断罪 前編
長くなるので前編後編に分けたいと思います。
学園主催のダンスパーティーには国王陛下や有力貴族の皆様も参加が義務付けられている。
何故って?
それは、将来のためだ。
自分の部下に相応しい人材を探したり、娘や息子の婚約者を決めたりするためって事。
小説では、婚約者様が婚約破棄を言い出すイベントである。
私はうちの優秀な執事に必要書類を準備させ待機させている。
この手のイベントに婚約者様の父親である侯爵は遅刻して来るのが通説で、国王陛下にチクチクと嫌味を言われたくないからだと噂されている。
侯爵が来る前にちゃっちゃと書類にサインと捺印させなくちゃ。
「私、ノッガー伯爵家長女、ユリアスと申します。殿下には友人として何時もお世話になっております」
「こんな美しいご令嬢と友人とは我が息子も隅に置けんな。ユリアス嬢、後程ワシと一曲踊ってくれるかい?」
「わ、私でよろしいのですか?」
「ああ、君が良い」
「では、後程…」
丁度、国王陛下と挨拶と社交辞令を交わしていると婚約者様が近づいて来るのが見えた。
「国王様!お話があります!」
婚約者様が高らかに叫んだ。
め、目立つから!
もう少し穏便に出来ないのかな?
「君はたしか………侯爵家の長男だったか?」
「はい。自分は王子殿下の親友のラモールと申します!僕の話を聞いてください!」
親友と言う言葉に、国王陛下が殿下に視線をうつすと殿下は嫌そうに首を横に振っていた。
「で?話とは何だ?」
国王陛下が笑顔で続きを促すと、婚約者様は私を睨み付けると私を指差して叫んだ。
「その女と僕の婚約破棄を承認してほしいのです!」
「良いぞ!」
国王陛下の即答にさすがの私も呆然としてしまった。
「それだけか?」
「あ、いや、その……そ、そこに居るユリアス ノッガーと言う女は僕の愛するジュリー バナッシュを苛めていた悪女なのです!」
こいつ、救いようのないアホだ。
「ユリアス嬢、心当たりは?」
「ありません。そんなことする理由がありません」
何故か国王陛下が満足そうな顔をした。
婚約者様の後ろには怯えたような顔のバナッシュさんが佇んでいる。
「ジュリーに何をしたか、覚えていないとでも言うつもりか?学食でジュリーに足掛けをしたり階段から突き落とそうとしたり日用品が買えないように裏から手をまわしたりしていただろう!」
足掛けはしてないし階段から落ちたのは私だし、日用品が買えないように裏から手を………私の店を出禁になっただけでしょ?
ああ、殿下と写真撮りたかったのに出禁で店に入れてもらえなかったのを根に持っているのか。
私は国王陛下に笑顔をむけた。
「身に覚えがありません」
「しらを切るつもりか!」
「ラモール様、私にはバナッシュさんを苛める理由がありません」
「理由なんて、嫉妬に決まっているだろう!」
し、嫉妬?
思わず言葉を失ってしまった。
どれだけアホなんだこいつ。
私は指を鳴らし、執事を呼んだ。
執事は無言で書類を私に手渡した。
「今日、婚約破棄を言い渡される気がしていたのです。私のサインと捺印はすでに記入されています。今すぐこちらにラモール様のサインと捺印をいただければ……そのまま国王陛下に承認していただけると思うのですが、サインしていただけますか?」
私の手渡した書類に執事がペンを婚約者様に差し出した。
執事はすかさず、ポケットから朱肉を取りだし何時でも捺印出来るように準備はOKだ。
婚約者様は何も気にせずにサインと右手の親指で捺印を始めた。
最後の書類にサインと捺印が終ると、婚約者様はバナッシュさんを抱き寄せて国王陛下に言った。
「僕は改めて、ジュリーを婚約者にしたいと思っています!国王様!宜しいですか?」
「………かまわないが……」
国王様は私の方を気まずそうに見た。
「国王陛下、この書類にサインと捺印をいただいても宜しいですか?」
私は至福の笑顔で国王陛下にサインを求めた。
「ユリアス嬢、良いのか?君は嫉妬からあの子を苛めるほどあれが好きだったんじゃないのか?」
私は国王陛下に満面の笑顔をむけた。
「ラモール様は利用価値があると思っていたのですが思った以上に使えないポンコツだったので、もういりませんの!」
私の言葉に会場が凍りついた。
「嫉妬からの苛め?そんなことをする理由どころか、ラモール様に嫉妬などする価値もありません」
私は国王陛下に書類とペンを押し付けて言った。
「邪魔が入る前に早く書類にサインをお願いいたします」
「……解った」
国王陛下が急いでサインを書いてくれ、ラモール様と同様に親指で拇印を押してくれ私は笑みを深めた。
「これで最後です」
「………これで良いかな?」
「ありがとうございます!これで、婚約破棄が完了いたしました」
その時の私の顔は幸せを閉じ込めたように美しかったとお兄様が後で教えてくれた。
「ユリアス!貴様が王子と浮気していたと証拠が上がっている!慰謝料を払え!」
元婚約者様が叫んだ言葉に国王陛下が慌てたように私を見た。
「何を証拠だとおっしゃっているのでしょうか?」
「これだ!」
出してきた写真はあの日の写真だったので私は指を鳴らして執事にポスターを持って来させて国王陛下の前で広げさせた。
「殿下にポーカーで勝ちまして、罰ゲームに私の店でこの手の写真が撮れるイベントに参加して頂いた時の販売促進ポスターでございます!」
「話は聞いている。なかなか良いポスターだな」
「お褒めにあずかり光栄です。こちらからもお見せしたいものがあるのですが、確認していただいても宜しいですか?」
「ああ、勿論」
私は更に執事に記録用魔道具を持って来させ国王陛下に提出した。
直ぐ様、国王陛下がプロジェクターを準備させ皆様の前で再生されたのは元婚約者様とバナッシュさんのイチャイチャダイジェストに毎回殿下の嫌そうな日付と時刻の読み上げがおこなわれる映像。
最後の方にいたっては、殿下の『これ毎回言わされるの俺じゃないとダメなのか?』と言う愚痴まで入っている。
勿論、お兄様も一緒に映ってくれてる物が多い。
身内じゃ証拠能力が薄まるから殿下に頑張ってもらった。
お兄様の存在は二人きりで証拠集めをしていたんじゃないと言う変な勘繰りをされないための予防線だ。
「国王陛下、私とラモール様どちらが浮気をしていたかお解りになれますでしょ?」
「これは………婚約者が居るのにこれとは嘆かわしいな。して、どうするつもりだ?ユリアス嬢」
「勿論、慰謝料請求いたします!」
私の言葉に国王陛下の顔がニヤリと悪い顔に変わった。
ゾクリとするほどの悪い顔だ。
一国の国王がこんな顔して良いのか?
私はこの人を敵にまわしたら駄目だと瞬時に理解したのだった。
王様格好良い。