決めちゃってるんだ!」
マイガーさんはニコニコしながら断った。
バナッシュさんは最後にお兄様を見た。
私はお兄様の前に立った。
「ローランド様!」
「ユリアス大丈夫だ。バナッシュさん、僕は妹が可愛くて仕方がない。だから、君みたいにユリアスを傷つける女はごめんだ」
バナッシュさんは元婚約者様と同じように膝から崩れ落ちた。
あんなついでみたいにお兄様を扱うからそういう感じになるんだ。
あの後、国王陛下とのダンスをすることになった。
「お嫁においでよ」
「まあ!それでは国王陛下のお嫁に行くみたいに聞こえてしまいますよ」
「ルドニークは嫌いかい?」
「………信頼しています」
「望むなら君の望みを全て叶えてあげるよ?」
国王陛下はダンスのステップを綺麗にリードしながら言った。
「君の望みはなんだい?贅沢な暮らし?愛される事?ルドニークは全て与えてくれるよ」
「王族は国民の税金で生活しているんですよね?」
「違うとは言い切れないが、王族には副業があってね。君は知ってるかい?王族はドラゴンの加護があるって。ちなみにワシはサラマンダーの加護。火炎系の魔法が並外れてる」
聞いたことがある王族は産まれたときにドラゴンの加護がもらえるのだと。
今私と踊っている国王は戦争や魔物の討伐に先陣きって指揮を執った功労者だと。
「ルドニークはフロストドレイクの加護がある。ようは、氷の加護だ。アイツが本気を出せば国を氷付けにだって出来るぞ」
「氷が手軽に出せると言うことですか?」
「氷だけじゃない。風の魔法も火の魔法も水の魔法も使える。氷の力が強いってだけで万能だ。この魔法使いが少ないこの世界でだ」
殿下って凄い。
私が感心していると国王陛下はニコニコ笑った。
「アイツは魔法使いとして様々な事をしている。水路の建設とかな、浮いた費用の一部を小遣いにしてるアイツは自力で稼いだ金を結構貯め込んでるぞ」
殿下。
この国が他の国に比べて生活水準が高いのは殿下のお陰で、お金を結構貯め込んでる。
貯め込んでる。
ここ重要。
「どうだい?ルドニークの嫁に来ないか?」
私はニコッと笑い言った。
「殿下が便利なのは解りました。私の望みを叶えてくださるなら、私はお金儲けがしたいです」
「金儲け?金ならルドニークが稼いできてくれるぞ?」
「私は、お金が欲しいのではなくお金を儲けたいのです!………嘘をつきました。お金も欲しいです」
国王陛下は驚いた顔をした。
変なやつを見るような目で見てこなかったのは流石だと思った。
「お金儲けをするのに王妃の肩書きは邪魔です。ですので、お嫁にはまいりません」
その時、曲が終わり私は国王陛下から離れると頭を下げた。
国王陛下は吹き出すと、そのままお腹を抱えて笑いだした。
「ユリアス嬢、気に入った!君を手に入れるために君が王妃になりたくなるような何かを探す事にしよう!」
「ですから、その言い方ですと国王陛下のお嫁に行くみたいですよ」
国王陛下は嬉しそうに笑い。
私は偉い人物に目をつけられてしまったと苦笑いを浮かべるのだった。
まだまだ、続くよ。