断罪 後編
衝撃の事実!
国王陛下の悪い顔に若干怯んだが、私は足を踏ん張って言った。
「こちらの書類で浮気をして婚約が破棄になった場合は、以下の金額を支払うという記述があります。これを請求いたします。……国王陛下に質問なんですが、キュリオン侯爵家は必要ですか?」
国王陛下はニヤリと笑い言った。
「ユリアス嬢、君は期待を裏切らないな………………キュリオン侯爵家の存在が要らないと言ったら、君は何をするつもりだい?」
「国王陛下人聞きの悪い事を言わないでほしいです!私は何もするつもりはございません」
国王陛下は不服そうに溜め息を吐いた。
「ただ、国王陛下がキュリオン侯爵家が必要がないとおっしゃるのであるならば容赦はしません」
「……容赦?」
私は元婚約者の方に視線をうつした。
その時、人だかりの中からラモール様の父親のキュリオン侯爵が青い顔で近づいて来るのが見えた。
まあ、青くもなるか。
「ラモール!」
「父上!今まさにユリアスとの婚約を破棄することが出来ました!」
満面の笑顔をむけるラモール様をキュリオン侯爵は力一杯殴り付けた。
「ユリアス嬢、違うんだ!このアホには私から言い聞かせておくから婚約破棄などと言わないでほしい!」
「父上?」
私は笑顔をキュリオン侯爵にむけた。
「申し訳ございません。もう、婚約破棄の書類にサインと捺印を済ませてしまいました。勿論、国王陛下の分まで全て」
顔面蒼白のキュリオン侯爵。
何が何だか解らないといった顔のラモール様。
ニヤニヤしている国王陛下。
国王陛下は笑いが抑えられていない声で言った。
「ユリアス嬢、ワシは常々キュリオン侯爵の仕事に疑問を持っていてね」
「要らないと?」
「要らないな~」
国王陛下の言葉に近くにいたお父様とお兄様が近づいて来た。
「ノッガー伯爵!違うんだ!これは…」
「言い訳は結構です。国王陛下、婚約破棄を承認していただいてありがとうございます」
「お安いご用だ」
お兄様は国王陛下に書類をいくつか渡して言った。
「ユリアスとラモール様の婚約破棄が完了しましたのでキュリオン侯爵家の全てを差し押さえさせていただく書類にサインと捺印をお願いいたします」
「な、何?」
ラモール様が慌てたようにキュリオン侯爵を見た。
キュリオン侯爵の顔はもう真っ白で廃人のようだ。
「浮気の慰謝料、支度金の返金、ユリアスにいわれのない罪を着せ暴力をふるった事による慰謝料等々の金額からの差し押さえです。ラモール様は父親からユリアスの重要性を聞いていないと見える」
お兄様が差し出す書類に国王陛下はサラサラとサインしていく。
「キュリオン侯爵様は領地に家も無くなりますが、キュリオン侯爵様の奥方の実家は伯爵の爵位を持っているのでそちらに身を寄せる事になるでしょう。ラモール様はバナッシュ家に婿養子に入れば問題無いでしょう。バナッシュさんと婚約すると先程言っていましたよね?」
お兄様がバナッシュさんの方を見るとバナッシュさんも青い顔で首を横に振っていた。
お兄様はそれを無視して段々と国王陛下に報告した内容の書類を手渡した。
その時、元婚約者様が叫んだ。
「領民はどうする!うちが治める領地を蔑ろにするつもりか!」
お兄様がゆっくりと元婚約者様を睨んだ。
それを見ていたお父様が笑って言った。
「ローランド、そう睨むな。ラモール様、何を言っているのですか?」
「貴様らは我が領地の人間の事を何も考えていない!そんな奴等に領地や家を奪わせる訳にはいかない!国王様だって許す訳がない!」
元婚約者様の言葉にお父様はクスクスと笑った。
「貴方様は本当にアホですね」
「な、なんだと!もう一度言ってみろ!」
「アホ過ぎて笑いが止まらないと言った」
お父様、滅茶苦茶怒ってます?
