学食で騒ぐのは感心しません
スランプって嫌だね。
学食で騒ぐバナッシュさんに皆さんの視線が集まる。
見たくないけどバナッシュさんに視線をうつすと、婚約者様とバナッシュさんに睨まれた。
「またお前か!」
婚約者様が凄い剣幕で私に近づき私の胸ぐらを掴んだ。
流石に驚いた。
まさか貴族の男性が女性の胸ぐらを掴むなんて思っていなかったからだ。
理由も解らないのに暴力的に対応をするなんて、どんだけの慰謝料を請求できるだろうか?
「ラモール!自分が何をしているのか解ってるのか!」
殿下の叫びとともに婚約者様は床に押し付けられた。
今まで見たことがないほど冷たい目をしたマイガーさんが婚約者様を取り押さえ、わざわざ顔が床につくようにしているのが解った。
「お嬢に何してる」
マイガーさんの地を這うような低い声にこんな声も出せたのかと呆然としてしまう。
私がそんなことを冷静に考えていると、フワリと誰かに抱き締められた。
お兄様だ。
「ユリアス、大丈夫だ」
お兄様の声にお兄様を見上げると、お兄様は婚約者様を睨み付けていた。
なかなかにお兄様の腕の中は居心地が良かった。
見れば私の手が震えている。
ああ、胸ぐらなんて掴まれたことが無かったから………恐かったのだ。
「お嬢にこんなことしてただですむと思うなよ」
私はお兄様の服を掴むと言った。
「マイガーさんを止めて下さい」
「ユリアス、あいつは…」
私はお兄様にだけ聞こえるように言った。
「慰謝料請求するのに不利になります」
「………マイガー、離してやれ」
「嫌だ」
「マイガー、ユリアスに嫌われたくないだろ」
マイガーさんは暫く考えると婚約者様を離してくれた。
マイガーさんの顔にはまだ怒りが滲んでいたけど…
「ラモール様、私が何をしたと言うんです?」
「貴様がジュリーに何かしたに決まってる!」
何をしたかが解らないのに女性の胸ぐらを掴んだのか?
私はお兄様にギュッとしがみつくと泣き真似をして言った。
「私が、何をしたと言うんですか?」
お兄様の抱き締めてくれる手に力がこもった。
「ラモール様、暫くユリアスに近寄らないでいただきたいのだが………かまわないだろ?」
お兄様は妙な迫力で婚約者様にそう告げた。
周りの人達も蔑んだ目で婚約者様を睨んでいる。
その視線に耐えられなくなったのか、婚約者様はバナッシュさんのもとにゆっくりと帰って行こうとした。
まあ、思っていたよりも近くにバナッシュさんが居たせいでそれも数歩の距離にしかならなかったのだが。
「ユリアスさん、貴女でしょ?」
「………何がですか?」
「小説の内容を変えたの…」
「………小説?」
私は『解りません』といった雰囲気を出しながら首をかしげた。
「私、許さないから………こんな結末……他の読者も許すわけない」
ブツブツと呟くバナッシュさんがなんだか恐い。
「私は小説を書くような文才はありません。言いがかりは……止めて下さい」
出来るだけ怯えたようにバナッシュさんに言うと、周りの人達がこそこそと私が可哀想だと話し出したのが解った。
「バナッシュ、悪いがユリアスは今普通の精神状態ではない。失礼させてもらうぞ。ローランド、行くぞ」
「はい。殿下」
お兄様はわざわざ私をお姫様抱っこすると殿下とマイガーさんを連れだってその場を後にしたのだった。
短めですみません。