お昼寝中にお邪魔します
書きたいことをまとめる頭が欲しい。
私がバナッシュさんを不審に思ったのは私の横で盛大に転んだのを見た瞬間だった。
ああ、こんなシーンあの小説にあったよ!
って言うか、小説では私がモデルの悪役令嬢が足掛けしたんじゃなかったっけ?
って事は、私が足掛けした設定でこの子は演じている?
私は血の気が引いた。
あの小説は終わっていないが、中盤で私をモデルにした悪役令嬢は断罪されて婚約破棄と学園内で肩身の狭い思いをするようになる。
断罪ってやってもいないことで断罪されるの?
婚約破棄だけでもキズモノ令嬢って言われてしまうのにやってもいない罪で断罪………
させるわけ無いよね?
バナッシュさんの思い通りにはさせない。
何故なら、私は断罪で自分の名誉が蝕まれるなんて耐えられないからだ!
浮気に苛めの偽装?
受けてたとう!
あの子にとって、あの小説は予言書みたいな物だろう。
けど、あの小説は私にとっても予言書なのだ。
証拠を集めよう。
私が婚約破棄されたのは侯爵の浮気のせいだと解る証拠と私が苛めをしていない証拠を。
私は真横で倒れているバナッシュさんを見詰めてコンマ三秒でそこまで思ったのだった。
最初に私が向かったのは薔薇の咲き誇る池。
勿論、予言書に書かれている婚約者様との逢い引きの場所だ。
池に直接行くのはリスクが高い。
だから私は池がよく見える薔薇の木の裏側にまわって、記録用魔道具で二人の逢い引き現場を映像で残すことに決めた。
好都合なことに逢い引き現場の近くの薔薇は葉が足下まで茂っていて隠れやすい。
私は急いで目的の場所に向かった。
………先客がいた。
我が国の第一王子殿下がお昼寝中だ。
マチルダさんが言ってた通り、樹の影でねっころがってらっしゃる。
しかも、私の気配に気がついたらしく目が開いた。
漆黒の髪の毛にスカイブルーの瞳が私を見ている。
暫く王子殿下を見ていたが、私には使命がある。
私は王子殿下を無視して魔道具のセットを始めた。
「………君、たしか、ローランドの妹?」
「シーお静かに」
私が魔道具をセットし終わったのと同時にバナッシュさんが現れ、直ぐに婚約者様も現れた。
何やら話をしている。
ここからでは何を話しているのか解らないが、婚約者様がバナッシュさんの手を引き抱き寄せたのが撮れた。
小説通りの展開に口元がにやける。
「あれは侯爵家のラモールだな」
「はい。私の婚約者様です」
王子殿下の言葉に返事を返すと王子は黙りこんだ。
二人が居なくなるのを見送ってから王子殿下に向かって魔道具をかまえ、私は王子殿下に聞いた。
「今日は何月何日何時ですか?」
王子殿下は上着のポケットに入っていた懐中時計を出して私の欲しい答えをくれた。
私は王子殿下に笑顔を向けて頭を下げた。
「失礼な態度をとってしまいまして本当に申し訳ございません」
「………いや、何か深い理由があるのだろう」
「いえ、ただ単にあいつらの思い通りにならないように材料を集めているだけでございます」
王子殿下は表情もかえずに言った。
「またここに来るのか?」
「はい」
「ここは俺の昼寝場所だ」
私はうっかり舌打ちをしてしまった。
「おい」
「すみません。つい」
「舌打ちなんてはじめてされたぞ」
「すみません。ついですつい!それに、長い間ではありません」
王子殿下は納得いってない顔だ。
「私の婚約者様はもう暫くすると私を断罪して婚約破棄するんです」
「何故解る?」
「予言書がありまして」
「………見せろ」
私は仕方なく、あの小説を取り出した。
「………バカにしてるのか?」
「いいえ!じゃあ、ここだけ読んでください!さっきの場面ですから」
王子殿下にさっきの場面に似ているページを開いて見せると王子殿下は眉間にシワを寄せた。
「信じてくれなくても良いです!」
「………で、これを読んだ上でどうするんだ?」
「この中に出てくる私は馬鹿で嫉妬深い女なのです」
王子殿下の口元がヒクッとした。
「ですが、リアルの私は馬鹿でもなければ嫉妬深くもない。むしろ、婚約者様など愛してもいない」
「それ、言っちゃって良いのか?」
「だって、殿下は私の人生の中で重要な人物では無いので」
「………」
「悪い意味じゃ無いですよ。むしろ、害がないのです」
私は眉を下げた。
「ここで偶然会わなければ挨拶以外の会話の無い雲の上の人が貴方ですから」
「君はローランドの妹だろ?」
「はい。ノッガー伯爵家のユリアスと申します」
「俺はローランドと仲は良い方だ」
たんたんとしたしゃべり方の王子殿下に私はヘニャっと笑った。
「王子殿下、貴方は兄の友人ですが私の友人ではないのです。しかも、婚約者のいる状況で貴方と仲良くなるなんて大人は許しません。私が婚約破棄したとなれば婚約者が居なくなったとたんに大物を狙っているって言われるに決まってます。王子殿下は私に関わらない方が良いのです」
「………解った」
王子殿下は一つ息を吐くと言った。
「ここに来ることを許そう。その代わり君は今から俺の友人だ」
こいつ、解ってねぇな。
私は思わず舌打ちをした。
「舌打ちする令嬢なんてはじめて見たからな、これから宜しく」
舌打ちしたのを気に入られたらしい。
私は三回目の舌打ちを止めることが出来なかったのであった。
お疲れさまです。