私とお兄様は遠くを見詰めて少しだけ現実逃避してしまった。
それにツッコミを入れたのはうちのベテラン執事だった。
「旦那様」
「なんだ?」
「黒い部分が駄々漏れです。早くその阿呆に何故阿呆なのかの説明をなさることをおすすめいたします」
「ああ、そうだったな」
ああ、うちの執事も黒い部分が駄々漏れです。
「陛下もご存知とは思いますが、キュリオン侯爵様は領地を治める能力は無く領民は税を納めるのに苦労をしています。そんな領民が頼ったのがユリアスでございます。ユリアスは領民が税を納める事に苦労をしないための再生プログラムを考えて提案しています」
「ほう」
「それを実行している領民達のユリアスに対する信頼は、はかり知れません。キュリオン侯爵家とノッガー伯爵家どちらの領民になりたいかは一目瞭然なのです。何せキュリオン侯爵家の方々は税を取り立てるだけで何もしてこなかったのですから」
お父様が言い終わるのと国王陛下が書類にサインと捺印し終わるのはほぼ同時だった。
「再生プログラムとは興味深い。聡明で美しいとは羨ましい娘を持っているなノッガー」
「ありがとうございます陛下」
国王陛下はニコニコしながらキュリオン侯爵のもとに向かうとキュリオン侯爵の肩をポンポンと叩き言った。
「一からやり直せ、侯爵の仕事も息子の教育も」
うわ、凄い台詞だ。
そして、国王陛下は次に私に近づいて来た。
「ユリアス嬢」
「何でしょうか国王陛下?」
「君は本当に聡明で美しい、よってうちのむす…」
うちのお父様がすかさず国王陛下の口をふさいだ。
お父様、それ不敬にあたりますよ。
「何を言おうとしてるんですか陛下?」
口をふさがれた状態で首を傾げる国王陛下。
「それ、絶対に言わないでくださいませんか?」
国王陛下がコクコクと頷くとお父様は手を離した。
「うちの息子の嫁においで!」
国王陛下が手を離した瞬間に言った言葉に、お父様もお兄様も口元をひきつらせた。
「君みたいな頭の良い娘は国のためになる。息子と国を支えてほしい」
私に満面の黒い笑顔を向ける国王陛下に私も笑顔を返した。
「御断りいたします!」
会場の空気がはりつめたのが解った。
「何故だろうか?息子のルドニークに不満があるのか?」
「いいえ。殿下は聡明な方で国を背負うに値する素晴らしい方です」
「では、何故?」
私は殿下に視線を向けた。
「私と殿下は友人です。お互いの利益のために協力しあう言わば同志。そんな殿下に私は相応しくありません」
「それはどうだろう?」
「私はたった今、侯爵家の方から一方的に婚約破棄されてしまった問題ありの傷物令嬢です。国母には相応しくありません」
「………」
私がニコニコ笑うと、国王陛下は宰相閣下に視線をうつした。
「どう思う?」
「さあ、私に聞かれましても?」
「マジか!何か知恵があるだろ?」
「あったところで助け船を出すつもりもありません」
「何故?」
宰相閣下もニコッと笑った。
「うちの息子もユリアス嬢に恋い焦がれていますので」
「………倍率高いのか?」
「他国からも引く手あまたみたいですよ」
国王陛下は困ったように眉を下げた。
「ユリアス嬢、うちの息子の好きなところはあるだろうか?」
「しいて言うなら、舌打ちしても怒らないことでしょうか?」
「………」
その瞬間、国王陛下が殿下そっくりに深い溜め息をついた。
ああ、やっぱり親子。
そっくりだ!
私はそんな国王陛下に満面の笑顔を向けるのだった。
殿下の名前がルドニークと決まりました。
遅いって?
仕方ない、必要が無かったんだもん。